帝釈峡遺跡群(読み)たいしやくきよういせきぐん

日本歴史地名大系 「帝釈峡遺跡群」の解説

帝釈峡遺跡群
たいしやくきよういせきぐん

東城町と神石じんせき郡神石町を中心に、神石郡油木ゆき町・豊松とよまつ村、甲奴こうぬ総領そうりよう町、岡山県阿哲あてつ哲西てつせい町の広範囲に及ぶ旧石器および縄文―弥生時代の遺跡群。

帝釈石灰岩台地には洞窟・岩陰が無数にあり、日を受けた洞窟・岩陰は夏は涼しく冬は暖かく、原始時代、人々の生活の場となっていた。眼下の川には淡水産の貝や川魚、背後の山にはシカ、イノシシなどが生息し食物も割合豊富であったと考えられる。昭和三六年(一九六一)東城町帝釈始終の馬渡たいしやくししゆうのまわたりで、林道工事のため切取られた崖面から縄文早期の押型文土器破片とともにカワニナカワシンジュガイの貝殻が多数発見され、これが端緒となって発掘調査が始まった。

これまでに発見された遺跡二九ヵ所のうち調査完了または調査継続中の遺跡は、東城町内で馬渡岩陰まわたりいわかげ遺跡(県指定史跡)寄倉よせくら岩陰遺跡(国指定史跡)名越なごえ岩陰遺跡・猿穴さるあな岩陰遺跡・白石洞窟しらいしどうくつ遺跡・猿神さるがみ岩陰遺跡・戸宇牛川とううしかわ岩陰遺跡、神石町内で観音堂かんのんどう洞窟遺跡、油木町内で穴神あながみ岩陰遺跡、豊松村内で堂面どうめん洞窟遺跡、岡山県阿哲郡哲西町で狼穴おおかみあな洞窟遺跡の一一ヵ所を数える。主要遺跡のほとんどは、縄文―弥生時代の長期間にわたり、継続的あるいは断続的に生活の場となっており、同一遺跡から各時期の遺物出土している。

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改訂新版 世界大百科事典 「帝釈峡遺跡群」の意味・わかりやすい解説

帝釈峡遺跡群 (たいしゃくきょういせきぐん)

広島県の北東部,庄原市の旧東城町と神石郡神石高原町の旧神石町にまたがる地域は,中国地方の代表的な石灰岩地帯の一つである帝釈峡として著名であるが,1961年帝釈始終の馬渡林道工事のさい,貝殻や土器の出土することが知られ,これが遺跡群発見の端緒となった。石灰岩の岩陰,洞窟を利用した石器時代の遺跡は,30ヵ所にのぼり,その分布は比婆,神石,甲奴の3郡にまたがり,さらに岡山県側にも広がる。馬渡岩陰,寄倉岩陰,名越岩陰,猿穴岩陰,白石洞窟,牛川岩陰(以上旧東城町),観音堂洞窟(旧神石町),猿神岩陰(神石高原町の旧油木町),堂面洞窟(神石高原町の旧豊松村)などの遺跡が,62年の馬渡の第1次調査以来20年以上におよんで調査中である。いずれの遺跡も縄文時代の各時期の遺物を出土する。とくに寄倉,観音堂の両遺跡では,縄文時代全期間にわたる遺物が厚い層序をもって検出され,中国・四国地方の縄文文化編年の基準となっている。また馬渡では先土器時代から縄文時代への推移の状況が具体的に明らかにされ,観音堂では先土器時代の層から絶滅種の動物遺体が検出された。多量の縄文土器,石斧,石匕,石鏃,石錘などの石器類や各種の骨角製品,装身具類が出土している。石灰岩地帯のため人骨類の保存が良好で,寄倉,名越,観音堂,穴神,猿神,堂面などから出土し,とくに寄倉では縄文後期末から晩期におよぶ五十数体が一括して出土している。
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「帝釈峡遺跡群」の意味・わかりやすい解説

帝釈峡遺跡群
たいしゃくきょういせきぐん

広島県の北東部、庄原(しょうばら)市東城(とうじょう)町地区と神石(じんせき)郡神石高原町一帯は、国の名勝「帝釈川の谷」として知られる石灰岩地帯である。1961年(昭和36)に帝釈馬渡(まわたり)岩陰遺跡が林道工事の際に発見され、その後、石灰岩の岩陰・洞窟(どうくつ)を利用した石器時代遺跡の多数存在することが明らかになった。62年の帝釈馬渡岩陰遺跡の調査以来今日まで、帝釈寄倉(よせくら)岩陰、帝釈名越(なごえ)岩陰、帝釈猿穴(さるあな)岩陰、帝釈白石(しらいし)洞窟、戸宇牛川(とううしかわ)岩陰、帝釈観音堂(かんのんどう)洞窟、帝釈大風呂(おおぶろ)洞窟、帝釈弘法滝(こうぼうだき)洞窟、帝釈穴神(あながみ)岩陰、久代東山(くしろひがしやま)岩陰、豊松堂面(とよまつどうめん)洞窟の各遺跡の調査を継続している。多くの遺跡では、縄文時代全般にわたる遺物が層序をなして出土し、西日本の縄文文化の基準になるとともに、旧石器時代に及ぶものもある。

[潮見 浩]

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「帝釈峡遺跡群」の意味・わかりやすい解説

帝釈峡遺跡群
たいしゃくきょういせきぐん

広島県,帝釈峡の石灰岩地帯に分布する岩陰・洞窟遺跡群。縄文時代から先土器時代の遺物を出土。現在 25遺跡が確認され,そのうち馬渡,寄倉,名越,観音堂,堂面などが調査されている。寄倉,観音堂では,縄文時代全般にわたる土器,石器,骨角器が出土。馬渡では,第4層から有茎尖頭器,石鏃,土器類が出土し,縄文文化出現の様相を示す。また,観音堂第 25層では,長さ 15cmの大腿骨片が出土し,先土器時代の化石人骨として注目されている。

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