翻訳|opportunism
機会主義,オポチュニズムともいう。一定の原理や原則よりもむしろ変化する状況に応じて行動すること。19世紀フランスの政治家L.ガンベッタが共和主義的政策をより現実的な形で実施するために共和主義の原則の一部を犠牲にしようとしたのを当時の世論がオポチュニスムと呼んだことが,この言葉の起源といわれる。また革命運動において,状況の不利を理由に革命への態度を後退させることが〈右翼日和見主義〉と呼ばれる場合がある。このように日和見主義は,原理や原則にあくまで忠実であろうとする立場から発せられる非難の言葉である。日和見主義的行動は,権力や名誉を獲得することのみを目的としてなされることが多いが,原則に完全に従うことが困難な状況下で,究極の理想の実現を明確に意識しつつ,状況への一時的適応としてなされる日和見主義的行動は〈可能性の技術〉としての政治の世界においては必要不可欠のものといえよう。この場合の日和見主義は単なる無原則的行動とは異なり,的確な状況認識に立って,目的達成に向けての有効な手段の選択としてなされるものであるから,優に政治理論の考察の対象たりうるものとなる。
M.ウェーバーは,政治家の資質として,状況に対する判断力と責任感を挙げ,さらに,理想への情熱的献身が必ずしもその実現を約束しないという冷厳な事実を指摘して,政治家には,単なる理想の追求という主観的な心情とは別に現実的な結果に対する責任感が必要であることを説いたが,この考え方は,日和見主義的行動を規範的側面から合理化するものとみることができよう。なお,二大勢力の対立下で,立場の一定しない第三者の挙動が日和見主義とされる場合がある。洞ヶ峠(ほらがとうげ)の筒井順慶の行動はその典型的な例であるが,この意味の日和見主義は,それが,弱少な第三勢力についていわれるのが通例であることからも明らかなように,当事者に内在する原理や原則からの逸脱を指すよりは,むしろ二大勢力の対立という構図をあらかじめ前提としたうえで第三勢力の行動と位置とを記述する際の言葉である。現実の変革やユートピア的理想の実現そのものを政治の目的とは考えない保守主義においては,状況への柔軟な対応という意味での日和見主義は,むしろ好ましいものとされる。
王政復古期イギリスの政治家G.S.ハリファクスはトーリーとホィッグ両派の苛烈な対立が完全な無秩序状況を招来することを憂慮し,暴力と熱狂を排して〈賢明なる中道〉をいくことを説き,自分の役割を,船の転覆防止のためにそのつりあいを保つことにたとえて,〈トリマーtrimmer〉と称した。彼は一貫した党派的立場をとらなかったために非難をこうむったが,〈トリマー〉の観念は,秩序の安定を最も重視する立場から日和見主義の意義を明らかにするものであったといえよう。このように日和見主義は道徳的是非の見地とは別に,政治の目的とは何かという本質的な問題を提起するのである。
執筆者:坂本 多加雄
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一般的にいえば、一定の原理・原則にとらわれず、事の成り行きをうかがって、どちらでも自分の都合のよいほうにつこうとする態度をとることで、機会主義、御都合主義、便宜主義と同じ意味をもっており、マルクス主義的な政治運動や労働運動で多用されている。
1890年を前後して、イギリスやフランスで社会主義労働運動において改良主義が台頭し、ついにドイツでも1896年にマルクス主義そのものを否認するベルンシュタインの修正主義論が発表されて、マルクス主義は実践と理論の両面において挑戦を受けた。こうした右からの挑戦を、レーニンは『なにをなすべきか?』(1902)で、日和見主義の新しい変種であると批判した。その後、国際社会主義労働運動において公認のマルクス主義に反する理論活動や実践は非難の意味を込めて日和見主義と称されるようになった。ロシア革命期まで日和見主義といえば、主として改良主義や修正主義と同義に用いられていたが、レーニンが『共産主義における「左翼」小児病』(1920)で、革命の客観的条件をリアルに認識して対処せず、主観的願望に基づいていたずらに過激な行動をとる一揆(いっき)的冒険主義を左翼日和見主義と批判したのち、公認のマルクス・レーニン主義から逸脱した左右の理論活動や実践はすべて日和見主義と称されるようになった。
[安 世舟]
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