年賀,年礼(としれい)ともいい,新年にあたり他の家を訪問して祝賀の挨拶を述べること。またその際の贈答の品をいう場合もある。年始の形式には正式に訪問して饗宴を受けるもの,門礼(かどれい)といい門口や玄関で祝詞を交わすのみで次々と回礼して歩くもの,また総礼,一統礼(いつとうれい),名刺交換会などと称し,回礼を省略化し地域の者が一堂に会して行うものなどさまざまあるが,本来は一族の者が本家に参籠し,歳夜をともに明かして祖霊や歳神を祭り迎える儀式であったといわれている。四国などには,元日の朝早く分家一同が本家の表戸を開けに行く門開きと呼ばれる習俗も残されており,こうした一族の行事が地縁その他に拡張され,村年始といった全戸を回礼する習俗や,また都市にいたっては商家の顧客回りや職場の上司への年始,さらには訪問をいっさい欠いた年賀状の発達などに進展していったものと思われる。なお,年始客の接待に喰摘み,手掛けなどといい,三方にあしらった食物を出し食べるまねをさせる習俗があるが,これもこうした本来の神人共食が形式化したものである。
執筆者:岩本 通弥
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
新年に際しての挨拶(あいさつ)や贈り物のこと。年賀、年礼などともいう。年始は本来、氏神社や本家に集まり、そこで年ごもりをして新しい年を迎える儀式であったといわれるが、現在はもっぱら年頭の回礼を意味している。ムラ年始とかマキウチ年始、あるいはアザレイ(字礼)などといって、村内や近隣への回礼は広く行われていた。分家が本家に出向く本家礼は一般的であるが、カドアケ、カドビラキと称して、分家が元日の早朝に本家の門や戸を開けに行くといった地方もある。回礼にはクイツミ(食積)、テカケ(手掛)といった儀礼が伴う。あらかじめ米や餅(もち)の上に昆布(こんぶ)、串柿(くしがき)、橙(だいだい)、栗(くり)などを積んだ三宝を用意して、回礼の客に手や扇子で触れてもらう風習である。これは客と主側との共食の観念に基づく慣行と解されるが、すでに近世の文献にもみえている。なお、寺の僧の年始回りは4日とか、女性の年始回りは節分までにすればよいなどともいう。新年を祝う贈り物が年玉と重ねられて広く展開したのに対し、回礼は、明治期におこった名刺を送ることや、その後の年賀状の盛行によってしだいに衰退していった。
[佐々木勝]
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