有性生殖によらない方法でつくられた雑種のこと。接木によって台木が接穂の形質に影響をおよぼす接木雑種graft hybridを指すことが多い。接木雑種は子孫にまで遺伝質の変化が伝わる場合と,接木を行った世代だけに両親の影響が現れるキメラの場合とがある。キメラでも栄養繁殖させれば,栄養系が増えていくだけなので,たくさんの栄養系の個体群に両親の影響を維持させることができる。このようなキメラは品種としても成立するので,キメラをつくる接木雑種を栄養雑種ということもある。子孫まで遺伝質の影響が残ることを確かめたものにはナス科植物が多い。接木によって遺伝質の変異が起こる原因については,最近では形質導入,形質転換というような分子生物学的なしくみによる遺伝子への影響があるのではないかともいわれている。ナス科植物以外でも,果樹・野菜・花卉について古くからアメリカやソ連などが接木雑種をつくる努力をしてきた。台木に発育の進んだ植物(メントール--指導者の意味--という)を用い,これに若い接穂を接木するメントール法mentor methodが効果的といわれている。こうして実際につくられた栄養雑種の中にはキメラも含まれていると思われる。実際の農業では接木がよく用いられるが,これは台木,接穂のよいところをそれぞれ利用しようとするもので雑種をつくるものではない。なお遺伝子工学をはじめとする新育種技術で,普通の交雑によらない雑種が生まれつつあるが,これは栄養雑種といわないほうがよいと思われる。
執筆者:武田 元吉
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
有性生殖によらないで生じた雑種をいう。植物では接木によって生じた雑種が代表的であり、異なった形質をもった二つの個体から遺伝的に新しい個体をつくりだす場合に使う。
[吉田精一]
…たとえば現在世界に広く栽培されているパンコムギ(六倍体,ゲノム式AABBDD)は,栽培二粒系コムギ(四倍体,AABB)と野生種のタルホコムギ(二倍体,DD)の間に自然に生じた属間雑種に由来し,この雑種(三倍体,ABD)の染色体数倍加によって生じた複二倍体起源の作物である。 接木などの手段で有性生殖によらずに両親の形質を併せもつ個体が得られたとき,栄養雑種または接木雑種といい,ナス科植物で実験的に得られている。また最近では遺伝的構成の異なる異種の細胞どうしを人工的に融合させた融合体を雑種細胞とよんでいるが,タバコなどではこのようにして生じた雑種細胞を増殖させてカルスをつくり,さらに再分化させて新しい雑種植物が合成されている。…
※「栄養雑種」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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