日本長者伝説の一つ。朝日夕日ともいう。長者、豪族の屋敷跡に黄金を埋めたという伝説で、多くはその財宝のありかを「朝日さし夕日輝くそのもとに黄金千枚瓦(かわら)万枚」などの口承歌謡をもって示唆する類型がほとんど。また長者が大田植の際に時間が足りずに、扇で日を招き返したために、罰があたって没落した(死んだ)というような話を伴っているのもあって(兵庫県加西市の朝日長者、鳥取市湖山(こやま)池の湖山長者など)、巫女(みこ)の名に「朝日」や「照日(てるひ)」「万日(まんにち)」など日のついた名が多いのとともに、稲作儀礼における太陽信仰の伝存を考えさせる。
炭焼長者にも「朝日さす……」のことばを口にして山に入った炭焼小五郎の幸運の伝説があり、『鉄山必要記事』の金屋子神祭文(かなやごしんさいもん)に朝日長者が現れ鉄山経営の資力となった伝承があることから、稲作長者が木炭需要のルートをも握って、鉄(鋳物)の供給も賄った古代の伝承的事実を考えることができる。『播磨国風土記(はりまのくにふどき)』賀毛郡の条にも、理想の場所を示す勅として「朝日夕日の隠(かくろ)はぬ地(ところ)に……」とあるが、長者の地位を示したもので、朝日長者の名の由来もここにあるのだろう。また、山中もしくは塚に金の鶏(にわとり)を埋めたため、そこから金鶏(きんけい)の鳴き声が聞こえるという金鶏山、金鶏塚の伝説(たとえば岩手県平泉町の藤原秀衡(ひでひら)が埋めたと伝える金鶏山)も長者伝説と重なるもので、稲その他の貯穀による富豪の、鉄を支配した因果を推察させてくれる。
[渡邊昭五]
城跡や長者の屋敷跡に財宝が埋まっているという伝説。〈朝日さし夕日かがやく木の元に〉といったたぐいの財宝のありかを暗示する歌を伴って伝承されている。栃木県佐野市赤見では,鯉になった娘の苦しみを救うために,朝日長者がその財宝を山に埋めたと伝える。そしてその場所を示す〈朝日さす夕日かがやくこの山にうるし千ばい朱千ばい〉の歌が残されている。長者の没落と,財宝が身近な場所に埋まっているのを物語るのは,人々の強い関心を引き,この伝説を根強く支える生命力になっている。兵庫県加西市では,権勢を誇る長者が,扇をもって夕日を呼び戻し,強く輝けと叫んだために長者は目がくらんで死んだという,湖山(こやま)長者と似た話になっている。ここでも〈朝日さす〉の歌が伝わっている。入日を招き返す話やその跡と伝える日招壇(ひまねきだん)などは,稲作儀礼に伴う太陽祭祀の痕跡ではないかと説かれている。
→長者伝説
執筆者:常光 徹
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