振り(読み)フリ

デジタル大辞泉 「振り」の意味・読み・例文・類語

ふり【振り/風】

[名]
振り動かすこと。また、振れ動くこと。「バットの―が足りない」
人の振る舞い。しぐさ。また、なりふり。「人の―見てわが―直せ」
見せかけの態度や動作。ようす。ふう。「寝た―をする」
料理屋・旅館などで、紹介や予約なしに客が来ること。また、その客。「―の客」
一時的であること。臨時。
「材木屋からしぼる―のものを…払いに当て」〈秋声縮図
舞踊で、動作・所作のこと。「―をつける」
女性用の和服の袖付け止まりから袖下までの、縫い合わせない部分。
本題に入るためのきっかけ。前置きとしてする話。「前―」
和歌の歌いぶり。和歌の風体
大僧正は、おほやう西行が―なり」〈後鳥羽院御口伝
10 歌曲の歌いざま。節回し
「その様を習ひて謡ひたれば、―はその―にて似ぬにや」〈梁塵秘抄口伝・一〇〉
11 ずれていること。ゆがんでいること。
「建ては建てたが、ちっくり笠に―がある」〈浄・嫩軍記
12 金銭の都合をつけること。やりくり。
「借銀かさみ、しだいに―に詰まり」〈浮・永代蔵・六〉
13 ふんどしや腰巻をつけないこと。多く男子にいう。ふりちん
金吹きは―になるのがしまひなり」〈柳多留・三〉
14振袖」の略。
「友禅の―のたもと北時雨」〈浄・歌祭文
15振袖新造」の略。
「片町の―を内へ呼び入れ」〈浄・阿波鳴渡
[接尾]助数詞
振る動作の回数を表すのに用いる。「バットを一―二―する」
(「口」とも書く)刀剣を数えるのに用いる。「二―の刀」
[類語](2物腰こなし身ごなし身のこなし振る舞い一挙一動一挙手一投足挙動立ち居振る舞い挙措所作しぐさ素振り身振りアクション/(3ふう様子ようすてい身振り素振そぶしぐさ格好演技所作思わせ振りジェスチャーポーズアクション外形外見外面外貌輪郭かたち形状姿すがた姿形すがたかたちなりなりかたち身なりなりふり服装風体ふうていスタイル姿勢姿態体勢かた

ぶり【振り】

[語素]
名詞、動詞の連用形に付いて、その物事の状態やようす・ありかたなどの意を表す。語調を強めるとき、「っぷり」の形になることがある。「枝振り」「仕事振り」「話し振り」「男っぷり」「飲みっぷり」
時間を表す語に付いて、再び同じ状態が現れるまでに、それだけの時間が経過した意を表す。「十年振りに日本の土を踏む」「しばらく振りに映画を見た」
数量を表す語に付いて、それに相当する分量があることを表す。「二人振りの米」「小振りの茶碗」
名詞または名詞に準じる語に付いて、曲節・調子の意を表す。「こわ振り」「ますらお振り
古代歌謡、特に雅楽寮に伝わる歌曲の曲名を表す。「天田あまだ振り

出典 小学館デジタル大辞泉について 情報 | 凡例

精選版 日本国語大辞典 「振り」の意味・読み・例文・類語

ふり【振・風】

  1. [ 1 ] 〘 名詞 〙 ( 動詞「ふる(振)」の連用形の名詞化 )
    1. 人のふるまい。挙動。しぐさ。身ぶり。また、様子。姿。風(ふう)。なりふり。
      1. [初出の実例]「大僧正は、おほやう西行がふりなり」(出典:後鳥羽院御口伝(1212‐27頃))
      2. 「天性ふりよく見事に生(そだち)たる松のごとし」(出典:役者論語(1776)耳塵集)
    2. 本当はそうではないのに、わざとそれらしくよそおった様子。まことしやかに見せかけるさま。風(ふう)
      1. [初出の実例]「何となき振(フリ)にもてなし、我れに知らせず首を打て」(出典:源平盛衰記(14C前)四五)
      2. 「いも虫は、このありが、小さいくせに、何をいふかと、知らぬふりをしてゐました」(出典:尋常小学読本(1887)〈文部省〉一)
    3. 行ないならわしているさま。しきたり。風俗。風習。習慣。
      1. [初出の実例]「十年と左様の家中にあれば、大方、家のふりに成なり」(出典:甲陽軍鑑(17C初)品一一)
    4. 行商人などが売り歩くこと。商いのために呼びまわること。また、その人。ふりうり。多く、他の語と複合して用いられる。「ふり按摩(あんま)」「ぼてふり」「ざるふり」など。〔随筆・守貞漫稿(1837‐53)〕
    5. ( 形動 ) 近世以後、料理屋、旅館、茶屋、遊女屋などに客が来る場合に、紹介や予約なしで、だしぬけであること。なじみでなく、一見(いちげん)であること。突然であること。また、そのさま。
      1. [初出の実例]「どれでもどれでもふりに呼ばれし新造の」(出典:歌謡・松の葉(1703)二・月見)
      2. 「ふりの客は、それだけ食べて行ったけれど」(出典:多情仏心(1922‐23)〈里見弴〉半処女)
    6. ( 形動 ) 一時的であること。かりそめであること。また、そのさま。臨時。
      1. [初出の実例]「材木屋から搾る臨時(フリ)のものを、呉服や貴金属屋や三味線などの払ひに当て」(出典:縮図(1941)〈徳田秋声〉素描)
    7. 歌曲の歌いざま。歌いぶり。節まわしや声づかいの型による歌い方の特徴。
      1. [初出の実例]「郢曲もろもろの朗詠どもを唱。其ふりつよからぬやうにして」(出典:郢曲抄(12C後))
    8. 謡曲の節の一つ。一音節のかなを、生み字を出して二音節にし、その中間で振るように謡うこと。また、その符号。
    9. 舞踊で、しぐさ全般をいい、狭義には舞踊の所作。小唄で踊るのを「小唄振り」、新内節で踊るのを「新内振り」という。
      1. [初出の実例]「此嵯峨の踊は、つづら帽子をしゃんと着て、踊る振が面白い」(出典:狂言歌謡・七つに成る子(鷺小舞)(室町末‐近世初))
    10. 正常な状態・位置ではなく、ずれていること。狂い。ずれ。
      1. [初出の実例]「建ては建てたが、ちっくり笠にふりが有ると、押直してためつすがめつ」(出典:浄瑠璃・一谷嫩軍記(1751)三)
    11. 金銭を負担すること。特に、酒食などのふるまい。おごり。
      1. [初出の実例]「『いたかアいつまでもいなはいな』『こいつは有がてへ、そんならなをしてそっちがふりだぞ』」(出典:洒落本・三人酩酊(1799か)笑上戸の段)
    12. ( 「ふりまわし(振回)」の略 ) 金銭の融通。やりくり。
    13. 和服の部分の名。女物の袖で、袖付から袖下まで縫い合わせないであけてある部分。長い袖の八口(やつくち)をいう。
      1. [初出の実例]「丸袖を脇あけて着すると見えて。振(フリ)みぢかくあがり物の大小」(出典:浮世草子・男色大鑑(1687)三)
    14. ふりそで(振袖)」の略。
      1. [初出の実例]「忍ぶ女の振袖(フリ)にこぼるるいわた帯」(出典:雑俳・楊梅(1702))
    15. ふりそでしんぞう(振袖新造)」「ふりそでおやま(振袖お山)」の略。
      1. [初出の実例]「ふりじゃてて裸にすればおなじ事」(出典:雑俳・湯だらひ(1706))
    16. 褌、腰巻、さるまたなどを着けず、陰部をあらわしていること。多くは男子についていう。むふん。ふりちん。ふりまら。
      1. [初出の実例]「金ふきはふりに成るのがしまひ也」(出典:雑俳・柳多留‐三(1768))
    17. ( 「振り出す」意から ) 茶などを入れること。
      1. [初出の実例]「茶屋で此方の参る茶は新造のふりか詰茶か」(出典:浄瑠璃・卯月の潤色(1707頃)中)
    18. 時計などの振子。〔慶応再版英和対訳辞書(1867)〕
    19. 野球のバットやゴルフのクラブを振ること。また、振り具合。
  2. [ 2 ] 〘 接尾語 〙
    1. 刀剣を数えるのに用いる。
      1. [初出の実例]「白うつくったる太刀一振」(出典:平家物語(13C前)八)
    2. 振る動作の回数を表わすのに用いる。
      1. [初出の実例]「小夜子の手を握って、一振り振って、笑ひながら」(出典:其面影(1906)〈二葉亭四迷〉三二)

出典 精選版 日本国語大辞典精選版 日本国語大辞典について 情報 | 凡例

改訂新版 世界大百科事典 「振り」の意味・わかりやすい解説

振り (ふり)

日本舞踊の用語。本来は人のふるまい,ようすの意であり,歌曲の歌いぶり,つまり節回しや声づかいをも〈振り〉といった。舞踊では,しぐさ,所作を指す。日本舞踊は振り,舞,踊りの3要素から成り立っているが,舞が〈まわる〉を語源とする平面的旋回動作,踊りが〈躍る〉という言葉に発している上下的動作であるのに対して,振りは物まね的しぐさの,演劇的要素の強い部分を指している。歌詞に即して物まね的に演じることもあるが,その時点を超越すると扇1本,手ぬぐい1本,時には何も持たずに状況を観客の眼前にほうふつとさせることも可能で,深い奥行きをもっている。歌舞伎舞踊の〈クドキ〉と呼ばれる眼目のくだりは,女方では恋情と嫉妬,立役では戦の物語が主で,その部分は振りが基本になっている。物語性をもつ舞踊曲を,振り事とか所作事という。また,歌詞の意味につかないものを当て振りという。
執筆者:

出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報

盆栽用語集 「振り」の解説

振り

幹模様」のページをご覧ください。

出典 (株)近代出版盆栽用語集について 情報

世界大百科事典(旧版)内の振りの言及

【マワシ】より

…ゴマ点二つあるいは三つ分の音価で詞章の一音節を〈なア〉〈にイ〉などとうたい,かつ,生み字のア,イの部分で音の下降を伴うものをいう。したがって同じようにゴマ点二つ分,あるいはそれ以上の音価をもつものであっても,引キや振リなどは,音の下降を伴わない点で,マワシとははっきり区別される。マワシは,それがどの音階音上にあるか,ヨワ吟かツヨ吟か,〈入〉〈ハル〉などの記号と結合しているかいないか,などにより,実際のうたい方はさまざまに変化し,下降した結果も,出発音より低くなる場合と,下降して出発音に戻る場合とがある。…

【ユリ】より

…日本音楽における装飾的技法,あるいは,その旋律の称。揺,由里,淘とも書く。声にも楽器にも存在する。ただし,イロ,フリ,ツキなどの名で呼ばれる装飾技法などとの区別は,かならずしも明確ではない場合がある。しかし,ナビキとかギンなどというビブラートとは,はっきり違うといってよい。つまり,ユリは,直接的に音高を波状に進行させるものであり,かつ,多くの場合,最小単位が確定していて,一つ,二つ,三つなどと数えることができる装飾技法なのである。…

【日本舞踊】より

…念仏踊(踊念仏)はそのうちの主なるものだったが,出雲のお国はこの念仏踊に〈かか踊〉〈ややこ踊〉などを交えて舞台芸術化し,かぶき踊を創始した。以後,女歌舞伎,若衆歌舞伎,野郎歌舞伎と変遷していくなかで,舞や振りという物まね的要素をとり入れて発展させた。そして女方の発生により舞踊の中心は女方に移って,元禄(1688‐1704)~享保(1716‐36)期に歌舞伎舞踊は第1次の完成をみた。…

【舞踊】より

…17世紀初頭,出雲の阿国が京都でかぶき踊を創始し,これが舞台舞踊の最初となった。以後,歌舞伎の発達にともない,歌詞を基調とし物真似の〈振り〉を重視する独特の歌舞伎舞踊が形成され,演者も女方専門から立役に広がり,振付を専門とする振付師もあらわれた。 舞踊という語は〈(まい)〉と〈踊り〉との合成語で,日本では舞は回るという旋回運動を意味し,踊(躍)りはおどり上がるという跳躍を意味し,それぞれ歴史をもつものだったが,1904年坪内逍遥が《新楽劇論》の中で用いてから一般に普及した。…

※「振り」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

今日のキーワード

プラチナキャリア

年齢を問わず、多様なキャリア形成で活躍する働き方。企業には専門人材の育成支援やリスキリング(学び直し)の機会提供、女性活躍推進や従業員と役員の接点拡大などが求められる。人材の確保につながり、従業員を...

プラチナキャリアの用語解説を読む

コトバンク for iPhone

コトバンク for Android