朝鮮古代の新羅,高句麗,百済3国に関する歴史書。1145年に金富軾らが編纂した官撰書。全50巻で,新羅本紀(1~12),高句麗本紀(13~22),百済本紀(23~28),年表(29~31),雑志(32~40),列伝(41~50)よりなる。構成は《漢書》など中国正史に準じ,記事は4世紀後半以後に編纂された各種の民族史料だけでなく,中国史料も多い。三国時代の歴史書は,高麗時代に数回編纂されたが,本書と《三国遺事》のほかはすべて散逸し,本書が現存最古のものとなった。1010年以前編纂の旧〈三国史〉は高句麗史を中心としていたが,金富軾は新羅王室の後裔であったため,三国時代における新羅王朝の正統性と,高麗王朝との密接な関係とを主張した。本書は朝鮮古代の歴史だけでなく,諸文化の研究の基本資料でもある。版本では,末尾の7巻のみであるが,高麗末期刊行の誠庵本が発見された。完本の版本では正徳本が,活字本では朝鮮史学会本第3版(1973)が最良である。
執筆者:井上 秀雄
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朝鮮の新羅(しらぎ)、高句麗(こうくり)、百済(くだら)三国の歴史を記した書籍。朝鮮現存最古の歴史書で、古代研究の基本史料。高麗(こうらい)、仁宗(じんそう)の命を受け、金富軾(きんふしょく)を中心に10名の史官が編修。1145年に進上。これ以前にもいまに伝わらない「三国史」があり、それを基にして補完したものと考えられる。金富軾が新羅系で、新羅中心史観でまとめられたとされるが、三国を対等に本紀で扱っている。本紀は新羅が12巻、高句麗10巻、百済6巻で、新羅の分量が多いのは存続年代からみて当然といえる。ほか年表3巻、地理・職官など志が9巻、金庾信(きんゆしん)、蓋蘇文(がいそぶん)、弓裔(きゅうえい)など列伝が10巻、計50巻からなる。完本としては李朝(りちょう)中宗代(1506~44)に慶州で刊行された木版本が現存最古のもので、その影印本が流布している。
[田中俊明]
『金思燁訳『完訳三国史記』上下(1980、81・六興出版)』▽『井上秀雄訳注『三国史記Ⅰ・Ⅱ・Ⅲ』(平凡社・東洋文庫)』
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高麗の宰相金富軾(きんふしょく)が仁宗の命をうけて,1145年に新羅(しらぎ)・高句麗・百済(くだら)の歴史を紀伝体で編纂した現存最古の朝鮮の正史。50巻。高麗の初期には高句麗を中心とする「旧三国史」とよぶ史書があったが,政治的立場から金富軾は新羅史中心に改編したとされる。固有の史料のほか,中国史書から朝鮮関係記事を多く借用しており,慎重な史料批判が必要。現存最古の刊本は1512年版だが,一部分ながら高麗末期の刊本も伝存。
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