原発の使用済み核燃料を再処理してプルトニウムなどを取り出し、混合酸化物(MOX)燃料に加工して再利用する取り組み。ただMOX燃料利用の本命だった高速増殖炉は、原型炉「もんじゅ」(福井県)が2016年に廃炉決定。通常の原発で使うプルサーマルも進んでいない。プルトニウムは核兵器に転用でき、大量保有には国際的な懸念もある。
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原子力をエネルギーとして利用するために用いられるウランUの一生を核燃料サイクルという。原子力には核分裂エネルギーと核融合エネルギーとがある。核分裂エネルギーの利用では,燃料にはウラン以外にもトリウムThが考えられ,また核融合エネルギーの利用で考えられている燃料は水素の同位体である重水素2H(ジュウテリウム)と三重水素3H(トリチウム)である。これらの燃料についても核燃料サイクルという言葉を用いることがあるが,現実にはまだ利用されていないので,今日では核燃料サイクルといえばウランについてのサイクルを意味する。
ウランがその一生の間にどのような姿と形に変えられ利用されることになるかは,原子炉の設計と運転の考え方による。
原子炉で一度用いた核燃料(これを使用済燃料という)には,なおエネルギーとして利用できる物質(UとプルトニウムPu)が残っている。そのような有用な物質が含まれているにもかかわらずいったん原子炉の中から取り出す必要があるのは,エネルギー生産に伴って発生した燃えかす(これを核分裂生成物という)がたまりすぎているからである。核燃料サイクルは,使用済燃料に残存するU,Puをふたたび利用するかどうかで基本的に異なってくる。再利用しない場合は非循環型(ワンス・スルー型)と呼ばれ,使用済燃料は文字どおり使用済みとなって,一定期間貯蔵・保管されたのち処分されることになる。一方,再利用する場合は循環型(リサイクル型)と呼ばれ,そのためには使用済燃料から有用なU,Puを回収すると同時に,不要な核分裂生成物を除去する必要がある。このことは,原子炉で用いる前に種々手を加えて処理した核燃料をふたたび処理し直すことを意味するので,使用済燃料再処理(核燃料再処理)と呼ばれる。
再処理によってU,Puの再利用が可能になれば,Uの利用率が向上する。Uはそれ自身エネルギーを発生すると同時にPuを生産し,そのPuがまたエネルギーを発生する。エネルギーを発生するUは主としてウラン235235Uと呼ばれる同位体であり,Puを生産するUはウラン238238Uと呼ばれる同位体である。天然ウランには235Uが約0.7%,238Uが約99.3%含まれている。したがって再処理によってPuを本格的に利用できるようになれば,Uの利用率は飛躍的に増大する。Puを本格的に利用しようとする原子炉が高速増殖炉である。高速増殖炉では,エネルギー生産のために消費されたU,Puより副産物として生産されるPuの方が多い。高速増殖炉を用いる核燃料サイクルでは,使用済燃料の再処理が不可欠となる。
高速増殖炉ほど本格的ではないが,Puの利用によってUの節約を図るという考え方がある。軽水炉では,その使用済燃料に含まれるPuを回収・再利用するように設計・運転すれば,もともと必要な天然ウランを10~15%程度節約できる。このことをプル・サーマル利用という。プルとはプルトニウムの略で,サーマルとは,軽水炉が高速増殖炉のように高速中性子ではなく熱中性子thermal neutronを利用しているためにそう呼ばれる。Puばかりでなく使用済燃料中のUも回収・再利用すれば,天然ウランの節約効果は25~30%程度まで向上する。軽水炉とは別に,もっぱらPuを燃料として用いるような原子炉を設計・運転するという考え方もある。日本では,新型転換炉と呼ばれる原子炉がこのために運転中である。
原子炉の設計・運転の考え方によって核燃料サイクルの基本構成が変わってくるいま一つの点は,その原子炉で用いられるUが天然ウランか濃縮ウランかの違いである。軽水炉では中性子が減速材である軽水に吸収されむだに消費される割合が高いため,中性子の発生割合を高めておく必要があり,235Uの比率が2~3%の濃縮ウランを用いる。この場合,ウランを原子炉の中に入れる前の段階で,天然ウランを濃縮ウランに変えるウラン濃縮という過程が核燃料サイクル上必要になってくる。中性子の利用効率がよければ,天然ウランを直接利用することも可能である。主としてカナダで使用されている重水炉やイギリスで使用されている黒鉛炉では,天然ウランが燃料として用いられている。
原子炉での核燃料サイクルの概要は以下に述べるとおりである。
天然ウランは,海水中のものを除けば鉱物として存在する。鉱石中のUの含有率は鉱床によって異なるが,多いところでは1%以上にも達する。地殻中に存在するUの平均含有率3ppmから考えて,ウラン鉱として意味のあるU含有率は100ppm(0.01%)以上であろう。ウラン鉱石は,通常の鉱物資源と同じように,採鉱・製錬される。製錬過程では,鉱山でいったん運搬しやすい形のイェローケーキと呼ばれる状態に粗製錬され,イェローケーキはさらに集中製錬所で精製錬される。
→ウラン
ウラン濃縮では,ウランを気体状にして取り扱う。このために,精製錬されたウラン精鉱は六フッ化ウランUF6と呼ばれる化合物に転換される。このことをウランの転換過程という。気体状のUF6とされた天然ウランは,ガス拡散法,ガス遠心分離法などの方法で濃縮される。この濃縮過程で,天然ウランは製品である濃縮ウランと廃棄材である劣化ウラン(減損ウランと呼ぶこともある)とに分けられる。天然ウランの235U含有率(濃縮度)0.7%に対して,濃縮ウランの濃縮度は3~4%,廃棄材のそれは0.2~0.25%に設計される。おおざっぱにいって,1tの天然ウランから約200kgの濃縮ウランを得,約800kgの劣化ウランが発生する。
→ウラン濃縮
濃縮されたばかりの濃縮ウランはUF6の形をしているが,原子炉では二酸化ウランUO2の形で用いられる。気体状のUF6を粉末状のUO2に変えることをウランの再転換過程という。再転換ののち各原子炉の仕様によって決められる燃料形態までに組み上げることを成形・加工過程という。
→核燃料
燃料はいったん原子炉の中に入れられると,通常3~5年間原子炉の中にいる。3~5年後に使用済燃料として取り出される。使用済燃料と原子炉の中に入れる前の燃料(これを新燃料という)とでは,表に示すように中身が著しく異なる。
使用済燃料の第1の特徴は,放射能が著しく高い点である。原子炉から取り出した直後では,1t当り何億キュリー(1キュリー=3.7×1010Bq)という量にのぼる。新燃料1t当りの放射能は約1キュリーであるから,原子炉の中に3~5年間入れられていた間に放射能は何億倍にも高められていることになる。この高い放射能は核分裂生成物に由来する。各核分裂生成物の放射能は固有の半減期に従って減衰していく。放射能が高いということは,単位時間当りに自分自身が消滅して放射線を出す割合が高いこと,すなわち半減期が短いことを意味する。この性質に着目すれば,使用済燃料を安全に貯蔵しておくことによってその放射能を自然に下げることができる。燃料を原子炉で用いたのちの核燃料サイクルをダウン・ストリームといい,これに対し原子炉へ入れる前の核燃料サイクル部分をアップ・ストリームということがある。ダウン・ストリームでは,まずその放射能を下げるために,使用済燃料の冷却・貯蔵過程が必要である。1年間貯蔵すれば放射能は1t当り数千万キュリーとなり,10年間貯蔵すれば数百万キュリーに減衰する。
放射能に伴って発生する放射線はまた,無視できないほどのエネルギーをもっている。原子炉から取り出して数時間たっても,使用済燃料1t当り300kW程度の熱エネルギーをもっている。これは,原子炉の中でエネルギーを生産しているときの1/100相当の発熱密度である。これは崩壊熱と呼ばれ,使用済燃料の冷却・貯蔵過程ではこの崩壊熱を除去する意味もあって,冷却という言葉が用いられる。
使用済燃料の第2の特徴は,その中に多くの有用な物質を含んでいる点にある。エネルギー源としての意味からは,10kgの235Uとそれと同量のPuが残存している。950kgの238Uにも,それ自身,あるいはそれがPuに変わりうるという意味で,エネルギー源としての価値がないわけではない。エネルギー以外の貴重な用途をもつ物質も少なくない。30kgの核分裂生成物の約10%は,ルテニウムRu,ロジウムRh,パラジウムPdといった白金族元素である。Pu以外の超ウラン元素も500g程度含まれており,煙検知器の電離イオン発生源として用いられているアメリシウムAmのように,特殊な用途としての価値がある。
エネルギー源としてU,Puを回収する場合には,使用済燃料の冷却・貯蔵過程の次に再処理過程が必要となる。再処理過程では,まずU,Puと核分裂生成物を分離し,次いでUとPuをたがいに分離するという手順を踏む。回収されたU,Puは,再度それぞれの原子炉の仕様に従った燃料形態に組み上げたのち,原子炉の中に入れられる。Puは単独で原子炉の中で用いられることはなく,Uとの混合酸化物燃料として用いられる。UとPuの混合酸化物燃料を成形・加工することはMOX(mixed oxideの略)燃料加工と呼ばれる。再処理過程の次にはMOX燃料加工過程が付随する。
→核燃料再処理
以上が原子炉を用いる場合のUの一生,核燃料サイクルの概要であるが,他方,この核燃料サイクルの各過程から種々の放射性廃棄物が発生する。放射性廃棄物を安全に管理するという放射性廃棄物管理の立場から特に重要となるのは,採鉱・粗製錬所,原子力発電所,再処理工場から発生する廃棄物である。
採鉱・粗製錬所では天然ウランに同伴して存在する種々の放射性物質が廃棄物として発生する。特に,気体状放射性物質でありα線を放出するラドン222 222Rnおよび大量に発生する鉱滓の処理が重要となる。原子力発電所から発生する放射性廃棄物は,放射能濃度の点ではごくわずかであり,ほとんどは低レベル廃棄物と呼ばれる。ただし,体積で見ると最大の規模となる。気体,液体,固体という物理的形態の違いに加えて,種々の発生源から種々雑多の廃棄物が発生する。これらは,許容値以下の濃度であることを確かめたのち環境中へ放出されるか,安定な形態に処理したのち海洋あるいは地中に処分される。再処理工場から発生する廃棄物のうちでは,U,Puから分離された核分裂生成物が特に重要となり,高レベル廃棄物として特別に管理される。発生時点では液体状であるが,より安定な固体状に固化し,一定期間貯蔵・保管したのち地質学的に安定な形態の地層中へ埋設することが考えられている。再処理を行わず使用済燃料のまま廃棄物とする場合も基本的に変わらない。ただし,その場合はU,Puも含んでいるので,それだけ放射能濃度は高くなる。
→放射性廃棄物
執筆者:鈴木 篤之
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原子炉で使う核燃料の流れをさす。このシステムは、規模、費用の点で巨大なものとならざるをえない。
[桜井 淳]
鉱山から鉱石(粗鉱)を掘り出して精錬し、精鉱(U3O8)にするが、日本で使われている核燃料は、海外の企業によってこれらの処理がなされている。その後、これらは海外でウランへと転換される。転換されたウラン(UF6)は濃縮されなければならないが、これは欧米の企業や日本原燃(JNFL)によって行われている。この濃縮ウラン(UF6)は再転換されるが、この過程は三菱(みつびし)原子燃料とアメリカのジョイントコンバージョン社などによって行われている。再転換された濃縮UO2粉末は燃料に加工される。加工は、三菱原子燃料、グローバル・ニュークリア・フュエル・ジャパン(GNFJ)および原子燃料工業によって行われている。燃料棒に使用するジルカロイ被覆管は、三菱マテリアル、住友金属工業(現、日本製鉄)および神戸製鋼所でつくられたものである。加工された燃料棒は燃料集合体に組み立てられる。
原子力発電所で燃やした使用済み燃料集合体は、核燃料再処理工場で再処理されるが、この過程は、日本原燃、英国核燃料会社(BNFL)およびフランス核燃料公社(COGEMA)で行われている。再処理で抽出されたプルトニウムは加工工程に、減損ウランは転換工程に運ばれて、ふたたび燃料として使用される。また再処理で出た放射性廃棄物は、長期にわたって管理される。
先進国といえども、原子炉から核燃料サイクルに至る全システムを一国で維持することは困難であって、国際間の協力が重要である。日本においても、軽水炉の核燃料サイクルが実規模で完成しているわけではなく、研究開発中、実証運転中の部分もある。現在運転中の軽水炉の燃料は、カナダ、イギリス、南アフリカ、オーストラリア、ニジェール、フランス、アメリカから電力会社が輸入し、燃料加工会社に支給している。アメリカから輸入する濃縮ウランは六フッ化ウラン(UF6)であり、専用容器に入れられて輸送されてくる。たとえば加圧水型原子炉の燃料集合体は、三菱原子燃料などが製作している。まず、関西電力などがアメリカから輸入した濃縮ウランが支給され、三菱原子燃料はこれを酸化物にして、酸化ウランのペレットに加工している。このペレットを、被覆管に封入して、燃料棒にする。このような燃料棒を束ねて燃料集合体にするが、完成した燃料集合体は各原子力発電所まで陸上輸送される。100万キロワット級原子力発電所では、加圧水型原子炉と沸騰水型原子炉とも、約4万本の燃料棒で炉心を構成する。軽水炉で3年間燃やした燃料集合体は炉心から取り出され、原子力発電所内の貯蔵プールで半年以上にわたり保管したのち、海上輸送により使用済み燃料として核燃料再処理工場に運び込む。さらに150日間ほど貯蔵プールに保管してから、再処理を行う。日本の各原子力発電所からの使用済み燃料の一部は、1977年(昭和52)より動力炉・核燃料開発事業団(のちの核燃料サイクル開発機構、現・日本原子力研究開発機構)の再処理工場で処理されている。
[桜井 淳]
日本政府は、原子力発電所の使用済み燃料を再処理してウラン、プルトニウム、高レベル廃棄物に分離し、このうちウランとプルトニウムはふたたび核燃料として利用するという、いわゆる核燃料リサイクル政策をとり、これに基づいて青森県六ヶ所村に再処理工場をはじめとする核燃料施設が建設されている。しかし、このような核燃料リサイクル政策はかならずしも世界の趨勢(すうせい)ではなく、イギリス、フランス、日本を除く多くの国々が使用済み燃料を再処理せずに、そのまま貯蔵しておく、いわゆるワンス・スルー方式を採用している。
すなわち、アメリカではカーター政権時代に再処理凍結の方針が定められて以来、取り出した燃料を空気中で(乾式で)監視しながら貯蔵する施設が建設された。ドイツは統一直後に建設中の再処理工場をキャンセルして貯蔵方式に切り替え、カナダは当初からワンス・スルー方式を採用してきた。その理由は、プルトニウムの利用が技術的にも経済的にも困難であり、再処理工場にトラブルが多発するなどその技術が未完成であり、また安全上からみてもワンス・スルー方式のほうが優れていると判断したからにほかならない。
[桜井 淳]
核燃料サイクルのなかでは、原子力発電所と再処理工場の安全性に、とくに注意を向けなければならない。とりわけ再処理工場は、核燃料サイクルのかなめである。核燃料サイクルを確立するためには、再処理技術と廃棄物管理技術を完全なものとしなければならない。再処理技術はマンハッタン計画(第二次世界大戦中のアメリカの原爆製造計画)において開発されたものである。戦争という異常事態のなかで、敵に先んずるために、なにがなんでもプルトニウムだけを取り出せ、という至上命令で強引に開発された。この再処理技術は、プルトニウム以外を無用の廃棄物として扱う技術であった。ウラン濃縮、原子炉、再処理といった技術は、すべて軍事用に開発されたもので、現在の軽水炉を中心とした原子力発電の技術は、この軍事技術をそのまま転用したものである。
原子炉から取り出された使用済み燃料は、遮蔽(しゃへい)容器(キャスク)に入れられて再処理工場へ輸送される。再処理工場に運び込まれると、この遮蔽容器は燃料取り出しプールの中に沈められる。使用済み燃料は、水中操作で遮蔽容器から取り出されて、燃料貯蔵プールに移される。使用済み燃料には莫大(ばくだい)な放射能がある。そこで、比較的半減期の短い原子核を崩壊させるため、この燃料貯蔵プールに約150日間保管される。燃料貯蔵プールから取り出された使用済み燃料は、遠隔操作によって剪断(せんだん)室へ移され、燃料集合体1体分の燃料棒が、剪断機で一度にその被覆管ごと長さ数センチメートルに剪断される。このとき、燃料棒の中に封じられていた希ガスが大量に放出される。放出される希ガスはおもに半減期約11年のクリプトン85で、半減期約12年のトリチウムも放出される。
再処理工場の安全性で問題となるのは、放射能放出に伴う環境への影響である。使用済み燃料の剪断片は、溶解槽の中に落ちるが、この溶解槽の中には90℃の硝酸が入っており、剪断片の中身の燃料部が硝酸に溶けて、被覆管のみ残ることになる。この被覆管は強い放射能を帯びているので、中レベル廃棄物となる。これは長期間にわたって管理される。燃料が溶け込んだ硝酸溶液は、溶媒抽出法によって、まずウランやプルトニウムの溶液と、ストロンチウムやセシウムなどの核分裂生成物を含む溶液に分離され、前者は次の分離工程へ送られ、後者は高レベル廃棄物として管理されることになる。
ウランとプルトニウムが混合した溶液中のプルトニウムは、それを還元することで、ウランから分離される。これらの溶液は、イオン交換や溶媒抽出によって精製され、一般的にプルトニウムは硝酸プルトニウム溶液、ウランは三酸化ウランとして貯蔵される。日本ではプルトニウムの単体分離を禁止している。このように再処理工場は、化学工場としての側面と、大型ホット・ラボ(高放射性物質を取り扱う施設)としての側面をもっている。
[桜井 淳]
日本原子力研究開発機構の再処理工場で得られたウランやプルトニウムは、軽水炉にはリサイクルされていないが、高速実験炉「常陽」の燃料には部分的に含まれている。なお、新型転換炉「ふげん」は世界で初めてプルトニウムを本格的に使用した原子力発電所であったが、2003年(平成15)に運転を終了した。
現在運転中の軽水炉の燃料は基本的には約3%の濃縮ウランであるが、2009年からプルトニウムがリサイクルされ始めた。プルトニウム燃料の軽水炉への利用(プルサーマル)が注目されるのは、次の理由による。
(1)日本でプルトニウムは、日本原子力研究開発機構の新型転換炉「ふげん」と高速実験炉「常陽」で実験的に使われただけで、一般の電力会社の軽水炉ではまだ使われ始めたという段階である。
(2)ウランを燃やして得られるプルトニウムは、開発が大幅に遅れ、経済的ではない。2000年代なかばに実用化が予想されていた高速増殖炉の燃料として蓄えておくしかなかったが、高速増殖炉は先進国では閉鎖の方向に向かっている。しかし、すでに商業化されている軽水炉に暫定的にプルサーマルという形で利用できれば、プルトニウムの効率利用とウラン資源の節約につながる。
日本原子力研究開発機構は、イギリス、ベルギーからプルトニウム酸化物を購入している。イギリスからのプルトニウムの中には、日本原子力発電のガス炉の使用済み燃料から回収されたプルトニウムも含まれている。日本では、プルトニウム燃料の加工は日本原子力研究開発機構だけにしか許可されていなかったが、2010年の時点では日本原燃がウラン・プルトニウム混合酸化物(MOX)燃料加工工場を建設中である。イギリスやベルギーから購入したプルトニウムで、高速実験炉「常陽」の燃料を製作しているが、部分的には日本の軽水炉の使用済み燃料の再処理で回収したプルトニウムも含まれている。
日本の核燃料サイクルは、まだ研究開発の段階である。本格的な再処理や高レベル廃棄物管理が行われるようになるまでには、今後数十年にも及ぶ期間を必要とする。また、核燃料サイクルの技術は核兵器製造技術との関連が深いだけに、国際政治の中心的な問題にもなっている。
1997年(平成9)3月11日、動力炉・核燃料開発事業団東海再処理工場の低レベル放射性廃棄物アスファルト固化施設内で発生した火災・爆発事故は、事業団の事故隠し問題ともあいまって、多くの人々に原子力開発のあり方への不信感を与え、また再処理技術の未熟さを強く印象づけた。1999年9月30日に茨城県東海村で発生したジェー・シー・オー(JCO)の臨界事故は、長期にわたる保安規定違反および安全規制違反によるものであり、国民の不信感を決定的なものにした。これらの事故を契機に、日本の核燃料サイクル政策のあり方があらためて問われている。
[桜井 淳]
『大熊由紀子著『核燃料――探査から廃棄物処理まで』(1977・朝日新聞社)』▽『中島篤之助・市川富士夫著『核燃料サイクルをめぐって――核燃料再処理と放射性廃棄物』(1978・公害対策技術同友会)』▽『高木仁三郎著『核燃料サイクル施設批判』(1991・七つ森書館)』▽『鎌田慧著『六ヶ所村の記録――核燃料サイクル基地の素顔』(講談社文庫)』
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(飯田哲也 環境エネルギー政策研究所所長 / 2007年)
出典 (株)朝日新聞出版発行「知恵蔵」知恵蔵について 情報
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
核燃料体は,核燃料物質を含む鉱石を採取し,その鉱石を精錬,精製,転換,同位体濃縮の工程にのせたのち,成形加工してつくり出される.こうしてつくられた核燃料体は,原子炉に装荷され,燃焼した後,原子炉から取り出される.この使用済み核燃料体は,再処理,再転換の工程を経てふたたび核燃料体に成形加工されて,原子炉でふたたび利用される.以上の工程とこれに付随する補助工程からなる一連の循環を核燃料サイクルという.使われる燃料の違いにより,ウラン・プルトニウムサイクル,トリウムサイクルなどということもある.
出典 森北出版「化学辞典(第2版)」化学辞典 第2版について 情報
… これらの論争の成果として,原子力発電所周辺の環境基準を年間5ミリレム(1ミリレム=10-4Sv)以下とすることが目標値として設定されるようになり,いわゆる許容量はこの半世紀間に最初の勧告値からみれば1万分の1以下に切り下げられたことになる。現在は前記諮問委員会報告の結果が環境影響評価によく用いられているが,核燃料サイクルのあらゆるステップにおける放射線影響の評価はきわめて不十分である。いままでもっとも信頼できるデータとされてきた広島,長崎の被曝影響評価のデータについて,最近とくに照射線量の推定値について根本的な見直しが必要なことが明らかとなり,日米両国の協力で再検討の作業が進行しつつあることはきわめて注目に値する。…
※「核燃料サイクル」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
年齢を問わず、多様なキャリア形成で活躍する働き方。企業には専門人材の育成支援やリスキリング(学び直し)の機会提供、女性活躍推進や従業員と役員の接点拡大などが求められる。人材の確保につながり、従業員を...
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