サンガー(読み)さんがー(英語表記)Margaret Sanger

デジタル大辞泉 「サンガー」の意味・読み・例文・類語

サンガー(Frederick Sanger)

[1918~2013]英国の生化学者。インスリンの構造決定に成功し、1958年ノーベル化学賞受賞。さらにDNA塩基配列の迅速決定法の発明で、1980年再度同賞受賞。

サンガー(Margaret Sanger)

[1883~1966]米国の女性社会運動家。スラム街の多産と貧苦の悪循環を痛感し、産児制限運動を創始。1922年以来、数度来日した。

出典 小学館デジタル大辞泉について 情報 | 凡例

精選版 日本国語大辞典 「サンガー」の意味・読み・例文・類語

サンガー

  1. ( Margaret Sanger マーガレット━ ) アメリカの女性社会運動家。産児制限の提唱者。一九二一年、全米産児制限連盟を設立。五三年、国際家族計画連盟を結成し、その名誉会長となった。著「結婚の幸福」など。(一八七九‐一九六六

出典 精選版 日本国語大辞典精選版 日本国語大辞典について 情報 | 凡例

日本大百科全書(ニッポニカ) 「サンガー」の意味・わかりやすい解説

サンガー(Frederick Sanger)
さんがー
Frederick Sanger
(1918―2013)

イギリスの生化学者。ケンブリッジのセント・ジョンズ・カレッジで学び、ケンブリッジ大学生化学部で1943年学位取得。1951年より医学研究会議(MRC:Medical Research Council)研究員。1962年以来ケンブリッジのMRC分子生物学研究所で研究に従事していたが、1983年に引退。以後研究にはかかわっていない。1945年にタンパク質の末端のアミノ酸残基のα(アルファ)-アミノ基をジニトロフェニル基で標識して末端アミノ酸を決定する方法を発見し、同法を基本に、酸や酵素による加水分解、各種クロマトグラフィー、電気泳動などを駆使して、1955年までに膵臓(すいぞう)のホルモンタンパク質インスリンのアミノ酸配列とシステインのS‐S結合の位置を決定、初めてタンパク質の構造解明に成功し、1958年ノーベル化学賞を受賞。こののち核酸の塩基配列決定の研究をはじめ、32P(トレーサーの一種)で標識したリボ核酸(RNA)を使って構造決定を行う方法を開発、RNA構造決定に広く使われ、1975年には、デオキシリボ核酸(DNA)複製酵素、32Pで標識した核酸基質、DNA阻害剤(2´,3´-ジデオキシヌクレオシド三リン酸)、ゲル電気泳動法を巧みに組み合わせた画期的なDNAの塩基配列迅速決定法であるジデオキシ法dideoxy method(サンガー法ともいう)を考案し、1980年二度目のノーベル化学賞をアメリカのギルバートWalter Gilbert、バーグとともに受賞した。1986年にはその研究上の功績により、メリット勲位(イギリスの文武に殊勲のあった24人に限って与えられる)を授与された。1993年にはサンガーの名を冠したサンガー・センターがケンブリッジに設立されたが、同所は、人間の染色体上にあるDNAの塩基配列を決定するヒトゲノム解析計画のイギリスにおける拠点となった。

[梶 雅範]

『Frederick Sanger, Margaret Dowding edSelected Papers of Frederick Sanger, with Commentaries World Scientific Series in 20th Century Biology, vol.1(1996, World Scientific)』


サンガー(Margaret Sanger)
さんがー
Margaret Sanger
(1883―1966)

家族計画運動(当初は産児制限運動)の提唱者。アメリカ、ニューヨーク州生まれ。小学校教員をしたのち看護学校を卒業、結婚、3児の母となる。ニューヨーク市のスラム街で保健看護師として働くなかで多産と貧苦の悪循環を痛感。避妊についての研究を行い、1914年、産児制限連盟を結成して機関紙『婦人の反逆』the Woman Rebel(のち『産児制限評論』the Birth Control Review)を発刊。1916年ニューヨーク市ブルックリンにアメリカで初めての産児調節相談所(マザーズ・クリニック)を開設。1921年には全米産児制限連盟を設立。当時アメリカでは避妊が禁止されていたので、しばしば逮捕されたが屈することなく、アメリカ国内のみならず海外を広く旅行して産児制限の指導、啓発にあたった。1922年(大正11)各国遊説の途次、来日。日本官憲の妨害にあった。なおその際、山本宣治(せんじ)にも影響を与えている。その後アメリカ家族計画連盟名誉会長就任(1942)、国際家族計画連盟の名誉会長(1952)。1955年(昭和30)に再度来日、日本家族計画連盟発足を祝った。その後も数度来日。『結婚の幸福』(1926)、『わたしの産児制限運動』(1931)、『自伝』(1938)などの著作がある。

[小倉襄二]

出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例

改訂新版 世界大百科事典 「サンガー」の意味・わかりやすい解説

サンガー
Margaret Higgins Sanger
生没年:1879-1966

アメリカの産児制限運動指導者。看護婦学校を終了,結婚し3児をもうけた後,1910年ごろからIWWの労働運動などにたずさわった。ニューヨークのスラム街で看護婦として働くうちに,貧しい女性が多産や中絶で命を縮めるのを見て,女性を救うのは労働運動ではなく避妊の情報であると考え,産児制限運動を始めることを決意。14年,産児制限運動誌《女性反逆者》を発刊し,産児制限birth controlの語も考え出した。しかし当時,避妊の情報はわいせつとみなされ,コムストック法がわいせつ文書の郵送を禁じていたため,サンガーは告発され,ヨーロッパに逃れて1年間,避妊に関する思想と方法を学んだ。16年,ニューヨークに産児制限相談所を開いたが,官憲により閉鎖され,彼女は投獄された。出所後の21年,第1回アメリカ産児制限会議開催にこぎつけ,23年には医師を置いた産児制限診療研究所を開設した。カトリック教会などの強固な反対はあったが,産児制限は支持者を増やし,30年代末までに,産児制限の合法化を獲得し,産児制限相談所も全国各地に開設された。サンガーは運動を国外にも広げ,とくに第2次大戦後は国際的な家族計画運動の指導者となった。日本の人口問題にも関心を寄せ,1922年に訪日したほか第2次大戦後も数回日本に来ている。彼女は今日の世界における産児制限普及の最大の貢献者といえるが,産児制限を女性の肉体的自立としてとらえ,根本的な生物的次元で女性解放を考えた点で,今日のウーマン・リブの先駆者でもあった。
執筆者:

出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報

ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「サンガー」の意味・わかりやすい解説

サンガー
Sanger, Frederick

[生]1918.8.13. レンコム
[没]2013.11.19.ケンブリッジ
イギリスの生化学者。ノーベル化学賞を 2度受賞した。ケンブリッジ大学セントジョンズ・カレッジに学び,1939年に学士号を,1943年に生化学で博士号を取得。1962年に分子生物学研究所の部門長となった。インスリンの修飾されていないアミノ基の同定と定量を試み,インスリンの一次構造を決定した。また,アミノ酸グリシン鎖の配列決定に成功した。1958年,蛋白質の配列を初めて決定した功績によりノーベル化学賞を受賞した。サンガーのグループは,1977年に初めてゲノムの DNA塩基配列を完全に解読し,その後ヒトのミトコンドリアの DNA塩基配列を決定(→デオキシリボ核酸)。この功績により,1980年にポール・バーグ,ウォルター・ギルバートとともに 2度目となるノーベル化学賞を受賞した。1983年に分子生物学研究所を退職。1969年ロイヤル・メダル,1977年コプリー・メダル,1963年大英帝国三等勲功章 CBE,1981年名誉勲位,1986年メリット勲章を授与された。1993年ウェルカム・トラスト・サンガー研究所が創設された。

サンガー
Sanger, Margaret

[生]1879.9.14. ニューヨーク,コーニング
[没]1966.9.6. アリゾナ,トゥーソン
サンガー夫人として世界的に知られるアメリカ合衆国の産児制限指導者。初め看護師としてニューヨークの貧民街イーストサイドに勤めるうち,貧困,多産,母子の高い死亡率が共存するのを見て,産児制限の必要性を確信するようになった。 1914年雑誌を創刊し,家族計画のパンフレットを配布した。 1916年ブルックリンに全米最初の産児制限診療所を開いたが,公安秩序の妨害で逮捕され,感化院で 30日間の労役に服し,また 1929年にもサンガー産児制限診療所が家宅捜査され,書類を押収された。しかし医師やソーシャルワーカーなど支援者が増え,訴訟は却下になった。 1936年には,避妊の文書や器具の使用を風俗壊乱罪にしていた 1873年の風俗壊乱防止法が改正され,患者の生命を救い,健康を保持するために避妊を指示することは,医師の正当な権利であると認められた。 1921年アメリカ産児制限連盟を創始し,1928年まで会長を務めた。 1927年スイスで第1回世界人口会議を開催,1953年には国際産児制限連盟も組織され,初代会長になった。世界各地を遊説し,特に日本やインドをたびたび訪れている。

サンガー
Sanger, Lord George

[生]1827
[没]1911
イギリスの興行師。兄ジョン (1816~89) とともに,奇術ショーやサーカスの興行を行い,1871年にアストリー円形劇場を入手,スペクタクルを上演した。ジョージ卿と自称。

出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報

百科事典マイペディア 「サンガー」の意味・わかりやすい解説

サンガー

米国の女性社会運動家。看護婦としてニューヨークの貧民街で働くうちにその貧困と非衛生の原因が多産にあることを知り,産児制限運動を提唱。1914年birth control(産児制限)の語を考案し,機関紙《女性反逆者》を発行,1916年産児制限相談所開設,1921年産児制限連盟結成,1923年産児制限診療研究所開設。しばしば官憲の弾圧を受けたが,1936年ついに産児制限の合法化を獲得し,米国のみならず世界各国(1922年初来日)を歴訪して終生運動を展開した。1953年,家族計画連盟初代会長。
→関連項目加藤シヅエペッサリー

サンガー

英国の生化学者。タンパク質の構造研究にジニトロフェニル化法を導入して,インシュリンのアミノ酸の配列順序を究明,その化学構造式を決定した。1958年,ノーベル化学賞。その後,RNAおよびDNAのヌクレオチド配列順序決定法を考案し,1977年にφX174ファージの全塩基配列を確定し,1980年再度ノーベル化学賞。

出典 株式会社平凡社百科事典マイペディアについて 情報

化学辞典 第2版 「サンガー」の解説

サンガー
サンガー
Sanger, Frederick

イギリスの生化学者.ケンブリッジの St.John's College に学び,1943年A. Neubergerのもとでリシンの代謝に関する研究で博士号を取得.同年タンパク質構造の研究を開始し,1951年より医学研究会議(MRC)のスタッフとして研究,1962年新設のケンブリッジMRC分子生物学研究所タンパク質化学部長に就任し,核酸塩基配列研究を開始した.長鎖状タンパク質の構造決定法としてジニトロフェニル(DNP)法を1945年に考案.この方法でウシのインスリンの化学構造を明らかにし (1955年),タンパク質の化学構造研究への道を開いた.この業績により,1958年ノーベル化学賞を受賞し,1980年には核酸の塩基配列決定への貢献により,二度目のノーベル化学賞を受賞.1983年に引退.

出典 森北出版「化学辞典(第2版)」化学辞典 第2版について 情報

デジタル版 日本人名大辞典+Plus 「サンガー」の解説

サンガー Sanger, Margaret

1883-1966 アメリカの産児制限運動家。
1883年9月14日生まれ。避妊法を研究し,1921年全米産児調節連盟を設立。大正11年来日し,産児制限運動の普及をめざすが,官憲に弾圧され,社会問題になった。1955年国際家族計画連盟を設立し会長。1966年9月6日死去。82歳。ニューヨーク州出身。

出典 講談社デジタル版 日本人名大辞典+Plusについて 情報 | 凡例

旺文社世界史事典 三訂版 「サンガー」の解説

サンガー
Margaret Sanger

1883〜1966
アメリカの女性産児制限運動家
ニューヨーク貧民街で看護婦をつとめ,産児制限の必要を確信。性医学を学び,1915年産児制限診察所を開いて投獄された。のちしだいに支持を得,1921年にアメリカ産児制限連盟を組織し,世界を遊説してその運動を広めた。

出典 旺文社世界史事典 三訂版旺文社世界史事典 三訂版について 情報

山川 世界史小辞典 改訂新版 「サンガー」の解説

サンガー
Margaret Higgins Sanger

1883~1966

アメリカの産児制限運動家。看護婦として,産児制限が女性の健康と自由を守ることを痛感。1916年に全米初の産児制限クリニックをニューヨークに開き,21年に全米産児制限連盟を創設。産児制限運動をヨーロッパ,アジアにも広めた。

出典 山川出版社「山川 世界史小辞典 改訂新版」山川 世界史小辞典 改訂新版について 情報

世界大百科事典(旧版)内のサンガーの言及

【産児制限】より

M.サンガーが提唱したバース・コントロールbirth controlの訳語で,人為的に妊娠を避け,あるいは人工妊娠中絶などによって人口を制限することをさす。ただ人口を減少させるのが目的ではなく,人間文化の発展につれて自分の境遇を自分の手で変えていく一つの方法として重要な意義がある。…

※「サンガー」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

今日のキーワード

配属ガチャ

入社後に配属される勤務地や部署が運次第で当たり外れがあるという状況を、開けてみなければ中身が分からないカプセル玩具やソーシャルゲームで課金アイテムを購入する際のくじに例えた言葉。企業のネガティブな制...

配属ガチャの用語解説を読む

コトバンク for iPhone

コトバンク for Android