書論(読み)ショロン(その他表記)shū lùn

デジタル大辞泉 「書論」の意味・読み・例文・類語

しょ‐ろん【書論】

書物に書いてある議論
書道・書法に関する議論。

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精選版 日本国語大辞典 「書論」の意味・読み・例文・類語

しょ‐ろん【書論】

  1. 〘 名詞 〙
  2. 書物に書いてある議論。
    1. [初出の実例]「信心の誠、万巻の書論(ショロン)に優り、覚えず我が身に自在を得たり」(出典:浄瑠璃釈迦如来誕生会(1714)四)
    2. [その他の文献]〔淮南子‐要略訓〕
  3. 書道・書法に関する議論。
    1. [初出の実例]「顔真卿が書論にも用筆の意は紙背に透き通さん事を求むべしとも申置候」(出典:随筆・玉洲画趣(1790))
    2. [その他の文献]〔杜荀鶴‐投長沙裴侍即詩〕

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改訂新版 世界大百科事典 「書論」の意味・わかりやすい解説

書論 (しょろん)
shū lùn

中国において,書の理論,さらには書に関する学問全般をさしていう。1707年(康煕46)に成った《佩文斎(はいぶんさい)書画譜》は,歴代の書論を集成するに当たって,書体,書法(書の技法),書学(書の理論的研究),書品(書の品第)の4部門に分かち,さらに書家伝,書跋,書弁証(著名な碑法帖に関する考証的な研究),歴代鑑蔵(書の鑑識収蔵に関する文献)の4項目を付している。また近人余紹宋の《書画書録解題》は,書に関する著述を,史伝,作法論述,品藻,題賛,著録,雑識,叢輯,偽託,散佚,未見に分類している。このほかにも現代的な観点から,たとえば(1)作家論,(2)作品論,(3)芸術論と大きな三つの柱を立て,それぞれを関連させながら論ずることも可能であろう。一般に中国の書論は,さまざまな内容が複合した形で現れる場合が多いので,資料として用いる際には,研究者の問題意識によって適切に分類し,整理し,体系化することが必要であろう。

 書を論評することは,よほど古くからあったと想像されるが,中国の文献で見るかぎり,書かれた文字の美しさが審美眼の対象として明確に意識され始める紀元前後からしだいに盛んになったと考えられる。漢・魏・晋のころは,美しく書かれた書簡を保存して,書者の人となりをしのび,あるいは書の優劣を比較したり,特定の書体の動勢を自然現象にたとえて評説する筆勢論がおもなものであった。ところが南朝になると,宮廷や貴族による王羲之その他名家の書跡の収集が盛んになり,それらを整理し,論評することから,書論としての形式をしだいに整えるようになった。南朝から唐代前半期までは,個々の書家を〈天然〉と〈工夫〉という二つの規準に照らして,あるいは書体別にその巧拙を比較して格づけする品第法と,個々の書風の特性を自然や人物にたとえて論評する比況法が盛んに行われた。多くの書家の中から,後漢の張芝,魏の鍾繇(しようよう),東晋の王羲之,さらにその子王献之が古今の四傑として最も高い評価を得,こうして伝統派の書論の基礎が築かれた。

 唐代には孫過庭の《書譜》や張懐瓘の《書断》など,伝統派の書論を集大成した力作も現れたが,反面,書法を秘訣として子孫に伝える傾向が生じ,そのための通俗な伝授書も多く作られた。しかし唐の中ごろに,張旭,懐素,顔真卿らが現れ,自由で潑剌とした書を書きはじめると,韓愈の〈送高閑上人序〉や雷簡夫の《江声帖》のように,それを理論的に裏づける試みもなされた。宋代になると,欧陽修が《集古録跋尾》《筆説》《試筆》を著して以来,書は主として題跋や随筆の形で鑑賞され,論評されることになる。例えば蘇軾(東坡)に《東坡題跋》,黄庭堅に《山谷題跋》があり,彼らは顔真卿の書を基礎として自己の書風を確立するとともに,新しい観点から顔書を書史の上に大きく位置づけることに成功した。米芾(べいふつ)も古法書を深く究明して,晋人の平淡天真に書の理想を求め,それをみずから血肉化することによって,因襲的な伝統派をのり越えることができた。元代の書壇では趙孟頫(ちようもうふ)らが活躍して一般に保守的な傾向が強く,古典を学習するための参考書が多く書かれたが,宋代の清新な書論は影をひそめた。

 明代になると,董其昌によって革新的な書論が唱えられた。書に現れた時代性を初めて解明し,率意の書を重んじ,技法の修練の果てに得られる精神の自由を説いて,その後の書壇に最も大きな指導力を発揮した。清朝の書は,前半の帖学派と後半の碑学派の二つに大別することができる。帖学派の書論は,馮班,姜宸英,楊賓,王澍,梁同書,梁巘(りようけん),朱和羮(しゆわこう),周星蓮らによって書かれ,理論は前代よりもますます精緻なものになった。一方,清朝の後半になると,考証学の一分野として金石学が発達するに伴い,碑学派の書が勃興した。この派の書論として,まず阮元(げんげん)が《南北書派論》《北碑南帖論》を書いて,書に南北の別のあること,漢・魏以来の書の正統は,南朝の法帖ではなく北朝の碑碣(ひけつ)によって伝えられたとした。この説は包世臣の《芸舟双楫》,康有為の《広芸舟双楫》などによって多少の修正を加えられながら受けつがれ,日本の近代書道にも大きな影響を与えた。書は書者の人間性の発露であるとともに,書者の生きた社会や時代を色濃く映し出すものであることを,個々の書論は雄弁に物語っている。
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