悪婆(読み)アクバ

デジタル大辞泉 「悪婆」の意味・読み・例文・類語

あく‐ば【悪婆】

心のよくない老女意地の悪い老女。
歌舞伎役柄一つで、悪事を働く中年女の役。毒婦性格をもつ。生世話きぜわ狂言を特色づけた役柄で、扮装演出にも定型がある。

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精選版 日本国語大辞典 「悪婆」の意味・読み・例文・類語

あく‐ば【悪婆】

  1. 〘 名詞 〙
  2. 心のよくない老女。意地の悪い老女。
    1. [初出の実例]「おらが所(とこ)の悪婆(アクバ)は、ホンニホンニいびいびこごとの本家だらうぞ」(出典:滑稽本・浮世風呂(1809‐13)二)
  3. ( 形動 ) ひどくたちの悪い性質。また、そういう女。女性をののしって呼ぶ語としても用いる。
    1. [初出の実例]「あまならば河が聞いて呆(あき)れるワ、とんだ悪婆だ」(出典:歌舞伎・彩入御伽草(1808)小平次内の場)
    2. 「なんぼ悪婆(アクバ)なわたしでも、今迄世話になったと思やあ、いい心持はしないのさ」(出典:歌舞伎・木間星箱根鹿笛(1880)三幕)
  4. 歌舞伎の役柄の一つ。女形で悪事を働く中年以上の役。束ね髪に広袖の半纏(はんてん)を着るなど、扮装に定型があった。
    1. [初出の実例]「こいつはお姫様の中へ、悪婆を等分に浚ひ込んだから」(出典:歌舞伎・桜姫東文章(1817)大詰)

あく‐ばば【悪婆】

  1. 〘 名詞 〙
  2. あくば(悪婆)
    1. [初出の実例]「大変な悪婆(アクババ)ですまないね」(出典:伸子(1924‐26)〈宮本百合子〉三)
  3. 人形芝居の人形に使う婆(ばば)かしらの一つ。顎(あご)を少し突き出して、意地の悪い目つきをしたもの。「明烏」の遣手おかや、「桂川連理柵」の帯屋の婆、八百屋の婆などに用いる。わるばば。

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改訂新版 世界大百科事典 「悪婆」の意味・わかりやすい解説

悪婆 (あくば)

歌舞伎の女の役柄の一つ。現代でいう毒婦,妖婦といったタイプの役柄である。女だてらに刃物を振り回したり,悪事を働いたりする女の役。江戸中期以後,文化が爛熟頽廃してきた時代にこの役柄が生まれた。その初めは,4世岩井半四郎が演じた三日月お仙だといわれ,それ以後,5世半四郎の土手のお六,3世尾上菊五郎のうんざりお松,坂東志うかの鬼神のお松,3世沢村田之助の切られお富,沢村源之助の女定九郎などの当り芸が輩出した。原則として〈馬の尻尾〉という鬘に格子縞の着付,半纒を着たいなせな姿で,江戸前なたんかをきる演出が定着している。いかにも江戸の洗い上げた美学がその頽廃の果てに生んだ産物である。
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世界大百科事典(旧版)内の悪婆の言及

【変装】より

…このような作品に共感し,またおそらくそういった作品を無言のうちに要求してもいたであろう当時の江戸庶民の心情,あるいはその社会の〈集団意識〉は,まことに興味深いといってよい。 さらに,女方の中には〈悪婆(あくば)〉というキャラクターができ,妖婦・毒婦役の代名詞にもなった。これはいわば女性の中にある男性的要素を拡大した一面があり,歌舞伎のみならず近代の日本映画にも継承されている。…

※「悪婆」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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