心室中隔欠損症

内科学 第10版の解説

心室中隔欠損症(先天性心疾患)

概念
 左心室と右心室の間の壁(心室中隔)にがあいている先天性心奇形.通常,左心室から右心室への短絡がある.欠損孔の大きさが中等度以上の場合には左心室の容量負荷をきたし,右心室と動脈の圧の上昇により右室圧負荷をきたす.
分類
 右室側の心室中隔を流入部(inlet septum),肉柱部(trabecular septum),流出路(outlet septum),膜様部(membranous septum)の4つに分ける.それぞれの部位の欠損がある(図5-8-8).部位別の頻度は表5-8-2のとおりである.
1)膜様部中隔近傍欠損(perimembranous VSD):
最も頻度が高く2/3を占める.
2)漏斗部中隔欠損:
漏斗部中隔欠損には肺動脈弁直下と漏斗部中央の欠損がある.アジア人に頻度が高く,欧米では少ない.大動脈弁の逸脱とそれによる大動脈弁閉鎖不全を合併することがある.
3)筋性部欠損:
筋性部欠損はアジア人には少ない.欧米では頻度が高く,複数の欠損がある場合にはスイスチーズ型とよぶ.
4)流入部欠損:
流入部に限局した欠損の頻度は低い.流出路中隔が前方に偏位して,洞部中隔とずれが生じたものをEisenmenger 型の欠損とよぶ(ずれが大きくなると肺動脈への通路が狭くなりFallot四徴症となる).流出路中隔が後方にずれると左室から大動脈への通路が狭くなり,大動脈縮窄を合併しやすくなる.
疫学
 大動脈二尖弁を除くと,有意な心奇形のうち最も頻度が高い疾患である.血行動態的に有意な筋性部欠損はアジア人では少ないが,新生児期に心雑音で発見され,その後自然閉鎖する頻度は高い.
病態生理
 左心室から右心室への左-右短絡を生じる.血液酸素飽和度は右心室で上昇し,肺体血流比は1以上となる.欠損孔の大きさで,小欠損,中欠損,大欠損に分ける.①小欠損では左室の容量負荷はないか軽く,肺動脈圧は正常である.肺/体血流比は1.5未満である.②中欠損では左室の容量負荷を認める.右室や肺動脈圧は正常より高いことが多いが,通常,左室圧の2/3以下である.欠損孔の大きさは,通常,大動脈弁口より小さく,restrictive VSDとよぶ.肺/体血流比は1.5以上である.③大欠損では,右室の圧は左室と等圧かそれに近く,肺動脈への血流量は肺血管抵抗で規定される(non-restrictive VSD).心疾患がない場合,肺血管抵抗は生後1~2週で急速に低下する.大きな心室中隔欠損がある場合には,肺血管抵抗は生後2~3カ月で低下してくる.そのため,肺血流は乳児期早期に大きく増大し,症状が出現する.生後から肺血管抵抗が高いままに維持されたり,1歳をすぎて肺血管の収縮により肺血管抵抗がふたたび上昇してくると,肺血流は低下してくる.④中-大欠損で,肺高血圧が持続すると,2歳以降では,器質的な肺血管閉塞病変に進展する可能性がでてくる.肺血管閉塞性病変が進行すると,短絡は両方向性ないし右-左短絡となる.この状態をEisenmenger症候群とよぶ.
臨床
症状
 小欠損では,心雑音のみで無症状である.心雑音は全収縮期逆流性雑音である. 心雑音の場所は,膜様部欠損では胸骨左縁第4肋間に最強部点がある.漏斗部中隔欠損では胸骨左縁第2〜3肋間に最強部点がある. 中欠損では,無症状のこともあるし,乳児期に多少の多呼吸や体重増加不良を認めることもある.収縮期雑音に加え,心尖部に拡張期ランブルを聴取する. 大欠損では,乳児期に多呼吸,体重増加不良,哺乳力低下,などの症状を認める.中-大欠損では,収縮期雑音と,肺血流が増加していればⅢ音と拡張期ランブルを聴取する.Ⅱ音が亢進していれば肺高血圧を示唆する.
検査成績
1)胸部X線:
胸部X線は,小欠損では正常である.中欠損以上では肺血管陰影は増強し,心拡大を認める.肺血管による気道圧迫から肺気腫となる(図5-8-9).肺動脈の拡張による左2弓の突出を認める.
2)心電図:
心電図は小欠損では正常である.中欠損以上では左室の容量負荷所見を認める.QRS軸は正常軸のことが多いが,左軸となることもある.中-大欠損では右室圧に応じて右室の圧負荷所見が出現し,両室肥大所見となる.
3)心エコー:
心エコーでは欠損孔の位置,欠損孔の大きさ,右室圧の推定,左室容量負荷の有無,大動脈弁逸脱の有無,ほかの合併奇形の有無を診断する(図5-8-10,5-8-11,5-8-12).
4)心臓カテーテル検査:
心臓カテーテル検査では,肺体血流比,肺動脈圧,肺血管抵抗,肺/体血管抵抗比を測定し,造影検査を施行する.
 臨床所見で肺血流が増加しており,心エコーで左室容量負荷はあるが肺高血圧はなく,合併奇形がない場合には,カテーテル検査なしで手術できる.肺高血圧を認めても,あきらかに肺血流が増加しており,肺血管閉塞病変が発生しない年齢(通常6カ月~1歳以下)であれば,カテーテル検査なしで手術してよい.
 肺高血圧と肺血管抵抗が高いことが疑われる場合には心臓カテーテルを施行する.具体的には,右室が左室と等圧に近い場合,肺高血圧があるにもかかわらず肺血流の増加が高度でない場合,肺高血圧症例で年齢が6カ月以上の場合,Down症候群で肺高血圧症例,などではカテーテル検査を施行した方がよい.
 肺体血流比が1.5〜2.0以上が手術適応となる.
 肺動脈圧は平均圧が25 mmHg以上のとき,肺高血圧ありとする.大欠損では左室圧と右室圧,肺動脈収縮期圧はほぼ同じとなる.
 肺血管抵抗(Wood単位・m2)の計算は,[肺動脈平均圧(mmHg)−左房平均圧(または肺動脈楔入圧)]/体表面積あたりの肺血流量(L/min/m2)で計算する.左房平均圧(または肺動脈楔入圧)を引いた値を用いることが大切である.体表面積で換算しない1 Wood単位は80 dyn/s/cm5である. 肺血管抵抗の正常値は3 Wood単位・m2未満であるが,10単位・m2以下なら手術できる.また,10単位・m2前後でも,酸素,一酸化窒素,プロスタグランジンI2,またはトラゾリン負荷試験で7単位・m2以下となれば,手術できる.
 造影検査では,欠損の位置が診断できるが,心エコー検査でも位置の診断はできるので,造影検査の意義はあまりない.大動脈弁の逸脱の有無に関しては造影検査は有用である(図5-8-13).
合併奇形
 大動脈縮窄,動脈管開存,僧帽弁閉鎖不全,心房中隔欠損,大動脈弁狭窄などの奇形が合併することがある.Down症候群に合併する心奇形は心室中隔欠損が最も多い.
経過
 小-中欠損では自然閉鎖が高率に起こる.自然閉鎖は1~2歳までに起こることが多いので,無症状で肺高血圧がなければ,1~2歳まで経過観察する.
 漏斗部中隔欠損で肺高血圧がない場合には,(ときに膜様部中隔近傍欠損でも),大動脈弁逸脱が発生することがある.中欠損では大動脈弁閉鎖不全が1~2歳で急速に進行することがある.小欠損では大動脈弁逸脱から大動脈弁閉鎖不全に至る経過は数年〜数十年の幅がある.漏斗部中隔欠損では大動脈弁右冠尖の逸脱,膜様部中隔近傍欠損では右冠尖や無冠尖の逸脱となる. 小欠損で成人期に漏斗部狭窄が進行して,右室二腔症となることがある. 肺高血圧合併例を放置すれば肺血管閉塞病変は進行し,Eisenmenger症候群となる. 手術後の患者で肺高血圧が残存した場合には,手術終了時の血圧が50 mmHg以上,手術後1~2年で60 mmmHg以上の場合には,肺高血圧が進行することがある.
治療
 中欠損以上で手術する.肺体血流比が1.5〜2.0以上が手術適応となる.肺高血圧があるときは生後6カ月以内には手術する.筋性部中隔欠損では心内修復術が困難な場合がある.その場合には,乳児期に肺動脈絞扼術を施行することもある.中欠損ではAmplazter閉鎖栓で,カテーテル治療する試みもなされているが,わが国ではまだ認可されていない.[中西敏雄]
■文献
門間和夫:心室中隔欠損症.臨床発達心臓病学 改訂第3版(高尾篤良,門間和夫,他),pp455-466,中外医学社,2001.
小児循環器学会心奇形形態登録委員会:日本人先天性心疾患形態診断集,pp183-260,1984.

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デジタル大辞泉の解説

しんしつちゅうかくけっそん‐しょう〔‐シヤウ〕【心室中隔欠損症】

心臓の左右の心室の間にある心室中隔と呼ばれる壁に穴が開いている病気。血液が左心室から右心室にもれて再び肺に流れ込むため、肺と心臓に負担がかかる。自然に閉鎖する場合もあるが、穴の大きさや場所によって、手術による治療が必要となる。VSD(ventricular septal defect)。

出典 小学館デジタル大辞泉について 情報 | 凡例

六訂版 家庭医学大全科の解説

心室中隔欠損症
しんしつちゅうかくけっそんしょう
Ventricular septal defect
(循環器の病気)

どんな病気か

 心臓には右心房、右心室、左心房、左心室の4つの部屋がありますが、そのうち右心室と左心室の間を隔てる壁つまり心室中隔に(あな)があいた病気を心室中隔欠損症と呼びます(図15)。

原因は何か

 遺伝性や家族性が認められるものではなく、ある一定の頻度で現れる疾患です。先天性心疾患のなかで最も多い疾患で、全体の約15~30%が本症です(コラム先天性心疾患の頻度 )。

症状の現れ方

 孔の大きさによって、大まかに3つの種類に分けることができます。

 1つ目は、小さい孔の場合ですが、これは無症状であるため手術をしなくても生活の不自由はまったくありません。孔の大きさは一生を通じて小さくなる傾向にあり、とくに2歳までに自然閉鎖することも比較的高率に期待できます。ただし、無症状とはいっても、細菌性心内膜炎(さいきんせいしんないまくえん)の有力な危険因子です。細菌性心内膜炎を起こした場合には高熱、倦怠感(けんたいかん)という症状が現れます。抜歯の際にはその危険性が高まるので、抜歯の1時間前と6時間後に抗生物質を服用して細菌性心内膜炎を予防するようにしなければなりません。

 2つ目は、中等度以上の大きさの孔がある心室中隔欠損症の場合で、生後1カ月ころからミルクの飲み方が悪くなったり、体重が増えなくなったり、呼吸が速く寝汗をかいたり、しばしば気管支炎(きかんしえん)肺炎(はいえん)を繰り返すといった症状が現れます。そのため手術で孔を閉鎖する必要があります。

 3つ目は、心室中隔欠損症だけではなく他の種類の心疾患と合併して現れている場合です。この場合にも一般に他の心疾患と一緒に手術で閉鎖することが必要です。

検査と診断

 通常は心臓の雑音(心雑音)で発見されます。時には、母親が赤ちゃんの胸でザーザーという振動を感じるということから健診で発見されることもあります。胸部X線、心電図や心エコー検査を用いて診断を確定することができます。

治療の方法

 人工心肺装置を用いて心内修復術を行います。つまり、心臓をあけて、孔を直接見ながら外科的にパッチで閉鎖する手術が行われます。

病気に気づいたらどうする

 信頼できる循環器の専門医に相談してください。

 また、手術は必要ないが経過をみましょうといわれている場合や、本症で手術を行った人は、前に述べた細菌性心内膜炎の予防を励行してください。

里見 元義


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百科事典マイペディアの解説

心室中隔欠損症【しんしつちゅうかくけっそんしょう】

右と左の心室の間にある心室中隔に孔があいている疾患で,先天性心臓病の中で最も頻度が高く,他の心臓奇形を合併する例が多い(ファロー四徴症)。多くは左心室から右心室へ酸素化血液が直接流れこみ,肺血流量が増し,肺高血圧症や心不全が現れる。心雑音が顕著なため,乳児期に発見されることが多いが,生後1〜2年で自然閉鎖する例がしばしばみられる。肺高血圧症や心不全をきたす重症例は早期に手術するが,それ以外は小学校入学ごろまで経過をみることが多い。細菌感染により心内膜炎をひき起こすことがあるので,予防が必要。

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典の解説

心室中隔欠損症
しんしつちゅうかくけっそんしょう
ventricular septal defect

胎生期の障害によって心室中隔に欠損部が生じ,左心室から右心室に血流が短絡して,肺血流量が増加する状態をいう。先天性心疾患のうち最も頻度が高く,他の異常を合併することも少くない。欠損が小さい場合には5歳ぐらいまでに自然閉鎖することがある (全体の約 20%) 。欠損が大きい場合はうっ血性心不全,肺高血圧などを呈するので,早期の手術が必要となる。なお,肺高血圧があり,欠損を通して右→左方向の短絡を生じ,チアノーゼを示すアイゼンメンゲル症候群の場合には,手術はできない。

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