朝鮮、高句麗(こうくり)第19代の王(在位391~412)。正式な王号は国岡上広開土境平安好太王(こくこうじょうこうかいどきょうへいあんこうたいおう)、略して広開土王という。日本では好太王というが、同名の高句麗王がほかに3名いて、固有の王号にふさわしくない。諱(いみな)は談徳あるいは安、号は永楽大王。父は故国壌王。4世紀の高句麗は前半に燕(えん)、後半に百済(くだら)から侵略され、苦難の時期であったが、この王代からふたたび領土拡大を図り、次の長寿王代の最盛期の基礎をつくった。即位当初はなお百済の侵略に悩まされていたが、395年に北方の諸民族を討伐し、百済にも大勝すると、燕(えん)は王に平州牧遼東帯方(へいしゅうぼくりょうとうたいほう)二国王の称号を与え、遼河以東の支配を認めた。396年には水軍を率いて、倭(わ)に従していた百済を討ち、王弟を人質とした。この倭は朝鮮南部ないし北九州の倭とみられる。398年には沿海州地方の碑麗(ひれい)(沃沮(よくそ)地方)を征服し、400年には倭軍に占領された新羅(しらぎ)に5万の大軍を派遣し、これを救うと、倭軍を追って任那(みまな)、加羅(から)に迫った。しかし、安羅(あんら)などに反撃されて北帰した。高句麗軍が南下するのをみて、燕は遼東地方に侵入したが、あまり成果は得られなかった。404年に高句麗は倭軍の反撃を帯方地方(黄海道)で食い止め、以後、漢江下流域の攻防となった。410年には北方の東扶余(ふよ)を服属させた。このように広開土王は、南方の百済、倭、北西方の燕と厳しく対立しながら、朝鮮中央部から遼河に至る地域を確保した。
[井上秀雄]
この王代の詳しい記録が広開土王陵碑文にみられる。この碑は414年に建立され、中国吉林(きつりん)省集安市に現存している。碑石は四角柱の角礫凝灰石(かくれきぎょうかいせき)で、高さ6.3メートル、幅1.3~1.9メートル。碑文の字数は総計1802字(1775字説もある)で、文字の大きさは平均12センチメートル平方。1880年に発見され、84年に日本陸軍の砲兵大尉酒匂景信(さかわかげあき)がその拓本を入手し、参謀本部で解読した。近年この碑文の倭関係記事の改竄(かいざん)、異なった解読、釈文、欠字推定などの問題が提起されている。1980年代に入ると、原碑の研究が中国で再開され、84年7月以降、日本人研究者による原碑の見学・研究も始まった。
[井上秀雄]
『朴時亨著『広開土王陵碑』(1966・朝鮮社会科学院)』▽『李進煕著『広開土王陵碑の研究』(1972・吉川弘文館)』▽『水谷悌二郎著『好太王碑考』(1977・開明書院)』▽『王健群著『好太王碑の研究』(1984・雄渾社)』▽『寺田隆信・井上秀雄編『好太王碑探訪記』(1985・日本放送出版協会)』
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朝鮮,高句麗第19代の王。在位391(392?)-413年。故国壌王の子で,諱(いみな)は談徳。広開土王碑文には〈国岡上広開土境平安好太王〉とあり,好太王とも永楽太王とも呼ばれる。王の治績は碑文に余すところなく銘記されており,朝鮮半島に南進策をとって百済,新羅を連年圧迫し,396年には百済王の弟や大臣を人質にとり,また404年には2国の背後にいた倭の勢力と対戦してこれを潰敗させたという。また西方では395年に燕と戦闘を交え,410年には東夫余とも対抗してこれを討滅し領域を大いに拡張し,在位22年間を通して64城1400村を獲得したと碑文にある。いっぽう内政では,平壌に人戸をうつし,また九寺を建立して,次の長寿王が都を国内城(丸都城)から平壌にうつす基盤を整えた。王は国内城の王墓を守護する守墓人烟戸の制を改め,王が獲得した韓人・穢(わい)人をこれにあて,墓上に守墓人烟戸を銘記した碑を建てるようにした。王の墓は碑に近い太王陵と,後方の丘陵にある将軍塚とみる2説がある。
執筆者:浜田 耕策
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374~412(在位391~412)
好太王(こうたいおう)ともいう。高句麗の第19代王。396年以来4度朝鮮半島南部に遠征し,百済を攻め,新羅を救い,倭の百済援軍を破り,半島の大半を支配下に置いたという。没後2年,国内城(通溝(つうこう))に建てられた陵碑(俗に好太王碑)は,1884年学界に紹介されたもので,四面に王の事跡を記す貴重な史料である。
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