行政(職員、機関)が法律のルールどおりに行動しない場合や、国民の権利・利益ないし自由を侵害する場合に、原状回復、侵害の防止、法律上期待される一定の行動などを行政に義務づけたり、生じた損害や損失について被害者に金銭上の填補(てんぽ)を与えることをいう。広く行政争訟、国家賠償、損失補償の制度がある。
行政争訟は行政活動をめぐって国民と行政との間に生ずる紛争を裁く制度である。裁く機関が行政権内部にあるときを行政不服申立て、それが行政権から独立した裁判所であるときを行政訴訟という。前者は行政不服審査法により、後者は行政事件訴訟法により定められている。行政活動がなされてしまったとき、その取消し、すなわちその行政活動がなされなかった状態への原状回復を求めるのが原則的な形態であるが、行政庁に一定の許認可等の申請をしたにもかかわらず返答がないときは、不作為にかかる不服申立てや不作為の違法確認訴訟が認められている。さらに、裁判手続により行政庁に対し許認可等をせよといういわゆる義務づけ訴訟については、従来、規定がないため、その適法性に争いがあったが、2004年(平成16)の行政事件訴訟法改正(2005年4月1日施行)により認められた。また、この改正により、行政庁がまさに違法な処分をしそうなときについても、差止(予防的不作為請求)訴訟が明示的に導入された。
違法な行政活動により損害を被った者は上の原状回復を求めることもできるが、原状回復を求めない場合や、それでは償いえない損害を被った場合、あるいは原状回復が不可能なときは、違法行為をした公務員の属する行政主体(国、都道府県、市町村等)に対して損害賠償請求をすることができる。国家賠償法はこれにつき過失責任の原則をとっている。
公共の利益のために国民の財産を強制的に取得したり、これに大幅な制限を加えた場合にその損失を填補するのが、適法行為による損失補償である。土地収用法による不動産の取得や古都保存法等による土地利用の厳重な制限がその例である。これは憲法第29条3項に基づく。
このほか、行政が違法にかつ無過失で国民の権利・利益を侵害した場合については、上のいずれの制度でも救済が得られない。こうした国家責任の谷間については、結果責任や危険責任として被害者を救済しようとする立法的・解釈的努力がなされている。たとえば、起訴されたが、結果として無罪であった冤罪(えんざい)の場合、起訴当時起訴するに価するだけの証拠があれば違法ではないが、結果として不当である。これについては、拘束されている期間に限り刑事補償法による補償がある。しかし、損害賠償と違って安く算定されているし(1日1万2500円以下)、保釈されている間は被告人として重大な不利益を受けているのに補償はない。
理論的には国家賠償、損失補償、結果責任を国家補償という上位概念のもとに統一する方向にあるが、その帰趨(きすう)は必ずしも明らかではない。
[阿部泰隆]
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