改訂新版 世界大百科事典 「所有と経営の分離」の意味・わかりやすい解説
所有と経営の分離 (しょゆうとけいえいのぶんり)
一般に,単一または少数の資本所有者による経営支配から,資本所有者が分散し,経営者職能を専門にする者に経営をゆだねられた,いわゆる専門経営者による経営支配へ移行する過程をいう。〈所有〉は資本の所有の意味なので,〈資本と経営の分離〉ということもある。
企業の規模が小さいころは,資本所有者は同時に経営の支配者でもあったが,市場の拡大,企業規模の拡大に伴って巨大な資本調達が必要となり,企業は譲渡可能な株式を発行した。それによって資本を広く外部から調達することが可能になった。分散した資本所有者の大部分が小株主であり,彼らのおもな関心は配当であり,経営への支配にはこだわらなくなった。これがいわゆる株式の分散という現象である。が,一方ではこの小株主は自己の持分に相応の議決権を株主総会を通じて保有するため,完全な所有と経営の分離とはいえないという説もある。
しかし,多くの株主たちは資本の分散が進めば進むほど,経営職能にすぐれた能力をもつ専門経営者に経営を委託し,より大きな配当を期待するようになるのである。よって,株式の分散が進めば企業所有者であっても資本の所有割合は相対的に低くなり,経営能力をもたなければ経営支配から遠ざかり無機能資本家になってしまう。また,経営能力さえあれば少額株主であっても,あるいは株式を保有していなくても専門経営者として株主から委託されて経営を支配することができるのである。通常の取締役会が受託経営者と呼ばれるのは,このためである。この点について,A.A.バーリとG.C.ミーンズの研究(《近代株式会社と私有財産》1932)が有名である(〈経営・経営管理〉の項参照)。
日本の大企業においても,所有と経営の分離が実証されており,企業の行動パターンに以下のような変化をもたらしているとされている。(1)企業経営における意思決定の主体は株主ではなくなり,株主・経営者・従業員・顧客などが対等な関係におかれるようになった。(2)専門経営者は,企業の存続と成長を図ることを専門の職能とする立場におかれ,企業の参加者(株主・経営者・従業員・顧客など)へ対する誘因と彼らからの貢献とのバランスを図る能力が切に要求されるようになる。(3)資本所有者は企業の利潤から配当を受け取る立場におかれ,企業目的としての利潤極大化原則は希薄になってきた。
執筆者:辻村 宏和
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報