生没年不詳。鎌倉末期より南北朝期の伊勢(いせ)神宮外宮(げくう)(豊受(とようけ)大神宮)禰宜(ねぎ)で伊勢神道(しんとう)の大成者。外宮禰宜度会(村松)有行(ありゆき)の子。1306年(徳治1)禰宜となりしだいに昇進、1341年(興国2・暦応4)一(いちの)禰宜(長官)となって1349年(正平4・貞和5)まで勤めた。家行はその大きな時代の変動期に祠官(しかん)として奉仕するとともに、行忠(ゆきただ)・常昌(つねよし)らに次いで学者としても優れ、『神道簡要』1巻、『類聚神祇本源(るいじゅうじんぎほんげん)』15巻、『神祇秘鈔(ひしょう)』1巻、『瑚璉(これん)集』5巻などを撰(せん)している。なかでも『類聚神祇本源』はその代表作で、神宮古典のほか和漢の諸書を引用して天地開闢(かいびゃく)より天照大神(あまてらすおおみかみ)の出現、神宮の鎮座、神宣、また神道について論じており、本書は後宇多(ごうだ)上皇、後醍醐(ごだいご)天皇の閲覧を受け、北畠親房(きたばたけちかふさ)も一覧しており、南朝へ大きな思想的影響を与えている。また家行は南朝を助け、1338年(延元3・暦応1)北畠顕信(あきのぶ)が義良(のりよし)親王(後村上天皇)・宗良(むねなが)親王を奉じ、親房とともに海路伊勢より東国へ向かう便を図った。1343年(興国4・康永2)には親房が東国より逃れ吉野へ帰るのを助け、1347年(正平2・貞和3)楠木正行(くすのきまさつら)と連絡をとりつつ南勢方面で戦った。このようなことで1349年北朝側より違勅の科(とが)で解却(げきゃく)された。
[鎌田純一 2017年10月19日]
鎌倉末~南北朝時代の神道家。伊勢神宮外宮の祠官度会氏の生れで,父は外宮三禰宜有行。曾祖父の代から度会郡北浜の村松(現,伊勢市村松町)に住んだので,村松家行と称した。1306年(徳治1)外宮禰宜となり,40年(興国1・暦応3)一禰宜に昇進,49年(正平4・貞和5)までその職にあった。神宮では一禰宜を長官と呼ぶので,村松長官ともいった。51年に96歳で没したとする説があるが,正確な生没年はわかっていない。鎌倉時代中期以降,伊勢では度会氏の人々の間で,神宮に伝わる古伝承や深秘の儀礼を再確認し,それを拠り所にした神道説をたてようとする動きがさかんになった。家行は,その中心となった度会行忠に従って,神祇の基本を学び,さらに儒教・老荘の典籍,新旧さまざまな仏典を読み,伊勢神道の教説を集大成した。1318年(文保2)に著した《神道簡要》1巻は,《神道五部書》にはじまる伊勢神道の教説の綱要を簡潔に述べた書であるが,その基礎となる教学を詳細に記したのが20年(元応2)に完成した《類聚神祇本源》15巻であった。家行はこの書で,数多くの文献から抄出した神祇に関する記述を分類編成することによって,神道説の体系化を図ったが,その根本的な主張は同書の〈神道玄義篇〉に要約されている。家行は,神道の究極は清浄にあると説き,絶対的な清浄を,無の中から天地が開闢しようとする瞬間にあらわれるものと考え,それを《旧事紀》にみえる最高神,天譲日天狭霧国禅日国狭霧尊にほかならないと主張する。そして,人間は一心不乱の状態に近づくことによって,心の清浄を得ることができると教えた。
家行は,30年(元徳2)に《神祇秘鈔》1巻を書き,ほかに自説を要約した《瑚璉集(これんしゆう)》5巻を著している。家行の著書は,後宇多天皇,後醍醐天皇をはじめ,公家の間でも読まれた。建武新政が崩れると,南朝勢力の再編のために伊勢に来た北畠親房を援助したが,思想的にも大きな影響を与えたことは広く知られている。
執筆者:大隅 和雄
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生没年不詳。南北朝期の伊勢豊受(とようけ)大神宮の神官。有行の子。1306年(徳治元)禰宜(ねぎ)に補任される。南朝方について,後醍醐天皇の吉野遷幸に尽力し,36年(建武3・延元元)宗良親王を奉じて伊勢国に下向した北畠親房・顕信父子を援助した。40年(暦応3・興国元)一禰宜となるが,49年(貞和5・正平4)北朝方から違勅の科により禰宜を解任された。伊勢神道の大成者として知られ,「類聚神祇本源」「瑚璉(これん)集」「神道簡要」「神祇秘抄」などを著し,親房をはじめ南朝方に大きな思想的影響を与えた。1351年(観応2・正平6)96歳で没したとする説があるが,56年までその活動が確認され没年未詳。
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出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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