差・指・射(読み)さす

精選版 日本国語大辞典 「差・指・射」の意味・読み・例文・類語

さ・す【差・指・射】

[1] 〘他サ五(四)〙 (「さす(刺)」と同語源)
[一] 人や物事を、それと決めて示す。
① 指や物でその方を示す。それと示すために、その方向へ指や物を伸ばす。指さす。
※大鏡(12C前)六「多かりし人の中よりのびあがり見奉りて指(および)をさしてものを申しかば」
② 目あてとしてその方へ向ける。目ざす。
万葉(8C後)一五・三六二六「鶴(たづ)が鳴き葦辺を左之(サシ)て飛び渡るあなたづたづし独りさ寝(ぬ)れば」
徒然草(1331頃)五〇「四条よりかみさまの人、皆北をさして走る」
③ それとはっきり定める。指定する。指名する。
※大和(947‐957頃)一一三「兵衛の尉はなれてのち、臨時の祭の舞人にさされていきけり」
滑稽本浮世風呂(1809‐13)前「見脈にして病を指(サ)す」
④ 派遣するために任命する。また、ある役目に定めて派遣する。
※万葉(8C後)二〇・四三八二「ふたほがみ悪しけ人なりあた病(ゆまひ)わがする時に防人(さきもり)に佐須(サス)
※幸若・いるか(室町末‐近世初)「農夫田舎のわざなれば、庭の夫にさされ、なくなく京へのぼりつつ」
⑤ その人と名を示して、評判する。また、密告する。
随筆戴恩記(1644頃)下「彼御謀叛の御談合の人数にやさされ給ひけん、三井寺まで流され」
⑥ 事実をそれと推測する。言いあてる。
※雑俳・西国船(1702)「取って見しょ・としさいてみや丸頭巾
[二] 手で物を上にあげる。
① 両手であげて持つ。
平家(13C前)一二「其勢百騎ばかり旗ささせて下る程に」
※和英語林集成(初版)(1867)「イシヲ sasu(サス)〈訳〉重い石を手で頭上にあげる」
② かさなどを持って、それで身をおおう。かざす。
※竹取(9C末‐10C初)「飛ぶ車一ぐしたり。羅蓋さしたり」
③ 額などの前に手をさしかける。
日葡辞書(1603‐04)「マカゲヲ sasu(サス)
④ 肩にかつぐ。「駕籠をさす」
[三] 手などを前の方に伸ばす。
① 手や足を前方に伸ばす。
※花鏡(1424)動十分心動七分身「手を指し、足を動かす事、師の教へのままに動かして」
② 碁で、石を置く。また、将棋などで駒を動かす。
※源氏(1001‐14頃)空蝉「碁打ち果てて、けちさすわたり、心とげに見えて」
③ 物さしを当ててはかる。
俳諧・炭俵(1694)上「今のまに雪の厚さを指てみる〈孤屋〉 年貢すんだとほめられにけり〈芭蕉〉」
※桑の実(1913)〈鈴木三重吉〉二五「縦横の寸法を測(サ)して見た」
④ (③から転じて) 箱、たんすなどを作る。
※日葡辞書(1603‐04)「イレモノ ハコナドヲ sasu(サス)
咄本醒睡笑(1628)三「経箱をささせ角(すみ)をとり」
⑤ 手などで押す。また、触れる。
※今昔(1120頃か)二三「成村は前俗衣と喬(そば)の俗衣のかはとを取て、恒世が胸を差(さし)て只絡(からみ)に絡(からめ)ば」
歌舞伎・桑名屋徳蔵入船物語(1770)三「『大切な物を、手さすな手さすな』トいひいひ片付ける」
そろばんの玉を指で押し上げて、数を加える。
※雲は天才である(1906)〈石川啄木〉一「算盤の珠をさしたり減(ひ)いたり」
⑦ 相撲で、相手の脇腹と腕の間に手を入れる。
※相撲講話(1919)〈日本青年教育会〉常陸山、梅ケ谷時代の壮観「立上るや否や直に左を差して褌(みつ)を取り」
[四] 張りめぐらしたり、組んだり、結んだりして設けかまえる。
① 張り渡す。
※万葉(8C後)一七・三九一八「橘のにほへる園にほととぎす鳴くと人告ぐ網佐散(ササ)ましを」
② 庵(いおり)、またはその一部を造る。
※詞花(1151頃)冬・一五〇「いほりさす(なら)木陰にもる月の曇ると見れば時雨降るなり〈瞻西〉」
③ 帯、紐などを結ぶ。
※宇津保(970‐999頃)忠こそ「この帯をさす事、大嘗会・今年の内宴になんさしつる」
曾我物語(南北朝頃)五「手械足枷を入れ、首に綱をさし、土の籠(ろう)にぞこめられける」
④ 弓の弦を作る。
※延慶本平家(1309‐10)四「引かたぬきて弓弦指つきて居たりける所に」
歌謡田植草紙(16C中‐後)晩哥壱はん「わがさいた弦(つる)ならば引かばやわり来ひやれ」
⑤ 矢をつがえる。
[2] 〘自サ五(四)〙 (「さす(刺)」と同語源)
① (射) 光が照ってはいり込む。また、光が照って物に当たる。
※万葉(8C後)一四・三四〇七「上毛野(かみつけの)まぐはしまとに朝日左指(サシ)まきらはしもなありつつ見れば」
※俳諧・続猿蓑(1698)夏「夜涼やむかひの見世は月がさす〈里圃〉」
草木がもえ出る。また、枝が伸び出る。
※万葉(8C後)六・九〇七「滝の上の 御舟の山に 瑞枝(みづえ)(さし)(しじ)に生ひたる 栂(とが)の樹の」
※源氏(1001‐14頃)若菜上「若葉さす野辺の小松をひきつれてもとのいはねを祈る今日かな」
③ 勢いよく立ちのぼる。
④ 潮がみちてくる。
※新古今(1205)雑上・一五五六「わかの浦に月のいでしほのさすままによるなく鶴の声ぞかなしき〈慈円〉」
⑤ 熱、色などが表に出てくる。
※日葡辞書(1603‐04)「ネッキガ sasu(サス)〈訳〉熱がだんだん出てくる」
※行人(1912‐13)〈夏目漱石〉帰ってから「蒼味の注(サ)した常の頬に」
⑥ 火が出る。失火する。
※蔭凉軒日録‐長享元年(1487)一二月二六日「首座寮指火、皆出合撲滅之
⑦ ねむけ、いやけ、ある種の気持などが知らないうちに生じる。きざしてくる。
※咄本・山岸文庫本昨日は今日の物語(1614‐24頃)「じひ心さしこそせずとも、せめて寺参りなり共せうとて参る」
※滑稽本・七偏人(1857‐63)三「直に魔のさすと言なア世の中の当然だから」
※坊っちゃん(1906)〈夏目漱石〉二「いい心持になって眠気がさしたから」
⑧ 姿や影などがちらっと現われる。
※人情本・恩愛二葉草(1834)初「鳥影のさすを見るに付けても」
⑨ さしつかえる。さしさわりがある。江戸時代の遊里などにおいて、先客が既にあって支障がある。
※仮名草子・都風俗鑑(1681)三「少(すこし)もさすあひてはいふにおよばず」
⑩ 手ぬかりがある。油断する。
※歌舞伎・伊達競阿国戯場(1778)三つ目「『何ぞお和物(かず)になるものが』〈略〉『へへさすものぢゃないワイ、大方今夜要らうと思うて』」
⑪ (「気がさす」の形で) 気がとがめる。落ち着かなくなる。
※多情多恨(1896)〈尾崎紅葉〉前「已むを得ず書見は始めたが、気が侵(サ)して読むではゐられぬ」
⑫ ((一)(一)②から転じたものか) 歩いて行く。また、速く歩く。〔名語記(1275)〕

出典 精選版 日本国語大辞典精選版 日本国語大辞典について 情報

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