陰暦7月15日。三元の一つ(上元)。道教では,人の罪を許す地官の誕生日とみなし,道士が経典を読んで亡者を済度した。また仏教では,《盂蘭盆経(うらぼんきよう)》等に見える目連(もくれん)尊者の孝行譚(たん)により,六朝後期以来,寺院では盛大な盂蘭盆会が開かれ,迷える亡者を済度した。このため後世,鬼節(鬼は亡霊の意)とも呼ばれる。こうして六朝の終りには,中元はすでに道教・仏教共通の祭日となり,家々では墓参に出かけ,各寺院では,供養を受けに訪れる諸霊の乗る法船を作り,夜それを焼いた。南宋以降,放河灯(灯籠流し)も行われ,元・明以後,荷葉灯や蓮花灯が作られて,子どもたちは夜,それに火をともして町をねり歩いた。現在,灯籠流しだけは一種の観光行事として行われる。
執筆者:植木 久行
中元という語は,本来は単に7月15日のことを指したが,日本では近代に至りこれにちなむ贈答が慣習化した。近世までの文献にはこの日とくに贈答を行った記事はみられず,この贈答の成立には古くからあった盆礼,八朔(はつさく)礼,暑中見舞などの贈答習俗がかかわっている。とくに盆は祖霊の供養にとどまらず,生御霊(いきみたま)と称し存命の父母に子どもらが魚を贈る習慣があったが,これが親族間の供物のやりとりに,さらには近代の都市の発達による交際関係の拡大に伴い贈答の範囲も広がって,今日みるような歳暮(せいぼ)同様のふだん世話になる者への礼としての贈物となった。そのため盆礼本来の意味を失ったことから中元の称を当てるにいたったものと思われるが,今でも関西はじめ旧盆を行う東京以外の地域では,中元も盆に合わせ8月に贈るところが多い。こうした贈答が定着し始めたのは,一説には明治30年代といわれ,大売出しを催す百貨店等の商業主義も深く影響している。以後たのみの節供とも呼ばれ平素の恩顧に感謝する八朔の贈答も同じ意義をもつため廃れ,同様に暑中見舞も贈物を欠き書状のみで済ますようになった。
→贈物
執筆者:岩本 通弥
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本来は、1月15日の上元、10月15日の下元と並ぶ中国の道教の三元信仰の一つで、陰暦7月15日をいう。善悪を判別し人間の罪を許す神(地宮)を祭る贖罪(しょくざい)の日とされたが、これが仏教の盂蘭盆会(うらぼんえ)と結び付いて祖先崇拝行事になった。日本ではこの日に、祖霊を祭り、半年生存の息災を祝って親類縁者が互いに訪問しあって交情を深め、仏に物を供え、死者の霊の冥福(めいふく)を祈り、祖霊との共食を意味して白米、麺(めん)類、菓子、果物などを贈る習わしがあり、江戸時代はとくに盛んに行われたが、現在はこの贈答を中元とよぶようになった。盆供(ぼんく)、盆歳暮(ぼんせいぼ)、盆見舞いなどとよぶ地方もあり、新盆の家には提灯(ちょうちん)を贈る風習や、盆ざかなと称してとくになまぐさものを使う例もみられる。近年は商業政策上、先輩、上役、上司、得意先などへ中元の贈り物をする風習がおこり、扇、手拭(てぬぐい)、食料、飲料などが用いられるが、夏季手当を「素麺(そうめん)料」として従業員に配る会社や商店などもみられる。
[丸山久子]
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… 贈物をする習慣は古今東西を問わず広く存在する行為であるが,ヨーロッパなどでは歴史的に都市の発達した中世以降,贈与慣行は貨幣経済に駆逐され衰退していったといわれている。だが日本では貨幣経済の発展とも併存し,中世には武士の間で八朔(はつさく)の進物が幕府が禁令を出すほど流行したほか,中元や歳暮は逆に近世以降の都市生活の進展によってより盛んになるなど特異な展開を示してきた。現代においても一方では前近代の虚礼,農村の陋習(ろうしゆう)といわれながらもいまだ根強く,H.ベフの調査(京都,1969‐70)によれば一世帯当り月平均8.1回の贈物をしその費用は月収の7.5%にのぼるという。…
…中国,三元は本来,歳・日・時の始め(元は始の意)である正月1日を指したが,六朝末期には道教の祭日である上元・中元・下元を意味し,それぞれ正月・7月・10月の15日を指すようになった。天官・地官・水官のいわゆる三官(本来,天曹(てんそう)すなわち天上の役所を意味したが,しだいにいっさいの衆生とすべての諸神を支配する天上最高の神となる)がそれぞれの日,すべての人間の善悪・功過を調査し,それに基づいて応報したという。…
※「中元」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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