奈良時代に現福岡県糸島市の旧前原市の高祖山に築かれた山城。唐の安禄山の乱が伝えられ,新羅の征討が計画される緊迫した状況の中で756年(天平勝宝8)に兵法家としても知られる大宰大弐吉備真備(きびのまきび)を専当として起工された。763年(天平宝字7)にほぼ成り,765年(天平神護1)には大弐佐伯今毛人(さえきのいまえみし)を築怡土城専知官とし,768年(神護景雲2)に完成した。山頂から山麓にかけての西斜面に方15町(約1.6km),面積約284haという広大な城域を占め,現在までに4ヵ所の望楼跡をはじめ,土塁,城門,水門,礎石建物などの遺構が知られているが,構造的には朝鮮式山城である大野城,基肄(きい)城とは異なり,大陸式山城とされる。ここからは糸島地方の要地を一望でき,北山麓の周船寺は大宰府の船舶をつかさどった主船司の駐在地であった。中世に原田氏が高祖山頂に拠ったため怡土城時代の遺構の残存状況は必ずしも良くないが,1938年に国史跡に指定された。
執筆者:倉住 靖彦
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福岡県糸島(いとしま)市高祖(たかす)山(標高416メートル)にある奈良時代の山城(やまじろ)遺跡。日本と新羅(しらぎ)の関係悪化に伴い、756年(天平勝宝8)大宰大弍(だざいのだいに)吉備真備(きびのまきび)の建議により築城を開始。759年(天平宝字3)藤原仲麻呂(なかまろ)政権下で立案された新羅征討計画において、新羅侵攻の前進基地の役割を与えられ、763年にいちおうの完成をみた。その後も新羅との緊張関係に備える防衛拠点として専知官佐伯今毛人(さえきのいまえみし)を中心に工事が継続され、768年(神護景雲2)に完成した。1937年(昭和12)に行われた調査によると、城は高祖山の西斜面に広がる扇形の地形を利用して築城されており、敵襲を受けても容易に城内を見通せる構造であることから攻撃的性格の強い城といわれている。山頂から糸島半島を望む北側稜線(りょうせん)には5か所の望楼跡、また南北を結ぶ斜面前方には土塁が築かれ、その途中には城門、水門などが設置されている。そのほか数棟の礎石建物跡も確認されている。38年国の史跡に指定された。
[酒寄雅志]
『日本古代文化研究所編「怡土城阯の調査」(『日本古代文化研究所報告 6』所収・1974・吉川弘文館)』
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福岡県糸島市にある古代の山城。対新羅(しらぎ)関係が緊張するなか,756年(天平勝宝8)大宰大弐吉備真備(きびのまきび)を専当官として築城が開始され,真備の転出後は765年(天平神護元)大弐佐伯今毛人(いまえみし)が専当官となって768年(神護景雲2)に完成した。標高416mの高祖山(たかすやま)の西斜面に,東は山頂の稜線,北は尾根,南は谷,西は山裾を境とし,西麓に約1.6kmの石塁を築いた。城の全周は約6.5km,面積は約280ヘクタール。北辺に5カ所,南辺に3カ所の望楼(ぼうろう)があったが,築城法は大野城をはじめとする朝鮮式山城と異なり,大陸式山城とされる。城跡は国史跡。
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…神籠石の構築年代については,6世紀の筑紫君磐井(いわい)の乱を契機とする説から,7世紀後半説まである。8世紀の吉備真備(きびのまきび)築城による怡土(いと)城は,九州型神籠石に縄張は似るが,稜線に多数の楼閣を設けた中国式のものであった。 山頂に郭を構えた山城は,すでに11世紀に始まる東北地方の争乱にみられる。…
…また,居住施設としての比重の高い館(たて)や環濠集落,あるいは城壁で囲まれた都市を含める場合もあるが,その場合は城郭や城館という語を用いた方がよい。【村田 修三】
【古代】
古代の城柵は7世紀中ごろの天智朝以前の神籠石(こうごいし)と,天智朝に唐や新羅に対する防備のため対馬の金田城,讃岐の屋島城をふくむ九州から大和にまで築いた城,8世紀の怡土(いと)城などの西国の防御的な山城(さんじよう∥やまじろ)と,8,9世紀に東北経営の拠点として築いた平城(ひらじろ)または平山城(ひらやまじろ)に分けることができる。 天智朝の百済人の指導による築城は,実戦的に防御正面に急峻な地形を選び,その背後に山稜がめぐる谷をとりいれた楕円形の平面をもち,山稜を石垣や土塁でつないでその間に数ヵ所の城門を配している。…
※「怡土城」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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