桜井郷(読み)さくらいごう

日本歴史地名大系 「桜井郷」の解説

桜井郷
さくらいごう

千里丘陵北部より南西に流れる千里せんり川中流域の通称桜井谷を中心とする豊島てしま郡の郷。「和名抄」の豊島郡余戸あまりべ郷に属していたが、古代末期に開発されて分立した郷か。当郷は寿永二年(一一八三)近衛基通から奈良春日社に寄進された垂水西たるみのにし牧に属し、榎坂えさか郷とともになん郷とよばれた。初見は寛元元年(一二四三)一二月日付の領家平氏女田畠売券(勝尾寺文書)で、「摂津国垂水西牧桜井郷」とみえる。永享元年(一四二九)八月日の春日社神供料所摂州桜井郷本新田畠帳(今西家文書)によると、合せて二七町六反弱の耕地が一五条六里・七里、一六条七里、一七条八里・九里を中心に散在しており、これは千里川流域の近世の柴原しばはら内田うちだ少路しようじ野畑のばたけの各村に該当する。また同年一二月七日の桜井郷御供米算用状(同文書)の全分米は一〇〇石余で、定下行分五一石余と庄立用九石八斗を除いた約三九石が定米となっており、定下行分が多い。これは当郷が垂水西牧領として成立した事情によるものと考えられる。なお、応永八年(一四〇一)七月日の春日社領垂水西牧田数帳(同文書)によれば、当郷の地積は一五町となっており、永享元年の本田一八町五反弱より少なく、当郷の開発は中世後期に進められたと考えられる。

当郷の動きをみると、鎌倉期では、弘安二年(一二七九)一一月に、右馬寮御牧の沙汰人六郎左衛門尉が乱入して末社の神殿を犯穢し、白人神人を刃傷したので、春日社家は犯人の処分と縁者らの清祓を本所近衛家に要求している(「中臣祐賢記」同月二九日条)

桜井郷
さくらいごう

「和名抄」東急本に「佐久良井」の訓注がある。郷名配列の順序から大宅おおやけ郷に南接し、河内郡の山寄り南端を占めると考えられる。近世の四条しじよう村・六万寺ろくまんじ村・横小路よこしようじ(現東大阪市)をその境域とするのが通説であるが、横小路村は河内郡条里の二条にあたるので、もとの境域はその南にある高安郡楽音寺がくおんじ(現八尾市)を加え、四条村を除き、六万寺・横小路・楽音寺の三村の地としたい(楽音寺村はもと河内郡、中世以降に高安郡に編入されたと推定)

桜井郷
さくらいごう

「和名抄」東急本は「佐久良井」と訓を付す。「大日本史国郡志」は「今郡西弥彦村有桜井地」とし、「宝亀年中有桜井荘西大寺後有弥彦荘」と記す。「日本地理志料」は「越後野志」により桜井郷はのち社名をとって弥彦やひこ庄となったとし、弥彦・観音寺かんのんじ(現西蒲原郡弥彦村)野積のづみ(現三島郡寺泊町)石瀬いしぜ間瀬まぜ岩室いわむろ(現西蒲原郡岩室村)角田浜かくだはま松野尾まつのお(現同郡巻町)赤塚あかつか(現新潟市)一帯にあてる。

桜井郷
さくらいごう

「和名抄」所載の郷。諸本とも桜井と記し、東急本・元和古活字本は「佐久良井」の訓を付す。現江津市井沢いそう町・清見せいみ町、現桜江さくらえ後山うしろやま長谷ながたに江尾えのお市山いちやま今田いまだ小田おだ川戸かわど田津たづ川越かわごえ、現石見町日和ひわ日貫ひぬい中野なかの矢上やかみ井原いばら、現瑞穂みずほ市木いちぎに比定される(島根県史)

桜井郷
さくらいごう

「和名抄」高山寺本・流布本ともに「桜井」と記し、「佐久良井」と訓ずる。頓田とんだ川下流右岸の細長い地域で東は海に臨む。平地は郷桜井ごうさくらい国分こくぶを中心とし弥生式土器を出土し、条里制の遺構を残している。

丘陵地には国分山・向山などを中心に数基の前方後円墳と数百基の後期古墳が分布している。

桜井郷
さくらいごう

「和名抄」東急本・高山寺本ともに訓を欠く。「日本地理志料」は「佐久良韋」と訓を付し、「日本書紀」安閑天皇二年五月九日条に春日部かすがべ屯倉をおく時桜井田部連と県犬養連らに詔したとあり、この桜井氏の居所が当郷になったという説、あるいは名和顕孝が飽田あきた桜木さくらぎ郷におり桜木次郎太郎と号したが、この桜木郷が当郷であるという説などをあげている。

桜井郷
さくらいごう

「和名抄」高山寺本・東急本ともに訓を欠く。「風土記稿」はさかい(現足柄上郡中井町)にある桜井権現や、桜入さくらいりの字名をサクライの遺名とみて、境は桜井が転訛したものであろうとする。

桜井郷
さくらいごう

「和名抄」高山寺本・刊本ともに訓はない。郷域はすべての説が近世の桜井村、現安城市桜井町として異論はない。

出典 平凡社「日本歴史地名大系」日本歴史地名大系について 情報

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