赤十字に関する諸条約および赤十字国際会議において決議された諸原則の精神にのっとり,赤十字の理想とする人道的任務を達成することを目的として,病院経営,災害救助等種々の事業を行っている法人。西南戦争で出たおびただしい死傷者のうち,官軍側の負傷者は軍病院に収容されて手当てをうけたが,西郷側の死傷者は山野に放置され,その惨状は目をおおわしめた。これに対して元老院議官佐野常民らは,西郷側の暴徒といえども天皇の赤子であることには変わりないと政府に請願書を提出,かつて佐野が藩主の命でパリに行ったときにその存在を知った赤十字社にならい,1877年博愛社を創設した。博愛社はその後陸軍の後援のもとに博愛社病院を作り,同時に赤十字条約に加入,87年,日本赤十字社と改称された。しかし外国の赤十字が宗教的・人道的観点から博愛慈善を主眼としていたのに対して,日本の赤十字は,忠君愛国の精神に基づく報国恤兵(じゆつぺい)を主旨としていた点で大きく異なっていた。このような理念は,国内組織のちがいとしてもあらわれ,外国の赤十字社が分権主義で,いくつもの独立した地方団体が連合して,中央交渉部をおいていたのに対して,日本では中央集権化がとられ,皇室を中心とした組織となっていた。
第2次大戦後の1952年,日本赤十字社法が制定され,日本赤十字社は,冒頭に述べた事項を目的とすることとなった。同時に,赤十字に関する国際機関や各国赤十字と協調を保ち,国際赤十字事業の発展に協力し世界の平和と人類の福祉に貢献するという国際性もうたわれた。現在の日本赤十字社は社員をもって組織される法人で,目的達成のため次のような業務を行うこととなった。(1)赤十字に関する諸条約に基づく業務に従事すること。(2)非常災害時または伝染病流行時において,傷病その他の災厄を受けた者の救護を行うこと。(3)常時,健康の増進,疾病の予防,苦痛の軽減その他社会奉仕のために必要な事業を行うこと。(4)その他。以上のうち,(1)および(2)の業務は国の委託を受けて行うものを含んでいる。なお,以上の業務を達成するため,救護員の養成や,国の命を受けて業務の実施に必要な施設または設備の整備を行うほか,社会福祉事業法の定めによって社会福祉事業を経営している。なお,こうした事業の遂行に必要な費用は,社員の納める社費のほか,国の委託費や補助金および寄付金によって賄われている。
→赤十字
執筆者:児島 美都子
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紛争や自然災害時における被災者に、人種や国境を越えて人道的立場から保護と援助を行う赤十字精神にのっとった日本での組織。日本赤十字社法(昭和27年法律305号)による特殊法人である。1877年(明治10)西南の役の際、傷病者救護のため、佐野常民(つねたみ)、大給恒(おぎゅうゆずる)(1839―1910)両元老院議官らによって始められた救護団体「博愛社」がその前身である。同社は1886年日本政府がジュネーブ条約に加入したので翌年日本赤十字社と改称し、国際赤十字の一員として公認された。その活動範囲は広く、世界各国の赤十字と連携して他国の難民救済、国内における災害救援、医療、看護師等の養成、献血・輸血の血液事業、講習(救急法、水上安全法、家庭看護法など)、またボランティアによる組織の「赤十字奉仕団」、学校教育の枠内で赤十字精神形成のための「青少年赤十字」などの結成と活動も行っている。日本赤十字社の事業は、およそ1200万人を数える社員(会員)や関係団体からもたらされる社費および一般からの寄付によって支えられており、毎年5月には社員増強運動が行われている。日本赤十字社の医療施設は、病院、老人保健施設など104、血液センター67、社会福祉施設28、職員5万5204人(2007年現在)である。
[梶 龍雄]
『日本赤十字社編・刊『日本赤十字社社史稿』編年体で10巻(明治10年~平成7年)既刊(1911~1999)。以下続刊予定』▽『桝居孝著『世界と日本の赤十字』(1999・タイムス)』▽『吉川龍子著『日赤の創始者 佐野常民』(2001・吉川弘文館)』
(星野美穂 フリーライター / 2011年)
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通称日赤。赤十字(ジュネーブ)条約にもとづく組織。日本は1886年(明治19)加盟。77年の西南戦争に際し,傷病兵の平等救護のため佐野常民(つねたみ)らによって結成されていた博愛社(はくあいしゃ)を,87年日本赤十字社と改称した。1901年成立の日本赤十字社条例にかわり,10年に定められた新条例により,陸・海軍の戦時衛生勤務を助けることを任務とし,陸・海軍大臣の監督下におかれ,軍事的性格のものとされた。第2次大戦後の47年(昭和22)にこの条例は廃止された。53年戦争犠牲者保護に関する新しいジュネーブ条約に加入することになり,前年の52年に日本赤十字社法が成立した。この第1条で「赤十字に関する諸条約及び赤十字国際会議において決議された諸原則の精神にのっとり,赤十字の理想とする人道的任務を達成すること」が目的とされた。
出典 山川出版社「山川 日本史小辞典 改訂新版」山川 日本史小辞典 改訂新版について 情報
出典 旺文社日本史事典 三訂版旺文社日本史事典 三訂版について 情報
…佐賀藩士,日本赤十字社の創立者。藩命により京都,大坂へ遊学。…
…戦地で傷病兵の看護に当たり,軍の指揮系統に属する看護婦。日本では,日本赤十字社の前身である博愛社がすでに西南戦争に際して看護人(男性)を熊本や長崎に送っている。日清戦争が起きると日本赤十字社は自社で養成した看護婦を臨戦地の宇品,広島へ派遣した。…
※「日本赤十字社」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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