引回・引廻(読み)ひきまわす

精選版 日本国語大辞典 「引回・引廻」の意味・読み・例文・類語

ひき‐まわ・す ‥まはす【引回・引廻】

〘他サ五(四)〙
① 引いてまわす。つかんで振りまわす。また、ひっぱって連れていく。あちこちとひっぱり歩く。ひきずりまわす。
※発心集(1216頃か)三「眼をいからして太刀を引まはせば」
② 特に、罪人市中をさらしものにしながらひっぱり歩く。引回しの刑に処する。引き渡す。
梅津政景日記‐慶長一八年(1613)院内銀山籠者成敗人帳「右四人之者、いつれも山中間分まて引廻申候」
③ 幕、布などをまわりに張りめぐらす。また、屏風などをまわりに引きめぐらす。
蜻蛉(974頃)中「幕ひきまはしてとかくするほどに」
④ 身をつつむように着る。からだにまく。
※申楽談儀(1430)能の色どり「女能には、小袖をもながながとふみくくみ、はだぎのねりなどをも、ふかぶかと引まはし」
⑤ まわりを囲む。とり囲む。とりまく。
曾我物語(南北朝頃)五「その山の鹿は、〈略〉渚にくだりて、数をつくしてならびふす、そのひまに、山へせこをいれて、夜ちうにひきまはし」
⑥ 思いのままにする。自分のものにする。取る。
史記抄(1477)一九「東から南の中すぎまでは、越が引まわしたぞ」
⑦ 人を指導する。指図して動かす。とりはからう。
浄瑠璃仮名手本忠臣蔵(1748)三「師直様万事御師範を遊ばされ、諸事を御引逈し下され候故」
⑧ はっきりとした決着をつけないでいつまでも迷わす。状況気持変化などによってふりまわす。
暗夜行路(1921‐37)〈志賀直哉〉四「事件そのものが分らずに引廻(ヒキマハ)されるのは仕方がないが」

ひき‐まわし ‥まはし【引回・引廻】

〘名〙
① つかんで振りまわすこと。ひきずりまわすこと。
② 江戸時代、死罪、斬罪以上の重刑に付加した刑で、刑の執行前に罪人を縛って馬に乗せ、罪状紙幟(かみのぼり)に記し、府内または犯罪地を引きまわして公衆に見せること。
※歌舞伎・桜姫東文章(1817)大詰「おれが内の前は引廻(ヒキマハ)しの立場(たてば)よ」
③ 指導して世話をすること。指図すること。とりはからうこと。
※醍醐寺文書‐(年月日未詳)(室町後)僧堯済カ書状「小法師無御心許存候。可然様御引廻専一候」
④ 身にまとうこと。まわりにめぐらすこと。また、そのもの。
※太平記(14C後)一六「懸る敵の馬の平頸、むながひの引廻(マハシ)、切ては刎ね倒し」
※滑稽本・東海道中膝栗毛(1802‐09)五「こんじまのせんたくしたる、ひきまはしをきて」
⑥ (⑤に形が似ているところから) インバネスマントとんび
※電車の窓(1910)〈森鴎外〉「赤地に白く洗粉の名を出した引廻(ヒキマハ)しのやうな物を着てゐる」
⑦ 能の据え道具の一つ。宮殿草庵などを意味する作り物の、後方を除く前方・左右の三方をおおいかこむ幕。演能の途中で後見が左右から静かにおろし、中のシテまたはツレの姿を見せる。引廻幕。〔日葡辞書(1603‐04)〕

ひき‐めぐら・す【引回・引廻】

〘他サ五(四)〙 引いてめぐらす。まわりにぐるりと引く。ひきまわす。ひきめぐらかす。
※源氏(1001‐14頃)須磨「いとおろそかに、軟障許をひきめぐらして」

出典 精選版 日本国語大辞典精選版 日本国語大辞典について 情報

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