仏教経典には仏が説法するときは,天から花が降って来ると説かれているが,これは天人が仏を讃嘆することをしめす。このように仏を讃嘆し供養するために,仏のまわりをめぐりながら,花を地に散らすのが散華である。したがって散華には三匝(さんそう)または七匝の行道(ぎようどう)をともなうものである。また散華には仏を讃嘆する声明(しようみよう)(伽陀)をともなうもので,法要には《散花》,《対揚》,《梵音》,《錫杖》の声明をとなえるのが正式となっている。散華の花はインドではハス(蓮)の花冠や蓮弁をもちいたが,日本では蓮弁形の紙に彩色した花弁を散らし,現在も南都諸大寺の法要にもちいられている。しかし普通はシキミ(樒)の葉を花弁の代りにも投げるもので,これは葉の形が蓮弁に似ているからという。また東大寺修二会(御水取)では,散華行道に花米(米をいってはぜたもの)を散ずる。悪魔をはらう意味とおもわれ,もと米をまいたのであろう。
散華は職衆(しきしゆう)が声明曲の《散花》《四奉請(しぶじよう)》などを唱えながら華籠(けこ)に盛った花を散らす。道場内を行動しながら行う場合,列立して行う場合,着座のまま行う場合など,いろいろな形式があり,花をいくつずつ散らかすなどについてもきまりがある。特別な庭儀(ていぎ)(庭上を使用する仏事)の大法要では,職衆の散華と同時に,堂塔の上層から多量に散華することがある。散華の花は,法要後に参詣人が自由に持ち帰ることができる。
執筆者:五来 重+横道 万里雄
仏教儀式における僧侶の役名。花を散ずるという宗教的所作が役名の由来であるが,散華師は儀式に先立ち,道場を清める目的で唱えられる声明曲の《散花》を先唱する。詞章の所定個所で全員の斉唱となるが,斉唱に加わる僧侶集団は散華衆と呼ばれる。花を散ずる所作は,詞章に対応して曲中で数回行われる。散華師は散華衆の統括者たる器量を要求され,他の声明曲の先唱者をも兼ねることが多い。
執筆者:高橋 美都
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
仏を讃(たた)え供養(くよう)するために花を散布すること。もとインドで花や香(こう)を地にまいてその場を清め、また花香をもって信仰対象を供養したことに由来する。古くは蓮(はす)などの花びらを散布したが、日本では紙製の蓮弁(れんべん)形の花びらや樒(しきみ)の花または葉が用いられることもある。大法会(ほうえ)のときに行う4種の儀式(四箇法要(しかほうよう)――梵唄(ぼんばい)、散華、梵音(ぼんおん)、錫杖(しゃくじょう))の一つで、これをつかさどる主僧を散華師(さんげし)という。道場内を行道(ぎょうどう)しつつ行う行道散華と、着座のまま行う次第(しだい)散華とがある。散華の花は、法要のあとで、参拝者たちが自由に持ち帰れる。
[阿部慈園]
出典 平凡社「普及版 字通」普及版 字通について 情報
…ミズキなどの枝に花が咲いたように小さな餅をつける餅花も,神霊の依代であり,吉兆笹はその変形である。法会の席に摘んだ花や花弁をまく散華の風は仏教がもたらしたが,あまり一般化していない。花びらの代りにシキミの葉をまくことがあるほか,花はちぎらないで自然のままに立てて供えるのが普通で,花を立てて神霊を迎えた古来の作法がよく守られている。…
※「散華」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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