六訂版 家庭医学大全科「尖圭コンジローマ」の解説
尖圭コンジローマ
せんけいコンジローマ
Condyloma acuminatum
(直腸・肛門の病気)
どんな病気か
男性の肛門周囲や陰茎、女性の腟周囲に小さな乳頭状のいぼが散在または密集する病気です(図29)。
原因は何か
ヒトパピローマウイルス(HPV)によるSTDとして知られています。80を超える遺伝子型のうち、尖圭コンジローマは6型、11型HPVによるものとされています。潜伏期間は3週~8カ月(平均2.8カ月)です。HPVをもった相手との性行為によって感染し、その70%が発病するといわれています。
海外では、肛門部発症者の多くが、同性愛者か両性愛者であったという報告もあります。新生児を含む小児の肛門部発症の報告例も多数あります。一般に男女比に差はありませんが、肛門周囲発症例においては圧倒的に男性に多いようです。
最近の研究では、尖圭コンジローマ自体の悪性や、女性の外陰部に発生する
10代の若い男女にも尖圭コンジローマが増えていること(尖圭コンジローマの15%)、出産時における産道での感染を思わせる新生児の発病もあります。性風俗の変化に伴い、口唇での発生が欧米を先頭に世界的に増加しています。
症状の現れ方
小さく、やや白っぽい乳頭状
本症の特殊な病変として、巨大尖圭コンジローマ(ブシュケ・ローエンシュタイン腫瘍)が有名です。
検査と診断
肛門部の診察が大切で、視診でほぼ100%診断できますが、紛らわしい時は組織検査をします。女性で
治療の方法
①外科的方法
できるだけ正常な皮膚を残して、ごく一部の皮膚といぼをいっしょに切除し、開放
産婦人科では、炭酸ガスレーザーによる蒸散もよく用いられます。
②抗ウイルス薬軟膏塗布
以前は、フルオロウラシル(5FU)軟膏の塗布が最も広く知られていましたが、創面が潰瘍を作り、疼痛や変形の原因となることがありました。最近はイミキモド軟膏が発売され、病変切除後の再発予防に有効なことがあります。ブレオマイシンの局所注射や軟膏剤の塗布などが有効との報告もあります。
③その他
漢方薬であるヨクイニン(薏苡仁)の内服や、10%尿素含有軟膏(ウレパール)の外用が有効であるという報告があります。
病気に気づいたらどうする
性行為で相手に感染するので、性行為に際してコンドームをつけるなりして、防備を十分にしてください。6~12カ月はパートナーも同時に治療が必要です。早急に肛門専門医または婦人科医、泌尿器科を受診してください。
尖圭コンジローマ
せんけいコンジローマ
Condyloma acuminatum
(女性の病気と妊娠・出産)
どんな病気か
主に性行為によって、ヒトパピローマウイルス(HPV、コラム)が感染して
好発年齢は10代後半~30代前半で、いぼがよくできる部位は外陰・腟・子宮
外陰部の尖圭コンジローマの多くはHPVの6型および11型が発生原因で、がんとの関係はほとんどないと考えられています。
症状の現れ方
HPVの感染が成立するには、皮膚の表層の細胞ではなく基底層の細胞への感染が必要なので、いぼがよくできるのは性行為で表皮に損傷を受けやすい部位です。HPVの潜伏期は3週~6カ月とされています。感染後平均約3カ月の潜伏期間をへて、いぼが形成されます。
症状は、尖圭コンジローマ自体ではいぼが触れたり、
子宮頸部や腟の尖圭コンジローマでは無症状のこともあります。そのため、子宮頸がん検診での細胞診の異常をきっかけに発見されることが少なくありません。
検査と診断
外陰部などに発生する典型的なものは、角化が強く、隆起したいぼの表面が無数の
区別すべき病気として、ボーエン様
治療の方法
外科的切除、電気凝固、冷凍療法、レーザー蒸散などの外科的療法が一般的でしたが、最近イミキモドクリーム(ベセルナクリーム)が外用薬として用いられることが多くなりました。
尖圭コンジローマは再発が多いと主張する専門家もいますが、腟や子宮頸部の病変の制御が不十分な場合に再発するという意見もあります。
病気に気づいたらどうする
外陰部のいぼに気づいた場合は、婦人科への受診をすすめます。
関連項目
子宮頸がん、外陰がん、性行為感染症(コラム)、ヒトパピローマウイルス(コラム)
八杉 利治
尖圭コンジローマ(女性)
せんけいコンジローマ(じょせい)
Condyloma acuminatum (female)
(感染症)
どんな感染症か
ヒト
主に性行為で感染します。性器ヘルペスと並んで、代表的なウイルス性の性感染症です。感染してから発症するまでの潜伏期は、平均3カ月と長いのが特徴です。このウイルスに感染していても無症状のことが多いこともわかっています。
ヒト乳頭腫ウイルスにはたくさんの種類がありますが、16型、18型などは子宮頸(けい)がんの原因に深く関わっていることがわかり、注目されています。
症状の現れ方
外陰部(性器の外側の部分)の粘膜や皮膚面に、先の尖った小さいいぼが多発します。なかには平坦な形をしたものもあります。女性では、腟入口部、大小陰唇、
検査と診断
独特な形をしたいぼなので、外陰部の所見でほとんど診断できます。子宮の入口にできた時は細胞をこすり取ったり、組織を採取して病理組織学的に診断することもあります。最近では、ヒト
治療の方法
従来から凍結療法(液体
治るまでに時間がかかりますが、自宅で治療できる利点があります。
病気に気づいたらどうする
ウイルス性の病気で性行為で感染するため、気づいたら治療するようにしましょう。
尖圭コンジローマががん化することはほとんどないと思われますが、尖圭コンジローマに似た外陰の悪性病変もあるので医師に診てもらいましょう。最近、尖圭コンジローマを予防するワクチンが開発されました。
川名 尚
尖圭コンジローマ
せんけいコンジローマ
Condyloma acuminatum
(男性生殖器の病気)
どんな病気か
生殖器、とくに
原因は何か
性行為によって広まるヒトパピローマウイルス(HPV)6型、11型の感染により引き起こされます。このウイルスに感染した人がすべてすぐに発症するわけではなく、ウイルスが体内に潜んでいるだけの人がかなりいるといわれています。そのため、うつされた相手がはっきりしない場合も多くみられます。
症状の現れ方
陰茎、亀頭の皮膚にできる無痛性の腫瘍です。もろくて軟らかく、乳頭状に発育し、多発するとカリフラワー状を示します。まれには尿道粘膜に生じることもあり、肛門周囲の皮膚や口腔にできることもあります。いったん治療して消えても、ウイルスが皮下に潜んでいて再発を繰り返すことがよくあります。
検査と診断
治療の方法
5FU軟膏、尿素軟膏などの塗り薬も効果があるといわれていますが、一般的には液体
これらの治療によって一時的に腫瘍は消えますが、ウイルスは周囲の皮膚に潜んでいるため20~50%の再発率があると報告されています。
病気に気づいたらどうする
正常の陰茎にも1~2㎜の小さないぼのようなぶつぶつがみられることがありますが、これは治療の必要はありません。
しかし、陰茎にできる
関連項目
岸田 健
尖圭コンジローマ(男性)
せんけいコンジローマ(だんせい)
Condyloma acuminatum (male)
(感染症)
どんな感染症か
尖圭コンジローマはヒトパピローマウイルス6型/11型により引き起こされる性感染症で、このウイルスの16型、18型などは陰茎がんの発生と関連しています(女性では子宮頸がん)。
症状の現れ方
男性では、
検査と診断
尖圭コンジローマはその特徴的な外観から診断が容易ですが、確定診断には病理組織学的診断が必要です。可能であればヒトパピローマウイルスのDNA型を調べることが望ましいとされています。
治療の方法
尖圭コンジローマには自然消失が認められることもありますが、原則的には何らかの治療が必要です。外科的治療と薬物治療がありますが、日本では外科的治療が中心です。近年、イミキモド(ベセルナ)クリームが発売されましたが、これは隔日で週に3回病変部に塗布するものです。コンジローマが消えるまでには時間がかかるため、16週間継続する必要があります。
病気に気づいたらどうする
國島 康晴, 塚本 泰司
出典 法研「六訂版 家庭医学大全科」六訂版 家庭医学大全科について 情報