ニュートンの力学とマクスウェルの電磁気学を主柱とする古典物理学が原子の世界で成立しないことがわかったとき,それに代わる理論をさぐりあてるまでの過渡期の道しるべとして,N.H.D.ボーアが1915年ころから提唱した原理。ボーアは,原子内の電子には古典力学の運動法則に従う多様な運動状態の中で量子条件を満たすものだけが許されるとして,これを定常状態と呼んだ。これは量子数と呼ばれる整数(n=1,2,……)で番号づけられるとびとびのもので,水素原子でいうと電子の軌道半径はan=αn2,エネルギーはEn=-β/n2の形になる(αとβは正の比例定数)。定常状態では,運動は初期条件に応じて多様となるという古典力学の特徴が否定されているばかりか,古典電磁気学も否定されている。これが成り立つとしたら電子は光を出してエネルギーを失うから運動は定常とならない。ボーアは,電子が高いエネルギーEmの定常状態から低いEnのそれに跳び移るとき,そのエネルギー差に相当する光量子hν(=Em-En)を出すとして原子から出る光の振動数νを決め(hはプランク定数),原子スペクトルの規則性がよく説明されることを示した。この点でも古典電磁気学は破られている。もし成り立つとしたら光の振動数νは電子の振動数(運動の周期Tの逆数)の整数倍になるはずだからである。しかし量子数nの十分に大きな定常状態では軌道半径anが大きく巨視世界に属するので,古典物理学が回復していなければならない。実際,そこではエネルギーEnは隣りのEn⁻1との間隔がつまり連続に近くなる。また,そのあたりの定常状態nからn-τ(τ=1,2,……《n)に電子が跳び移るときに出る光の振動数は,電子の振動数の整数倍(τ倍)に近づくことも証明される。ボーアの理論は不十分なもので,原子の出す光について振動数しか計算できなかったが,彼は,〈原子の世界の未知の理論は量子数が大きくなると古典理論に回帰するようなものであるはずだ〉として,これを対応原理と呼んだ。原子の発光については,電子は定常状態のどれからどれへは跳び移れるか,あるいは跳び移れないか(選択規則),光の強度や偏りはどうなるかなどの問題が残っていた。ボーアは対応原理を辞書にして古典理論の結果を巧妙に読み直し(例えば微分を差分と読む),これらの問題に一応の解決を与えた。この方法を徹底させてW.K.ハイゼンベルクが1925年にマトリックス力学を創設,これが原子世界の理論である量子力学に発展した。
→量子力学
執筆者:江沢 洋
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
量子論から得られた結果が、それまでの古典論から得られた結果と対応することを述べた原理で、ボーアが1918年ころに提唱し、これによって量子論から導き出す結果をより豊かにすることができた。ボーアは水素原子が放射・吸収する光の振動数を理解するため、いわゆるボーアの原子模型を提唱した。この模型では、古典力学から得られた電子の軌道のうち、電子が実際にとる定常状態を、ボーアの量子条件を用いて選択することができる。この場合、放射・吸収される光の振動数は、電子の定常状態のエネルギーの差をプランク定数で割って求めることができるが、光の強さや偏りを求めることはできなかった。そこでボーアは、定常状態の軌道が大きい極限、つまり定常状態を区別する量子数の大きい極限では、古典力学の結果と彼の模型の結果、すなわち量子論の結果とが一致するものと考え、水素原子内電子の運動によって放射・吸収される光の強さと偏りの古典力学による結果が量子論的な結果に対応するものとした。この場合、放射する光の振動数は彼の原子模型の結果に置き換えられている。この原理は断熱仮説とともに古典論から量子力学発見に至る過程で重要な役割を果たした。ハイゼンベルクは対応原理を指導原理としつつボーアの原子模型から出発して、量子力学の理論の一つの形式である行列力学を発見した。
[田中 一]
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
…彼の手法は後にJ.R.ヒックスやP.A.サミュエルソンらにより一般均衡理論の枠組みにおいても援用可能な形に拡張されるに至った。サミュエルソンは,比較静学の命題が需要関数や供給関数の形状等の市場の安定条件と密接な関係があることに着目し,それを〈対応原理〉と名づけた。 比較静学の命題は与件の変化の前後二つの均衡値のみを比較することによって導出されるが,そこでは新しい均衡点に移る過程の分析,すなわち経済状態が刻々と変化する姿の記述は行われていない。…
…ボーアの理論の核心は,原子が定常状態にある限りは古典力学によって,しかし光の放出,吸収が伴うような場合は量子仮説によって説明されるという点にあった。この新旧の理論をうまく使いわける方法は,のちの対応原理に発展していくものであった。14年,ラザフォードの招請でマンチェスター大学講師として出張,16年帰国してコペンハーゲン大学教授となる。…
…その予兆をシュワイドラーが放射性崩壊に見いだしていたことは前に述べた。
[対応原理]
ボーア=ゾンマーフェルトの理論は,原子の出す光について,その振動数は正しくあたえたが,しかし強度も偏りもあたえることができなかった。ボーアは,たとえば水素原子の場合,電子の軌道が量子数nの増大とともに大きくなり,ついに巨視的となることに注目し,n′=n-τとnの大きい軌道間の遷移で出る光の振動数が,古典電磁気学のあたえる振動数に漸近することを確かめた。…
※「対応原理」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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