館
たて
(1) 「たち」「やかた」とも読む。もともと,六位以下の家柄をさしたが,次いでその邸宅をさすようになった。特に平安時代には国司や郡司の邸宅をさしたが,中期以降,地方土豪の武士化につれて,砦など軍備を伴った居所を意味するようになった。山館 (やまだて) ,平館,沼館などがそれである。戦国時代から安土桃山時代にかけて,大名によって改修され,近世の城郭となったものが多い。江戸時代には一国一城令により,館は城に含まれないものとなった。仙台藩では,城砦の種類として,城,館,要害,その他に分けたが,館は城の次に位し,藩主の一族,重臣などの城砦を意味した。 (2) 奥羽,北海道には土城址と呼ばれるものがある。アイヌ語でチャシと呼ばれ,館の一類型を示すが,館とチャシとの関係,チャシの起源には分明でないところが多い。
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
たち【館】
〘名〙
※書紀(720)欽明三一年七月(北野本
訓)「高麗の使者を相楽
(さはら)の館
(タチ)に饗たまふ」
② 貴人の邸宅。やかた。
※万葉(8C後)一七・三九四三・題詞「集二于守大伴宿禰家持舘一宴歌」
※源氏(1001‐14頃)明石「女などは、岡辺の宿に移して住ませければ、この浜のたちに、こころやすくおはします」
③ 貴人を敬っていう語。やかた。
※源氏(1001‐14頃)玉鬘「大弐の御たちの上の、清水の御寺の観世音寺に」
④ 外敵を防ぐのに適当な地形などを利用して造った小規模のとりでや
住居。小さな城。
たて。
※高野本
平家(13C前)八「次日兵衛佐の館
(タチ)へむかふ」
たて【館】
〘名〙
① 防御設備をそなえた豪族の邸宅。多く、関西地方で「たち」というのに対して奥羽地方でいう。
※今昔(1120頃か)二五「鶴脛・比与鳥の
楯等同じく落して、次に
厨川・嫗戸二つの楯に至り囲て」
② 上野国(群馬県)多野郡山名の館というところで産するタバコ。
※俳諧・功用群鑑(1681頃)地「実
(げに)や館
(タテ)は
二葉よりして若たばこ〈吟笑〉」
かん クヮン【館】
〘名〙 貴人や豪族、国司などの宿舎や邸宅。やかた。たち。
※続日本紀‐宝亀九年(778)一〇月乙未「属
二祿山乱
一、常館彫弊」 〔詩経‐鄭風・
緇衣〕
出典 精選版 日本国語大辞典精選版 日本国語大辞典について 情報
館【たて】
(1)東北地方で,周囲に堀や土塁を巡らした防御施設を持つ遺跡を呼ぶ。〈楯〉とも記す。〈城〉とほぼ同義語。(2)中世の城砦的住居。〈たち〉とも。平安中期からの土豪武士の居館は,盗賊や局地的紛争に備え,門・櫓,土塁・堀をもつ半城郭的なもので,堀ノ内(ほりのうち)・土居(どい)・城内(きのうち)とも呼称。鎌倉期以降,城郭化が進み,城郭の同義語としても使用される。また〈やかた〉(屋形とも書く)と読まれ,館主の尊称に用いられ,室町時代には守護大名などの呼称となった。→山城
→関連項目蠣崎氏
出典 株式会社平凡社百科事典マイペディアについて 情報
たち【▽館】
1 国司・郡司などの官舎。
「甲斐国に―の侍なりけるものの、夕ぐれに―をいでて」〈宇治拾遺・三〉
2 貴人の邸宅。やかた。
「ほととぎす―を通してといふ許になくときくにも」〈かげろふ・下〉
3 貴人を敬っていう語。やかた。
「大弐の御―の上の」〈源・玉鬘〉
4 小規模の城塞をなした地方豪族の居所。多く土塁や壕が巡らしてあった。屋敷。たて。
「次の日兵衛佐の―へ向かふ」〈平家・八〉
たて【▽館】
土塁や堀を巡らした住居。規模の小さい城。たち。「衣川の館」
「城郭をかまへず堀一重の御―に御座候事」〈甲陽軍鑑・三九〉
かん〔クワン〕【館】
1 大きな建物。「万博のアメリカ館」
2 図書館・博物館など、「館」と名のつく建物・施設。「館の運営」「館の財産」
出典 小学館デジタル大辞泉について 情報 | 凡例
たち【館】
中世の城塞的居館。古代では鴻臚館(こうろかん)のように,対外使節等の接待・宿泊機能を持つ客舎をいい,〈むろつみ〉とも訓まれた。また国衙・郡家・駅家(うまや)に付属する官人の宿所も館舎と称した。さらに貴人の第宅をも表わし〈たち〉ないし〈たて〉とも訓んだ。この時期までは城・柵・塞と異なり軍事的建造物の意はまったくなかった。 平安中期,関東に蟠踞(ばんきよ)した武士団的土豪の多くは経済的・軍事的重要地点に館を構築し,盗賊や局地的紛争に備えたので,館が城郭と同様の軍事的意味を帯びるようになった。
たて【館】
東北地方では,土塁,空堀などの防御施設をもつ遺跡は,一般に〈たて〉と呼ばれ,その所在に基づいて館山(たてやま),古館(こだて),館(たて)などの地名が各地に数多く残されている。〈たて〉は〈たち〉であり,普通は〈館〉の字をあてるが,〈楯〉の場合もある。その呼び名は古代までさかのぼるものであろう。かつて東北地方の館は,土着民(蝦夷(えみし))が自分たちの集落を取り込む形でつくった防御施設で,律令政府が蝦夷征討のために設置した〈城柵〉に対応するものであるとの見解があった。
出典 株式会社平凡社世界大百科事典 第2版について 情報
世界大百科事典内の館の言及
【道観】より
…中国で,道教の道士が居住して修行し,祭儀を行うところ。治,館,観,庵,宮,廟などともいう。その起源は後漢末に成立した五斗米道(天師道)教団の置いた24治にあるといわれる。…
【屋形】より
…鎌倉期に入ると幕府要人の邸宅や家臣の居所など,身分ある者の邸宅との意が生じた。とくに東国を中心に,地方居住の在地領主(武士)の居館を屋形と表現した記録が多い。南北朝時代に入ると,《太平記》などの軍記文学によって将軍,執事,探題など,武士階層中のとくに有力支配者の邸宅のみを〈屋形〉と記す表現法が初めて生じ,他方,武士一般の居宅は屋形の称を使わなくなった。…
【城】より
…
〔日本〕
〈城〉という言葉には,建物だけをさす用語法もあるが,建物の設けられた一定区画の土地とその防御施設も含めた総体をさす用語法の方が正しい。また,居住施設としての比重の高い館(たて)や環濠集落,あるいは城壁で囲まれた都市を含める場合もあるが,その場合は城郭や城館という語を用いた方がよい。【村田 修三】
【古代】
古代の城柵は7世紀中ごろの天智朝以前の神籠石(こうごいし)と,天智朝に唐や新羅に対する防備のため対馬の金田城,讃岐の屋島城をふくむ九州から大和にまで築いた城,8世紀の怡土(いと)城などの西国の防御的な山城(さんじよう∥やまじろ)と,8,9世紀に東北経営の拠点として築いた平城(ひらじろ)または平山城(ひらやまじろ)に分けることができる。…
【根小屋】より
…中世後期山城(やまじろ)の麓にあった城主の館やその周辺の屋敷地。おもに東国で用いられた語で,後に集落の地名となって根古屋,猫屋などと書かれることもある。…
※「館」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社世界大百科事典 第2版について | 情報