松浦川(読み)まつらがわ

日本歴史地名大系 「松浦川」の解説

松浦川
まつらがわ

本流黒髪くろかみ(杵島郡と西松浦郡の境)に発する。黒髪山には黒髪山大権現があり、中世真言密教の修験道場として栄え、また雨乞いの祈祷所として近郷の崇敬するところである。

松浦川は松浦西川ともよばれ、杵島きしま郡山内町・武雄市を迂回して伊万里市の大川野おおかわの地区に流れる。ここに慶長一六年(一六一一)成富兵庫茂安の手になる井堰がある。ここからの導水路は松浦川の川底を潜るサイフォン式である。

また伊万里市大川おおかわ川西かわにしには唐津藩主寺沢志摩守広高が文禄四年(一五九五)に着工し、寛永一〇年(一六三三)に完成した大黒だいこく井手(堰)がある。この堰の完成により八〇町歩が灌漑された。堰底に大黒天を安置するのでこの名がある。この堰の構築を指導した建福けんぷく寺住職田代可休は、隠れ切支丹の疑いで処刑されたと伝えられる。大黒堰には、寺沢広高と可休の記念碑が立ち、今に至るも年祭が続けられている。

大川野の盆地を潤した松浦川は奇岩のそそりたつ駒鳴こまなきの渓谷を潜り抜け、伊万里市から相知おうち町に入り、佐里さり・相知の盆地に出、山崎やまざきてん山山系に源を発する厳木きゆうらぎ(松浦東川ともいう)と合流する。

出典 平凡社「日本歴史地名大系」日本歴史地名大系について 情報

日本大百科全書(ニッポニカ) 「松浦川」の意味・わかりやすい解説

松浦川
まつうらがわ

佐賀県北部の川。玄界灘(げんかいなだ)側、唐津湾(からつわん)に注ぐ。流域の第三紀層域は、かつて唐津炭田で知られた。武雄(たけお)市山内(やまうち)町の神六(じんろく)山(447メートル)、黒髪(くろかみ)山(516メートル)などに源を発し、多くの支流を集めて北流、唐津市相知(おうち)町で厳木川(きゅうらぎがわ)を、また唐津市久里(くり)では徳須恵川(とくすえがわ)を合流する。流域は武雄市、伊万里(いまり)市、唐津市などに及び、上流域にまで多くの小盆地が分布する。延長約47キロメートル。河口付近に唐津市街地や特別名勝虹の松原(にじのまつばら)があるが、近世初期城下町建設の際に河口を唐津城の満島(まんとう)山東側に付け替えた。鉄道登場前は米や石炭などの輸送路をなしたが、とくに流域の唐津炭田は、幕末・維新期、日本最大の産炭地で、河口の満島(みつしま)から石炭を積み出していた。脊振(せふり)山地西部から流れる支流の厳木川は水量も豊富で、厳木ダムや発電所などが立地する。下流西方に広がる上場(うわば)台地のダムに、松浦川から揚水する松浦川揚水場も建設されている。

[川崎 茂]

出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例

改訂新版 世界大百科事典 「松浦川」の意味・わかりやすい解説

松浦川 (まつうらがわ)

佐賀県武雄市の神六(じんろく)山(447m)や黒髪山(516m)などに源を発し,唐津湾に注ぐ川。延長約45km。多くの支流を集めて北流,唐津市の旧相知(おうち)町で厳木(きゆうらぎ)川を,同市の旧唐津市南部で徳須恵(とくすえ)川を合流する。下流の旧唐津市域に入ると沖積低地が広がる。初代唐津藩主寺沢広高は,城下建設の際に河口を付け替えるなどして,治水,防備,新田開発に対処した。明治30年代の鉄道開通までは舟運に利用され,流域に開発された唐津炭田の石炭は,河口まで川船で輸送されていた。支流の厳木川水系は脊振山地西部から流出し,水量も多く,早くから発電所が建設されている。防潮・用水対策の河口堰として松浦大堰が1974年完成した。なお《万葉集》に詠まれ,歌枕でもある松浦(まつら)川は,唐津市北東部を流れて唐津湾の東部に注ぐ玉島川のことである。
執筆者:

出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報

ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「松浦川」の意味・わかりやすい解説

松浦川
まつうらがわ

佐賀県西部,黒髪山付近を源に北流して唐津湾に注ぐ川。全長 47km。『肥前国風土記』には栗川と記されている。流域は唐津炭田地域で,古第三紀層の上に安山岩石英粗面岩,玄武岩を載せた低山地帯。江戸時代は米と木材の輸送に利用され,河口の満島(唐津市)に藩の米倉,材木町に貯木場があった。明治初期,唐津炭田の開発に伴い,石炭輸送の動脈となり,1889年,河口の旧唐津港は石炭の特別輸出港となった。石炭の舟運は,1905年港を今日の唐津港(西唐津)に移転したのちも,昭和初期まで続いた。支流の厳木川(きゅうらぎがわ)に 2ヵ所の発電所がある。河口付近は唐津市の観光地帯で,唐津城や競艇場,虹ノ松原があり,玄海国定公園に属する。

出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報

世界大百科事典(旧版)内の松浦川の言及

【浜玉[町]】より

…脊振山地西部の山嶺に源を発する玉島川が町域を西流して唐津湾に注ぐ。玉島川には神功皇后アユ釣りの伝説があり,《万葉集》にも詠まれた松浦(まつら)川は現在の松浦(まつうら)川ではなく,この川を指す。町の中心の浜崎は玉島川河口左岸にあり,虹ノ松原の東端にあたる。…

【松浦川】より

…防潮・用水対策の河口堰として松浦大堰が1974年完成した。なお《万葉集》に詠まれ,歌枕でもある松浦(まつら)川は,東松浦郡北東部を流れて唐津湾の東部に注ぐ玉島川のことである。【川崎 茂】。…

※「松浦川」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

今日のキーワード

部分連合

与野党が協議して、政策ごとに野党が特定の法案成立などで協力すること。パーシャル連合。[補説]閣僚は出さないが与党としてふるまう閣外協力より、与党への協力度は低い。...

部分連合の用語解説を読む

コトバンク for iPhone

コトバンク for Android