デジタル大辞泉
「春」の意味・読み・例文・類語
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はる【春】
- [ 1 ] 〘 名詞 〙
- ① 四季の一つ。現在では三、四、五月、旧暦では一、二、三月をいう。天文学的には春分から夏至の前日までをいい、二十四節気では立春から立夏の前日までをいう。《 季語・春 》
- [初出の実例]「正月(むつき)たち波流(ハル)の来たらばかくしこそ梅を招(を)きつつ楽しき終(を)へめ」(出典:万葉集(8C後)五・八一五)
- 「今一きは心もうきたつものは、春のけしきにこそあめれ」(出典:徒然草(1331頃)一九)
- ② ( 旧暦では立春と新年がほぼ同じであるところから ) 特に、新年。正月。新春。初春(はつはる)。
- [初出の実例]「正月一日二条のきさいの宮にて白き大袿たまはりて ふる雪のみのしろ衣うちきつつ春きにけりと驚かれぬる〈藤原敏行〉」(出典:後撰和歌集(951‐953頃)春上・一)
- ③ 人生の中で、勢いの盛んな時。得意の時。最盛期。「春を謳歌する」「わが世の春」
- ④ 思春期。青年期。青春。また、その頃の性的感情。「春のめざめ」
- [初出の実例]「ラヴといふことはもう私達にはおしまひですね。春は過ぎましたね」(出典:東京の三十年(1917)〈田山花袋〉九段の公園)
- ⑤ 性欲。色情。また、性行為。「春をひさぐ」
- [初出の実例]「曲々春を促がし句々心を誘ふ」(出典:東京新繁昌記(1874‐76)〈服部誠一〉二)
- [ 2 ] 小説。島崎藤村作。明治四一年(一九〇八)発表。主人公岸本捨吉の教え子勝子に対する実りのない恋愛を中心に、理想と現実の矛盾の中で悩む青年たちの姿を描出した自伝的小説。「文学界」同人たちの青春群像を描いたもの。
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普及版 字通
「春」の読み・字形・画数・意味
春
常用漢字 9画
(異体字)
12画
[字音] シュン
[字訓] はる
[説文解字]
[金文]
[その他]
[字形] 形声
正字はに作り、屯(ちゅん)声。〔説文〕一下に「推なり」と訓し、字形について「日と艸と屯とに從ひ、屯の亦聲」(段注本)とする。屯の声義をとるとすれば、屯を屯の象として、草木初生の時とするものであるが、屯はもと屯頓(ちゆんとん)の意ではなく、衣の純縁(へりぬい)の象である。ただ金文の春の字に(若)の初形に従うらしい形があり、草木の初生を以て春とする考えかたはあったものと思われる。「推なり」は春と双声の訓。〔礼記、郷飲酒義〕に「蠢(しゆん)なり」とするのは、啓蟄(けいちつ)(虫が地下よりはい出す)の意をとるものであろう。卜辞中に四季の名を確かめる資料はなく、後期の列国期の金文に至って、〔越王鐘〕「隹(こ)れ正孟春、吉日丁」のようにいう。
[訓義]
1. はる、はるめく。
2. 蠢と通じ、うごく。
3. わかい、としごろ、なさけ。
[古辞書の訓]
〔名義抄〕春 ハル 〔字鏡〕春 アヲシ・ミヤビト・イヅ・サカエ・ハル・ミル・ミダル
[声系]
〔説文〕に春声として・惷・蠢など四字を収める。は髪(みだれ髪)、惷は〔説文〕十下に「亂るるなり」、蠢十三下は「蟲動くなり」とあり、乱れ動く意をもつ字である。
[語系]
春・惷・蠢thjiunは同声。sjiunも声が近い。また旬・徇ziuenはかがやく、ひろくかがやく意をもつ。春には、この両系の声義を含むようである。
[熟語]
春靄▶・春暗▶・春衣▶・春意▶・春院▶・春陰▶・春雨▶・春暈▶・春▶・春映▶・春栄▶・春影▶・春園▶・春煙▶・春燕▶・春▶・春苑▶・春怨▶・春甕▶・春温▶・春稼▶・春霞▶・春画▶・春臥▶・春海▶・春懐▶・春寒▶・春▶・春閑▶・春▶・春气▶・春▶・春季▶・春祈▶・春期▶・春暉▶・春熙▶・春曦▶・春弓▶・春宮▶・春牛▶・春興▶・春暁▶・春禽▶・春錦▶・春襟▶・春煦▶・春禊▶・春渓▶・春畦▶・春景▶・春月▶・春▶・春喧▶・春工▶・春好▶・春行▶・春紅▶・春候▶・春耕▶・春鴻▶・春江▶・春光▶・春谷▶・春恨▶・春魂▶・春墾▶・春菜▶・春賽▶・春作▶・春蚕▶・春残▶・春山▶・春祠▶・春市▶・春糸▶・春至▶・春祀▶・春思▶・春祠▶・春耜▶・春▶・春寺▶・春事▶・春時▶・春日▶・春社▶・春酌▶・春酒▶・春種▶・春秀▶・春▶・春愁▶・春秋▶・春粛▶・春笋▶・春筍▶・春初▶・春書▶・春渚▶・春墅▶・春曙▶・春▶・春鋤▶・春妝▶・春勝▶・春傷▶・春照▶・春賞▶・春宵▶・春条▶・春情▶・春醸▶・春色▶・春心▶・春岑▶・春信▶・春袗▶・春深▶・春睡▶・春水▶・春▶・春晴▶・春正▶・春夕▶・春雪▶・春節▶・春浅▶・春膳▶・春▶・春早▶・春草▶・春装▶・春霜▶・春儺▶・春▶・春態▶・春黛▶・春台▶・春▶・春旦▶・春▶・春暖▶・春昼▶・春漲▶・春潮▶・春枕▶・春庭▶・春汀▶・春帝▶・春▶・春▶・春霆▶・春泥▶・春天▶・春殿▶・春渡▶・春灯▶・春波▶・春旆▶・春▶・春発▶・春晩▶・春半▶・春婦▶・春風▶・春服▶・春分▶・春暮▶・春坊▶・春望▶・春芳▶・春袍▶・春満▶・春眠▶・春夢▶・春務▶・春霧▶・春▶・春夜▶・春野▶・春▶・春遊▶・春余▶・春陽▶・春来▶・春雷▶・春嵐▶・春闌▶・春巒▶・春流▶・春溜▶・春▶・春霖▶・春令▶・春冷▶・春嶺▶・春麗▶・春▶・春聯▶・春楼▶・春漏▶・春▶・春老▶・春和▶
[下接語]
回春・懐春・季春・熙春・九春・迎春・今春・三春・残春・思春・首春・初春・小春・新春・青春・惜春・早春・探春・遅春・仲春・晩春・暮春・芳春・望春・孟春・陽春・立春・麗春
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春
はる
四季の一つ。冬と夏の間で、立春(2月4日ごろ)から立夏(5月6日ごろ)の前日までをさす。天文学上は春分から夏至(げし)までが春で、気象学上は陽暦の3、4、5月が春である。なお南半球では半年遅れで9、10、11月が春となる。春を三つに分け初春、仲春、晩春を三春という。
季節としての春の特徴は次のとおりである。
(1)しだいに昼が長く、夜が短くなる時期にあたる。
(2)気温はしだいに上昇していくが、単純に上昇するわけではなく、寒暖には一進一退があり、これが「寒の戻り」の現象として知られている。春にはまた冬の名残(なごり)の西寄りの風が吹く。涅槃西風(ねはんにし)、比良八荒(ひらはっこう)、貝寄せなどとよばれる風であるが、これらはいずれも長続きしない。
(3)緯度が高くなると、春と秋の期間は短くなり、夏と冬の期間がしだいに長くなる。このため、高緯度地方ではさまざまな花の開花が、5、6月に集中する。
(4)日本では冬の季節風降雪はやみ、温帯低気圧の通過によって、ほぼ周期的に雨が降るようになる。そして一雨ごとに暖かくなる。
(5)気温と湿度の上昇に伴われ、春の天気には特有の霞(かすみ)、おぼろ、暈(かさ)、煙霧など、地面付近の視程を妨げるような現象がおこる。
(6)サクラなどの開花前線の北上が注目されるのも春の特徴であるが、夏鳥、冬鳥の渡りもこのころである。
(7)冬の間、大陸で発達した高気圧が、春になると一部が分離し、移動性高気圧となって日本付近を東進する。この移動性高気圧とともに大陸の黄土高原からの黄沙(こうさ)(砂)が飛来し、空を黄色に濁らせることがあり、黄砂が名残の雪とともに降ると赤や黒に色づき、そのような雪は雪解けを早めるので、農家の人々には喜ばれる。移動性高気圧が本邦付近を東進するとき、その中心がやや北に偏る(いわゆる北高型)と天気はあまりよくならず、春陰(しゅんいん)の天気となる。これはまた花曇りともよばれる天気である。
(8)春先は山に残雪がみられる。山肌の模様は、残雪の形と、露出した岩を注目する場合があり、ともに春先の農作業開始の目印としている場合が少なくない。
[根本順吉]
四季のなかでも、春・秋は夏・冬よりも重視され、勅撰(ちょくせん)集のほとんどが春・秋の部立(ぶだて)に夏・冬に倍する巻数をあてている。『源氏物語』の六条院(ろくじょういん)では、春・秋の町が南表に位置し、紫の上と秋好(あきこのむ)中宮がそれぞれ春・秋の季節を代表して優劣を競い合い、花散里(はなちるさと)や明石(あかし)の君の住む夏・冬の町は北裏の背後に押しやられている。早くから春・秋の優劣を論じることが、人々の風雅な話題になっていた。四季の意識はすでに『万葉集』から巻8、巻10の四季の雑歌(ぞうか)・相聞(そうもん)という部立にみられ、歌材としては、早蕨(さわらび)、呼子鳥(よぶこどり)、梅、春山、春菜、菫(すみれ)、山桜、春雪、馬酔木(あしび)、桜、鶯(うぐいす)、山吹、霞(かすみ)、春雨(はるさめ)、陽炎(かげろう)、浅茅(あさぢ)、春野、卯(う)の花、藤(ふじ)、葛(くず)、なのりそ(ホンダワラか)などが詠まれている。季節感としては、「月数(よ)めばいまだ冬なりしかすがに霞たなびく春立ちぬとか」(巻20・大伴家持(おおとものやかもち))などに立春の霞のような類型化の萌芽(ほうが)をみる。『古今集』で「春」に関連する語句を拾うと、春べ、春の日、春の夜、春の心、春の調べ、春の行方、春の野、春霞、春の雪、春雨などがあり、春霞や春雨が用例として多い。『古今集』の春の部立には、立春、春の雪、鶯、解氷、若菜、霞、草木の緑、柳、百(もも)ち鳥(どり)、呼子鳥、帰雁(きがん)、梅、桜、花、藤、山吹、惜春などの歌がほぼ季節の進行にしたがって配列され、四季としての春の意識が類型として固定したことがうかがわれる。春と秋とを比較した場合、伝統的には春よりも秋が重視されていた感があるが、『古今集』に至って春と秋とが均等に扱われるようになった、といってもよい。『枕草子(まくらのそうし)』で脚光を浴びた「春の曙(あけぼの)」が歌語として定着するのは『千載(せんざい)集』や『新古今集』になってからのことで、「又や見む交野(かたの)のみ野の桜狩花の雪散る春の曙」(『新古今』春下・藤原俊成(しゅんぜい))などと詠まれている。『古今六帖(こきんろくじょう)』第一・歳時「春」には、春立日(はるたつひ)、睦月(むつき)、元日、残雪、子日(ねのひ)、若菜、白馬(あおうま)、仲春、弥生(やよい)、3日、暮春の項目が掲げられ、これらの歌題が、のちに季題となって継承されていき、日本人の春に対する季節意識の基盤を形成することとなる。
[小町谷照彦]
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春 (はる)
spring
冬から夏への漸移期にあたる季節をいう。春の時期は時代や国または地域により異なる。古代中国では立春(太陽の黄経が315°になる日)から立夏(同45°)の前日までを春と呼んだ。現在の分け方は西欧流のもので,北半球では春分(同0°)から夏至(同90°)の前日までである。慣習上は,北半球では3,4,5月,南半球では9,10,11月が春である。春の気候的特徴は,季節の進行にともなう気温の急上昇である。実際の天候推移に基づいて区分した自然季節の春の期間は地域によりまちまちである。日本の春は初春(3月1日~3月17日),春(3月18日~5月4日),晩春(5月5日~5月21日)に細分される。
執筆者:前島 郁雄
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
春〔絵画〕
イタリア、ルネサンスの画家サンドロ・ボッティチェリの絵画(1482)。原題《La Primavera》。『ラ・プリマヴェーラ』とも呼ばれる。女神ヴィーナスを中心として、左側にヘルメスと三美神、右側に春の女神プリマヴェーラと花の女神フローラ、および西風のゼフュロスを描いたもの。『ヴィーナスの誕生』と並ぶ、ルネサンス期を代表する名画の一つとして知られる。フィレンツェ、ウフィツィ美術館所蔵。
春〔ベートーヴェン〕
ドイツの作曲家L・v・ベートーヴェンのヴァイオリン・ソナタ第5番(1800-1801)。原題《Frühling》。その明るく華やかな曲想から『スプリングソナタ』の名で親しまれている。
春〔モーツァルト〕
オーストリアの作曲家W・A・モーツァルトの弦楽四重奏曲第14番K387(1782)。原題《Frühlingsquartett》。『ハイドン四重奏曲』全6曲中の第1曲。
春〔シューマン〕
ドイツの作曲家ロベルト・シューマンの交響曲第1番(1841)。原題《Frühling》。ザクセン王フリードリヒ・アウグスト2世に献呈。
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春【はる】
天文学では春分(3月21日ころ)から夏至(げし)(6月22日ころ)まで,節気では立春(2月4日ころ)から立夏(5月6日ころ)の前日まで,慣習上は3〜5月をいう。
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春
「はる」という言葉は「万物が発〔は〕る(発する)」「木の芽が張〔は〕る」「天候が晴〔は〕る」「田畑を墾〔は〕る」などの意味を持ちます。天候に恵まれ、希望に溢れる季節を象徴しています。
出典 シナジーマーティング(株)日本文化いろは事典について 情報
世界大百科事典(旧版)内の春の言及
【カリテス】より
…美術では,通例,2人の女神が向かい合う間にもう1人が背を向けて立つ構図が採用され,ヘレニズム期には裸身で表現された。ポンペイの壁画,ボッティチェリの《春》など,古今に名高い作品が多い。【水谷 智洋】。…
【印象主義】より
…しかし,色彩の主観的表現を重視する高村の考え方は,表現主義的傾向が強く,印象派の導入がその後の前衛絵画運動と結びついていった日本の特殊性をよく示している。【高階 秀爾】
【音楽】
印象主義という概念を絵画から借りて音楽に適用したのは,フランスのアカデミーが,[ドビュッシー]の《春》(1887)の批評に用いたのが,最初だったようである。それは《春》における〈色彩性の過大評価と形式の軽視〉をアカデミーが非難するためであった。…
【交響曲】より
…メンデルスゾーンは第3番《スコットランド》(1842),第4番《イタリア》(1833)をはじめ,標題音楽的な雰囲気と色彩豊かな管弦楽法を特徴とする。シューマンは第1番《春》(1841)や第3番《ライン》(1850),第4番(1841,改作1851)などで,ピアノ的な発想と語法を背景として,文学的契機を暗示しながらも純音楽的な動機による統一的造形を打ち出している。 一方,19世紀における標題音楽の概念にとって画期的存在となったのは,フランスのベルリオーズの《幻想交響曲》(1830)である。…
【シューマン】より
…歌曲ではハイネ《[詩人の恋]》(1840),アイヒェンドルフ《リーダークライス》(1840),シャミッソー《女の愛と生涯》(1840)などロマン派詩人の作品に音楽をつけ,詩と音楽の高度の統一,ピアノ部分の充実など,シューベルトの遺産を受け継いで独自のロマン的様式を実現する。 中期は30歳代で,《交響曲第1番春》(1841),《第2番》(1846),《第3番ライン》(1850),1842年に続けて書き上げられた弦楽四重奏曲3曲とピアノ五重奏曲,ピアノ四重奏曲,47年の2曲のピアノ三重奏曲などの室内楽から,オラトリオ《楽園とペリ》(1843),オペラ《ゲノフェーファ》(1849)へと創作の幅を広げ,普遍的作曲家としての名声を確立する。歌曲でもドイツ的に深化された朗唱の様式が実現する。…
【マニエリスム】より
…〈魂は肉体を,肉体は衣を脱ぎすててこそ,はじめて悦びが満喫できるというもの〉(《床入り》)の一節の中で,彼は死に際して魂は肉体という汚れ衣を捨てさるという中世的通念を,裸身と性関係と法悦の比喩からなる恋愛詩に転換させたが,このほかにもペトラルカらの手本にならうと見せて,揶揄(やゆ)と逆説と謎ときの恋愛詩を書いた。フランス文学ではT.A.ドービニェの詩集《春》(1570‐73執筆。1874刊)が筆頭にあげられる。…
※「春」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」