トゥキュディデスが,アテナイと,スパルタを中心とする反アテナイ陣営のポリスとの間で戦われた,いわゆるペロポネソス戦争(前431-前404)をつづった歴史記述。自身の目前でおこなわれた大事件の記録をみずから取り,かつひとつの全体に構成していった,言葉の本来の意味における同時代史である。8巻から成り,開戦に至るポリス間の交渉から,前411年の途中までが描かれており,未完。叙述する事件をかなり厳格な編年体という枠の中で構成したこと,情報収集に対する態度,行為の因果関係を見つめる鋭い視線などから,近代的な意味での歴史記述としての評価もきわめて高いが,《戦史》の価値はこれに尽きるものではない。彼の文体,戦争行為をみつめる態度,叙述を組み立ててゆく方法には,ソフィスト,ヒッポクラテス派医学,アッティカ悲劇などの影響がかなり顕著にみられることは,つとに指摘されてきたことである。《戦史》は,これら古典期ギリシアの知的産物を高度に身につけたひとつの知性が,文化的発展を支えてきた力そのものの,力の論理それ自体による崩壊の場面に直面し,おのが知性のすべてを挙げてその事態の真の姿の究明に努めた記録でもある。古来名高い彼の文章の難解さ,異様さは,おそらくこの知性が置かれた場所の特異さに由来している。また,《戦史》の要所に置かれた直説話法による演説,とくにペリクレスとヘルモクラテスのそれは,古代ギリシアの政治的知性の頂点を表現したものでもある。
執筆者:安西 真
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…晩年や没年については不詳。主著《戦史(歴史)》8巻は553年までの東ローマ帝国の戦役を伝えるもので,ベリサリオスへの肩入れは否めないにせよ,プロコピウスは客観的記述を心がけており,当時の軍事・外交史を知るうえで第一級の史料である。これに対し,彼の作とされる《秘史》(550ころ)はユスティニアヌス帝に対する悪意に満ちた攻撃文で,事実関係を知るうえでは信頼できないが,当時の宮廷社会をかいま見せて興味深い。…
…古代ギリシアの代表的歴史家の一人。ペロポネソス戦争を扱った未完の史書《戦史》の著者。オロロスを父としてアテナイの権門に生まれる。…
…古代ギリシアにおける農事暦的な基礎知識は一般市民の共有財であると同時に,ヒッポクラテスなどの医学者が風土病や季節ごとの変り目に生ずる疾患を扱う場合にも重要な資料となっている。また前5世紀末の歴史家トゥキュディデスの編年体(《戦史》)の準拠する四季の巡回も,春の穀物生育過程(〈麦の穂の熟れたころ〉のように)によっているが,これは戦争もまた農事暦を顧みて実行されていたことを告げている。 初期のローマにも農事暦が存在していたことは,大カトー(前2世紀)の《農業論》の随所にうかがわれる。…
※「戦史」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
〘 名詞 〙 年の暮れに、その年の仕事を終えること。また、その日。《 季語・冬 》[初出の実例]「けふは大晦日(つごもり)一年中の仕事納(オサ)め」(出典:浄瑠璃・新版歌祭文(お染久松)(1780)油...
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