核反応の一種。入射粒子aが標的核Aに捕獲されて残留核Bができるとともに,余分なエネルギーがγ線(光子)として放出される現象(a+A→γ+B)で,A(a,γ)Bと書き表される。入射粒子としては中性子n,陽子p,α粒子などの場合がある。他の核反応におけると同様に,大別して三つの反応過程を通して起こる。例えば中性子の放射性捕獲(単に中性子捕獲neutron captureともいう)A(n,γ)Bの場合,(1)入射中性子nが標的核Aのまわりの束縛軌道に入って残留核Bを形成すると同時にγ線を放出する直接捕獲,(2)nがAに捕獲されて比較的簡単な複合系をつくった後,その複合系がγ線を放出して最終状態になる半直接捕獲,(3)nがAと一体になって複合核を形成し,その複合核がγ線を放出して最終状態になる複合核捕獲の三つである。第3の過程では,入射中性子のエネルギーが複合核状態のエネルギーにほぼ等しいときだけ複合核がつくられ,大きな確率で中性子捕獲が起こる。とくに,中性子の速度が遅いときには,複合核状態のエネルギー幅が隣り合う状態間のエネルギーに比べて狭いので,捕獲の確率は入射エネルギーが変わるとともに激しく変動する。これを共鳴捕獲(または共鳴吸収)という。遅い中性子が質量数100以上の原子核と衝突するときには,他の核反応に比べて中性子捕獲がもっとも起こりやすい。
さまざまな粒子の放射性捕獲は原子核の構造を調べる有力な手段の一つになっているが,中性子捕獲は応用のうえでもきわめて重要である。原子炉の中の中性子を物質に照射することにより,いろいろな人工放射性物質が製造されているが,その多くは中性子捕獲によるもので,例えば,原子炉の中にコバルトを置けば中性子捕獲によって放射性同位元素コバルト6060Cができる。また原子炉の中で核分裂の連鎖反応が起こるかどうかについても,中性子捕獲は重要な鍵を握る。ウランなどの核燃料が1個の中性子を吸収して核分裂すると2~3個の中性子を放出するが,これらの中性子が次の核分裂を起こすまでに1個以下に減ると,連鎖反応は起こらない。中性子捕獲,とくに共鳴捕獲はこの中性子数を減少させ,連鎖反応を妨げる。核分裂連鎖反応の進行速度を制御する制御材としてホウ素やカドミウムが用いられるが,そのおもな理由は,これらの元素による中性子捕獲の確率が非常に大きいことにある。
なお,放射性捕獲は太陽やこれに類似した恒星の巨大なエネルギー源に関係している。これらのエネルギーは,水素の原子核(陽子)4個からヘリウムの原子核がつくられる際に放出されるものであるが,その過程で重陽子2Hや炭素の原子核12Cなどによる陽子捕獲が重要な役割を果たす。また宇宙における元素の起源の問題でも重要である。鉄より重い元素の生成には,一連の中性子捕獲とそれに続くβ崩壊が主役を演じている。
→核反応
執筆者:寺沢 徳雄
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
原子核が中性子やα粒子などを捕獲した場合,第一段階として両者が合体し複合核となり,核は励起状態となる.この励起エネルギーを放出する方法には,中性子,α粒子,そのほかの粒子を放出する方法や,γ線として放出する方法がある.とくにγ線が放出される捕獲の場合を放射性捕獲という.
出典 森北出版「化学辞典(第2版)」化学辞典 第2版について 情報
…これら2種類の反応は発熱反応で,放出される大きなエネルギーが動力などに利用される。原子力に関係深いもう一つの反応に放射性捕獲がある。入射粒子が標的核に吸収され,余分なエネルギーがγ線(光子)として放出される反応で,例えば,原子炉の中にコバルトを置けば,炉の中の中性子を放射性捕獲して放射性同位体コバルト60ができる。…
※「放射性捕獲」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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