百科事典マイペディア 「本朝法華験記」の意味・わかりやすい解説
本朝法華験記【ほんちょうほっけげんき】
→関連項目増賀
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《大日本法華経験記》《法華験記》などともいう。〈験記〉とは霊験記の意。天台僧鎮源撰,長久年間(1040-44)成立。中国宋の義寂撰《法華験記》を範として撰述。全3巻。菩薩,比丘(びく),在家沙弥(しやみ),比丘尼(びくに),優婆塞(うばそく),優婆夷(うばい),異類(蛇,鼠,猿その他)の7種に分けられ,129の伝から成る。《叡山大師伝》《三宝絵詞(さんぼうえことば)》《日本往生極楽記》などを素材とするとともに,伝承や鎮源自身の見聞も素材とした。また鎮源による架空の述作部分もある。根底には輪廻(りんね)転生の思想があり,この輪廻から離脱するため,とりわけ《法華経》読誦により過去の罪業消滅を果たすという話が多く,読誦を中心とする苦行主義も展開している。そのためか,持経者の山林修行の生活が描かれる一方,本書以後の《往生伝》にみられる,民間に法華信仰を弘通(ぐつう)する遊行(ゆぎよう)・勧進の持経聖の描写は少ない。《今昔物語集》の法華経霊験譚などに,本書中105話がとり入れられているという。
執筆者:高木 豊
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
平安中期の仏教説話集。三巻。法華経(ほけきょう)の威力を実証するための、法華経信奉者の伝と霊験説話の集成。『大日本国法華経験記』ともいう。天台宗の僧鎮源が1043年(長久4)ごろに撰述(せんじゅつ)した。名僧高僧の説話ばかりでなく、教団を離れて山林で修行し各地の霊場を巡歴する無名の聖(ひじり)の説話、庶民や動物が法華経の利益を被り、極楽や天に往生する説話も多い。聖の宗教活動の隆盛と、浄土教の浸透を反映している。説話はおおむね類型的で、文体も和習の変体漢文でつたないが、既成仏教の教義を超える新しい精神をとらえている。
[森 正人]
『井上光貞・大曽根章介編『日本思想大系7 往生伝・法華験記』(1974・岩波書店)』
…説経唱導の資として多数の証話が求められ,それがやがて説話集や説経集に結晶したわけで,平安時代には,折々の信仰の動向と布教上の実需を反映して,多様な作品が制作された。《日本霊異記》の系譜につながる《日本感霊録(にほんかんりようろく)》(850ころ),上流婦女子向けの仏教テキスト《三宝絵詞(さんぼうえことば)》(984),浄土信仰の盛行が生み出した《日本往生極楽記》(986ころ),法華経信仰の諸相と功徳を説いた《本朝法華験記》(1044)などは,いずれも歴史的意味をになう個性的作品である。基盤となった説経の資料としては,院政期の《法華修法一百座聞書抄》《打聞集(うちぎきしゆう)》などが注目される。…
※「本朝法華験記」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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