川狩り(読み)かわがり

改訂新版 世界大百科事典 「川狩り」の意味・わかりやすい解説

川狩り (かわがり)

川狩りという言葉は次の2様の意味をもっていた。その一つは川で魚を捕ること,いま一つは川の流れを利用して木材を運ぶ方法のことである。今も方言として残る例がある。前者の例としては埼玉県秩父地方,島根県隠岐などで魚を捕りに河原へ行くことをカワガリという。後者の例では山梨県南巨摩郡,静岡県周智郡,愛知県北設楽(きたしたら)郡,岐阜県の旧吉城郡,奈良県吉野郡,和歌山県日高郡などで木材を搬出するのに単材をいかだに組まずに川流しすることをカワガリと呼んでいる。

以前は山地伐木下流の木材集散地に搬出するには,水上で編束したいかだが利用されたのである。しかし,伐木は山間谷川で直ちにいかだに組まれたわけではない。山で伐(き)った木は枝を払うと谷間に落とし,そこから本流へ運び出すまでには次の方法がとられた。まず水の少ない狭い谷川の水上では単材で流さなければならないが,これを一般にクダナガシ(管流)といった。場所によっては谷川の水をせき,そこにいったん集材してからせきを切って押し流す方法がとられたが,これはセキナガシ(堰流)と呼ばれていた。滋賀県朽木(くつき)谷の安曇(あど)川筋でサルナガシ(猿流)といわれたのは,堆積した単材を鳶口(とびくち)で下流へ押し流すとき,その格好が猿の動作に似ていたからである。このようにしてやっと本流へ運び出された木材は,大雨で水かさの増した直後を見計らい,一気に中流へ押し流した。これをミダレナガシ(乱流),バラナガシ(散流)といったりした。このようにして流された木材を,中流ではアバ(網場)と呼ばれた場所に網を掛け,そこでせき止め集結してはじめていかだに編束するというのがよく見られた川狩りの要領であった。岐阜県白川では川狩りをカワサゲ(川下)とも呼んだが,アバのことをマキ(巻),網をカリアミ(狩網)といったという。狩猟を連想させる言葉であり,あるいは川狩りもここに原初のつながりがあったのかもしれない。ところでこのアバまでの作業を行うものを川狩人夫といい,筏師(いかだし)とはまた別な仲間を組織していたのである。赤石山脈の遠山谷ではヒョウと呼び,多くのアバにこうした川狩人夫が20人,30人と組をくみ,頭目の下に集団生活を営んで荒々しい独得の雰囲気をもっていたという。各組の上にはさらに庄屋という者がいて,仲間全体を差配した。井上鋭夫が指摘したように,新潟県岩船郡の三面川流域でワタリ,タイシと呼ばれた人々が,やはりヒョウといった人々と境遇につながるところがあったのではあるまいか。ワタリが渡(わたり)の意とすると,ヒョウもあるいは漂にもとづく言葉ではなかったかと思われる。ともに非農民的な漂泊生業との関連を暗示する。

岐阜県揖斐郡徳山村(現,揖斐川町)の木流唄(きながしうた)は,数少ない川狩人夫の労働歌として注意されてよい。〈どんどどんどと流れるつだに,ついて行きたい森前へ,川の瀬をさえゆれやゆれや濁る,そばで寝た者あだ名が立たざ〉。この歌を彼らは川狩節と呼んだという。

 さきの遠山谷のヒョウは庄屋との間で賃金清算を行うことになっていた。ドバ(土場)と呼ぶ庄屋の家の土間で集まったので,これをドバ勘定といって,年1回払いを原則とした。したがって長い間には,前借や,中途にも病気・浪費その他で借金して,清算すると無一文の者も多かった。ヒョウたちの俚謡に,〈庄屋たのむも霜枯れ三月(みつき),花の三月(さんがつ)けつ喰らえ〉とあったのも彼らの零細な生活の一端の吐露といえなくはない。

川漁(かわりよう)を方言でカワガリという所のあることはすでに記したが,埼玉県秩父地方や新潟県長岡地方の盆習俗に,やはり盆の14日川漁をして,15日に目上の者に供養することを川狩りといっている。また中世の漁猟税として〈川かり銭〉のことを記した文書がある。川狩りの古意はむしろこうしたことにあったのではなかろうか。
川漁
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世界大百科事典(旧版)内の川狩りの言及

【筏】より

…木材,竹,アシ,皮袋を並べてつなぎ合わせ,それらの浮力を利用するいかだは,沿岸,礁湖,河川,湖などでの漁労活動や運搬の用具として世界の各地に分布する。木製のいかだは,韓国の南海島や済州島ではパルソンとよばれ,漁労や海藻採取に使用されている。7本の丸太の4ヵ所に穴をあけ,そこに細木を通して固定した長さ6m,幅1.5mのいかだで,手すりや座席までついている。南アメリカの大西洋岸でも木製いかだが広く用いられているが,とくにブラジル沿岸ではバルサ材が使われ,速力を増すためにいかだの先端をそり上げて三角形にしたジャンガダとよばれるいかだがつくられている。…

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