物体がその温度に応じて表面から発する放射エネルギーの強度によって物体の温度を測定する計器の総称。従来は1000℃以上の高温測定に用いる光高温計が主であり、放射高温計(radiation pyrometer)とよばれたが、1980年代から放射検出器の進歩によって高温から常温付近まで測定できるものが利用されるようになり、放射温度計とよばれるようになった。プランクの放射公式を原理とするが、観測する放射の波長や放射測定の方法によっていくつかに分類される。
前記の光高温計は、対象物が発する放射のうち、特定の波長の放射(普通は波長0.65マイクロメートルの赤色)の強度(輝度)を測定するもので、計器内の電球からの放射と対象物からの放射とを肉眼で比較し、両者が等しくなるよう電球の明るさを調節して、そのときの電流から温度を読み取る方式が、製鉄業などで古くから用いられている。肉眼のかわりに光電変換器を用いた自動式のものも広く用いられ、光電高温計ともよばれている。一方、広い波長域にわたって対象物からの放射を収集し、その全エネルギーから温度を求める方式の放射温度計があり、波長領域によって全放射温度計または赤外線温度計とよばれている。この方式のものは比較的低温度も測定することができ、応答の速い非接触温度計として新しい応用分野を広げている。とくに、運動する物体や巨大な物体、逆に微小な物体の温度計測に効果的に用いられる。
[三井清人]
物体から放散される熱放射の性質を利用する温度計。一般に物体の温度を高くすると,物体から放散される熱放射は強くなり,強さの分光分布も変わるが,とくに黒体(あらゆる放射を吸収する物体)の熱放射は温度と波長との関数として明確に表すことができる。そこで,熱放射の性質,例えば特定波長域での強さの相対値,全波長にわたる強さの相対値,2波長域での強さの比を観測することにより,黒体の場合なら真の温度を,また一般の物体の場合なら見かけの温度を求めることができる。放射の観測を,光高温計の場合のように肉眼で行うものもあるが,近年では光電子増倍管や半導体放射検出器で自動的に行うものが普及し,温度の空間分布の特徴の計測にも応用されるようになった。対象に接触しないで計測できるのが利点だが,見かけの温度から真の温度を求めるための因子(放射率という)の判定に困難の伴うことが多い。
執筆者:高田 誠二
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
物体の熱放射を観測して,見掛けの温度を測定する装置.測定温度範囲はマイナス数十 ℃ から3000 ℃ までである.一般に,ほかの温度計を用いることができない高温の測定に利用されるほか,測定する物質にまったく接触せずに温度を測定したいときに用いられる.
出典 森北出版「化学辞典(第2版)」化学辞典 第2版について 情報
…18世紀に入ると,G.D.ファーレンハイト,A.セルシウスらによって温度目盛の基準化が進められ,バイメタルを利用した温度計も考案された。19世紀の物理学の進展は,温度の概念に熱力学的および統計力学的な基盤を与えるとともに,電磁気現象や熱放射現象を利用する温度計,すなわち熱電対を利用した熱電温度計,金属や半導体の電気抵抗が温度によって変わることを利用した抵抗温度計,物体からの放射エネルギーの量を測定する放射温度計,輝度を標準の電球と比較して温度を測る光高温計などの発明をもたらし,また,温度測定の統一的な基準となる熱力学温度の単位の構想や,気体液化による低温の利用,電流の熱作用による高温の発生などを可能にした。これらの傾向は,産業技術の展開と表裏の関係をなし,一方で,産業用温度計の開発,汎用(はんよう)化を促し,他方で,極低温や超高温の分野における研究と利用,ひいてはこれらの極端な温度を測定する技術への多彩な挑戦を誘い出して,今日に及んでいる。…
…すなわち抵抗温度計では,白金線で素子をつくったものが1000℃程度まで,熱電温度計では白金線や各種の白金ロジウム合金線の組合せが1500ないし1700℃程度,イリジウム・ロジウム系のものが2000℃程度,タングステン・レニウム系のものが2400℃程度まで利用できる。一方,熱放射を利用する温度計は,部品を直接に高温にさらす必要がないから,高温計として利用しやすく,今世紀の初めに実用化された光高温計(可視の特定の狭い波長域の放射,例えば波長0.65μm付近の赤色光の明るさを肉眼で比較して,発光体の見かけの温度を求めるもの)が今も広く使用されるほか,光電管や各種の熱放射検出器を用いる放射温度計が近年著しく普及した。ただし,こうして得られる見かけの温度から真の温度を算出する際に,不確実さが伴いがちである。…
※「放射温度計」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
年齢を問わず、多様なキャリア形成で活躍する働き方。企業には専門人材の育成支援やリスキリング(学び直し)の機会提供、女性活躍推進や従業員と役員の接点拡大などが求められる。人材の確保につながり、従業員を...
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