断層地形(読み)だんそうちけい(英語表記)fault topography

改訂新版 世界大百科事典 「断層地形」の意味・わかりやすい解説

断層地形 (だんそうちけい)
fault topography

断層がなんらかの形態で地表に表現されている地形をいう。これには,断層に沿う選択的な浸食作用が起伏に現れた断層組織地形と,断層運動による地表面の食違いが起伏に現れた断層変位地形ないし活断層地形がある。

断層沿いには断層運動に伴ってある幅をもった破砕帯が発達しており,この部分は周辺に比べて浸食に対する抵抗性が弱い。したがって,断層線ないし断層帯に沿って浸食されやすく,ほぼ直線状に延びる断層線谷がつくられていく。また,一方の土地がより浸食されて断層面に沿う急斜面が現れると,これを断層線崖という。これら二つの地形は地質構造を反映して生じた浸食地形であり,断層運動があってから相当の時代を経てつくられる。とくに,ある地域が長期間の浸食作用で低平化したのちに隆起すると,浸食作用がふたたび活発になり,断層線谷のような地形が形成されやすい。日本では中国地方や北九州地域あるいは北上,阿武隈,三河,紀伊,四国などの各山地内に多くみられる。

断層運動が起きると,地表面は垂直方向や水平方向に食い違っていろいろな地形ができる。

 崖地形は垂直方向の食違いの結果生じたもので,通常ほぼ直線状に連続する急斜面である。断層崖がその代表例であり,比高数百~数千mにも達する断崖をなすこともある。赤石山脈東縁や四国山地北縁の急斜面などがその典型例である。低地面や段丘面を切る所では,一般に数十m以下と低いので,とくにこれを低断層崖という。断層崖は浸食を受けやすく,下流側に崖錐や扇状地を伴うことが多い。日本では内陸の大地震のときに,比高数m程度以下の崖地形が現れた例はかなりある。例えば,濃尾地震(1891年,M8.4)のときの水鳥(みどり)地震断層崖,陸羽地震(1896年,M7.5)のときの千屋・川舟地震断層崖,三河地震(1945年,M7.1)のときの深溝(ふこうず)地震断層崖などがある。このような断層運動が千年~数千年の間隔をおいて発生し,崖地形は成長していく。断層崖が比高を増すと,三角末端面とよばれる三角形状をした尾根の末端がみられる。大小の三角末端面が集合して大きな断層崖ができる。新生代後半の軟弱な地層が厚く発達している地域では,地下の断層は地表ではたわんだ崖として表現されることが多く,これを撓曲崖(とうきよくがい)という。東北地方から近畿地方に至る内陸の盆地縁や中央構造線に沿う地帯などのように,山地と平野が明瞭に分かれて直線状の境界線で接している所では,上に述べたような各種の崖地形がよくみられる。

 凹地形とは,断層運動によって地表面が沈降して生じた地形である。その起源が断層変位による凹地を断層谷といい,断層線沿いに細長く延びる。規模の大きな活断層では明瞭な断層谷が発達していることが多い。断層の一方の地塊が傾いていると,断層谷の平面的形態や横断面の形態は非対称となり,断層角盆地とよばれる低地ができるが,濃尾平野や中央構造線に沿う和歌山,徳島の平野はその典型例である。両側を断層で限られた細長い凹地が地溝であるが,東北地方の内陸盆地や京都盆地,奈良盆地などは代表的な例である。とくに幅が数十m以下の小規模なものを小地溝といい,正断層や横ずれ断層に伴われることが多い。また,断層線に沿う比較的小さな凹地は断層凹地といい,水がたまっている場合を断層池とよぶ。大規模な活断層,例えば,中央構造線や糸魚川(いといがわ)-静岡構造線などに沿ってところどころにこのような事例が認められるが,日本では人工的に改変・排水されていることが多い。断層が尾根を横切る所ではたいていの場合くびれて断層鞍部を形成しているが,切断された尾根は断層分離丘(陵)となる。

 凸地形とは,断層運動に伴って生じた,周辺に比べて相対的に高い地形である。断層で両側を限られた細長い隆起地塊が地塁(山地)で,少なくとも一方の側を限られた断層地塊(山地)の一種である。これがある方向に傾いていれば傾動地塊あるいは傾動山地とよばれる。幅や高さが数十m程度の小規模な地塁をとくに小地塁といい,新しい堆積物で構成される場合が多い。断層の末端部や屈曲部では,地表が圧縮されて,周囲からしぼり上げられ,ふくらみや圧縮尾根がつくられることもある。ふくらみは横ずれ断層に伴われることもあるが,逆断層の上盤側にもよく形成される。圧縮尾根は断層線沿いに両側ないし片側から高まってきた細長い丘(陵)列の地形である。日本の代表的な地塁(山地)は奥羽脊梁,木曾,鈴鹿,金剛,比良などの各山地であり,傾動山地は養老山地丹波山地などである。

 横ずれ地形とは,断層に沿って平面的な位置が食い違った地形である。横ずれ断層が谷や尾根,あるいは段丘崖や山麓線を横切ると,断層線付近でこれらが急に屈曲する。一般にこれらは同一断層線上では同じ方向に屈曲する。相手が右手側であれば右(横)ずれ断層,左手側であれば左(横)ずれ断層という。流路や谷が水平方向に食い違っていると横ずれ谷とよぶが,断層線より上流の部分が長いほど,通常その食違いの量は大きくなり,累積的な食違いが生じてきたことを示す。尾根あるいは山稜線が稲妻状に折れ曲がっていると横ずれ尾根といい,そのうちとくに谷筋の前面をふさぐようになっているものを閉塞(へいそく)丘とよぶ。段丘崖はかつての河川の側方にできた崖であり,一般には滑らかな弧をえがいて延びるが,断層線の部分で急に屈曲していると,それが形成されてからの横ずれを示す。また,河谷に沿う山麓線が断層によって食い違う場合もある。横ずれ(断層)には多少の垂直的な動きや凹凸地形が一般に伴われ,山地や谷の地形が急変することが多い。日本の中央部以西には横ずれ活断層が多くみられ,右ずれの代表例には跡津川断層,中央構造線,六甲山地付近の活断層などが,左ずれには阿寺断層根尾谷断層,山崎断層,丹那断層などがある。こうした活断層沿いには上に述べた各種の横ずれ地形が大小さまざまな規模で発達している。

アメリカ合衆国西部では断層(変位)地形が豊富に発達し,乾燥地域のために地形表現が実に見事なので,19世紀末以来,世界に先がけて多くの研究が行われてきた。現在でも新しい調査方法を導入して調査が進展している。環太平洋造山帯に属するニュージーランドでも先駆的な成果が出されてきており,国の研究機関による組織的研究も行われている。新期の変動帯に属する日本では,断層地形は明治初期以来,日本列島の大地質構造と関連して議論されてきた。1940年代まではおもに5万分の1地形図を使用して断層地形が指摘された。60年以降になると,空中写真の判読を通して,小規模の断層変位地形が数多く検出されるとともに,横ずれ地形が各地で発見されるようになった。横ずれ地形のみならず崖地形も地域的に規則性があり,それが形成される広域の応力場についても判明してきた。現地調査に基づく詳しい研究が増えるとともに,大土木工事により断層の露頭も多く現れるようになってきた。さらに近年では,音波探査による詳しい海底調査が実施され,海底での断層地形や地層の変形もわかってきた。最近では,断層変位地形がどのような過程を経て形成されてきたかを解明するために,実にさまざまな調査が行われている。とくに,断層を横切って調査溝を掘り,地質断面を観察し,地層の年代を測定して過去の地震発生の時期やそのときの変位量を解明する努力が行われている。活断層の変位地形は過去に大地震を起こして小きざみに成長してきたものであるから,内陸の地震予知の基礎資料として注目されている。
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「断層地形」の意味・わかりやすい解説

断層地形
だんそうちけい

断層によって形成された種々の地形をさすが、断層運動そのものによって形成されたもの(断層変位地形)と断層破砕帯の侵食されやすさに起因するもの(断層による差別侵食地形)の大きく2種類に分けられる。

 前者は、断層運動による地表変位や地表変形が繰り返されることによって形成された独特の地形であり、代表的なものとしては、断層崖(がい)、撓曲(とうきょく)崖、断層谷、尾根・河谷の系統的屈曲、閉塞(へいそく)丘、断層池などがあげられる。古い地質時代に活動を停止した断層については、その後の侵食や堆積(たいせき)によって断層変位地形が失われるため、現在確認される断層変位地形は活断層によるものであると考えられている。断層変位地形に類似する用語として変動地形があるが、これは断層変位地形に加えて、隆起・沈降などの広域の地殻変動によって形成された地形(段丘や隆起波食棚(はしょくだな)など)も含む用語である。

 後者は、繰り返す断層運動によって断層沿いに形成された破砕帯が周囲の岩石よりも軟らかく、侵食されやすいために形成されたものであり、差別侵食地形(組織地形)の一種である。断層線谷や断層鞍部(あんぶ)がこれにあたる。すでに活動を停止している断層においても差別侵食は起こるため、これらの地形のみの存在によって活断層を認定することはできない。衛星画像等で認識される線状模様(リニアメント)も、その多くが断層による差別侵食地形であり、それらの断層が活断層であるか否かを判断するには、個別に断層変位地形の有無を確認する必要がある。

[金田平太郎]

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「断層地形」の意味・わかりやすい解説

断層地形
だんそうちけい
fault topography

断層運動によってつくられた地形。構造地形 (変動地形) の一種。断層崖地塁傾動地塊地溝,断層角盆地,断層谷などがこれに含まれる。南北アメリカ西部,日本,ニュージーランドなどの造山帯に含まれる地域に多い。

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世界大百科事典(旧版)内の断層地形の言及

【断層】より

…鏡肌の上には断層の運動方向を示唆する条線が観察されることもある。
[断層地形]
 断層運動によって断層の両側の岩石が変位し異なる種類の岩石が接する場合や,断層破砕帯が幅広く発達している場合,さらには断層運動が生じて以降浸食作用があまり進んでいないような場合,断層に沿って特有の地形が見られることがある。このような断層特有の地形を総称して断層地形という。…

※「断層地形」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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