家族全員の幸福のために,家族にとって最も適当な数の子どもを,最も適当な時期に適当な間隔で出産するように,妊娠,分娩に計画性をもたせること。単なる産児制限とは異なり,家族計画は〈生まれてくる子どもは,すべて望まれた子どもでなければならない〉という基本理念から出発している。家族計画family planningということばは,大恐慌以後の1930年代から欧米諸国で好んで使われるようになったが,その際にも産児制限(バース・コントロール)の技術より,それを実践する生活態度が強調されていた。家族計画を立てるにあたっては,母子の健康,家庭の経済状態,住宅事情,その他の家庭の個別の事情によって最もよい条件を選んで計画することが望ましいとされている。健康な夫婦が自然にまかせ無計画に妊娠すると,夫婦の希望する子どもの数より多くなるのがふつうである。そのために,妊娠を避ける方法がとられるのが一般的であるため,生まれる子どもを制限することに解釈されがちであるが,本来は不妊症夫婦の治療をも含めて,計画的に妊娠,分娩を行う積極的な意味をもつものである。家族計画を実施するには,必要に応じてある時期には妊娠を防ぐために避妊を実行し,子どもを望むときには妊娠をしやすくするための調節,すなわち受胎調節を手段として用いる。希望しないで妊娠したものに対する人工妊娠中絶や,永久に妊娠しないようにする不妊手術も,家族計画の一つの方法としてあげられるが,受胎調節が最も望ましい。
第2次世界大戦後,日本における人口抑制は,人工妊娠中絶によってその成果を収めた。しかし,その後母性保護,人命尊重の観点から人工妊娠中絶に対して反省がなされ,代わって家族計画指導が活発となり,避妊による効果が着実にあらわれてきた。その背景には文化・教育水準の高いことも指摘されており,家族計画の推進にきわめて有利な状況にあったことも評価されている。欧米などの先進諸国においても家族計画の重要性が強調されて運動は進められ,出生数は著しく減少し,現在では,むしろ少産少死の結果,老齢人口の占める割合の増加が問題となっている。他方,多くの発展途上国においては,近代化以前のきわめて短期間に多産多死から多産少死となり,爆発的な人口増加に食糧の生産や経済の発展が追いつかず,いまや人口増加の調整が経済的発展の前提と考えられている。しかし,これらの国々では医療機関,母子保健従事者が少なく文化・教育の水準も低いため,その普及は困難をきわめ,政府はその対策に真剣に取り組んでいる。
→人口
執筆者:前原 澄子
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
望ましい人口水準の維持や家族生活の安定を目的とし、国家の人口政策や、それぞれの家庭の意向に基づいて夫婦が職業、収入、住宅、年齢などの生活条件や生活目標を考慮して、産児数や出産間隔などを計画的に調節することをいう。近代化した社会では、受胎調節を行って、希望する時期に受胎し、希望する数の子供を出産するよう計画している夫婦が増加した。一部の夫婦は、不妊症のため希望しても妊娠しない場合、治療を受けて、妊娠、出産するよう計画している。
家族計画は、私的な各家庭の生活設計として始まり、社会変化に対応する生活維持・向上運動として普及したが、現在では社会的な人口計画の方法にもなっている。社会の近代化に伴って、人口は「多産少死」型になって急激に増加したので、人口過剰を防ぐために産児制限を主とする家族計画が普及した。しかし「少産少死」型に移行するに伴って、適正人口を維持するための計画出産支援を主とする家族計画政策が重視されるようになっている。発展途上国は「多産少死」の段階にあるため、産児を1人または2人に制限する家族計画政策を実施している。日本を含む先進諸国では、少産・少子化が著しく、人口の減少および超高齢化が予測されるようになったため、人口を横ばい状態(静止人口)に保つことを目的として、家族計画・育児支援政策が拡充されている。
[山手 茂]
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出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
…ただ人口を減少させるのが目的ではなく,人間文化の発展につれて自分の境遇を自分の手で変えていく一つの方法として重要な意義がある。家族にとって望ましいときに子どもが生まれてくるよう,妊娠,分娩に計画性を持たせることを家族計画といい,避妊などにより妊娠の時期を調節することを受胎調節というが,産児制限と必ずしも厳密に使い分けられてはいない。マルサスは《人口論》(第2版,1803)で,過剰人口,貧困の解決策として道徳的抑制すなわち結婚の延期と禁欲による人口の制限を提唱している。…
…このような人口増加率,たとえば年率2.5%あるいは3%を超える高水準増加率が発展途上国の近代化を阻害するものであることが,とくに1963年の第1回国連アジア人口会議を契機として広く発展途上国において理解されるに至った。このようにして,人口増加の抑制を目的とした出生制限のための政策,とくに家族計画が広く世界の発展途上国において採択,実行されていった。
[人口増加率,低下傾向へ]
人口現象自体の変化とこれについての認識や政策との間には,時間的ギャップがみられる。…
…避妊は医学的には〈受胎調節〉と呼ばれることが多く,社会制度上も母体保護法に受胎調節実施指導員の規定がある。似た言葉に〈産児制限〉〈家族計画〉がある。産児制限birth controlの語はかつてよく用いられたが,出産の制限をするというよりも受胎を制限することが目的であり,また〈制限〉の語感には抵抗もあることから,受胎調節の語が用いられるようになった。…
※「家族計画」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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