歴史気候学(読み)れきしきこうがく(英語表記)historical climatology

改訂新版 世界大百科事典 「歴史気候学」の意味・わかりやすい解説

歴史気候学 (れきしきこうがく)
historical climatology

人間をとりまく自然環境のなかでも,最も重要な要素の一つである気候の変化を,歴史にさかのぼって長期的に後づけようとする学問古気候学ともいう。自然科学の一分野であると同時に,気候の変化と人間の歴史との関連に注目する点で,歴史学とも深い関係を有する。歴史気候学の研究は,すでに19世紀から始まっているが,近年にいたり,人間と自然との関係があらためて問い直されるなかで,歴史気候学には強い関心が寄せられ,気象学の専門家と歴史家との協力態勢のもとに新たな発展の時期を迎えている。かつては,洪水,干ばつといった異常気象にのみ関心が向けられていたが,今日の歴史気候学は,気温湿度降水量などの長期的な変動に,より強い関心を示している。

 温度計気圧計雨量計などによる気象観測が系統的に行われるようになったのは18世紀のことであるから,それ以前の時代については,間接的な方法に頼らざるをえない。アルプス山地などの氷河消長を手がかりに長期的な気候変動,温暖期と寒冷期の交替を推定する氷河学や,アメリカ杉など1000年以上もの樹齢をもつ古木年輪を手がかりとする年輪年代学,古い地層中に見いだされる植物の種類を特定する花粉学などは,その代表的なものである。また,古文献を通じての,特定植物の開花・結実期日の追跡も,有力な方法として注目されている。ヨーロッパについては,ブドウの収穫期日の豊富な記録があり,日本については,平安期以来の京都における花見の宴の記録がある。こうした研究の成果によれば,ヨーロッパについては,9~12世紀半ばまでの温暖期,12世紀半ば~14世紀の寒冷期,15~16世紀前半についてはいささか不明確だが,16世紀末~19世紀半ばの寒冷期(いわゆる〈小氷期〉)といった気候の長期変動が認められ,このような気候の変化に対する人間社会の対応の仕方が,解明すべき新たな論点として注目されている。
気候学
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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「歴史気候学」の意味・わかりやすい解説

歴史気候学
れきしきこうがく
historical climatology

気候の変遷を,歴史をさかのぼって長期的に跡付ける学問。これからの地球上の気候の変化を類推する手掛かりとするため,過去の気候を研究しようとするところに,この学問の現代的な意義があったが,人間と自然とのかかわりを重視する視点から,新しい歴史学を目指す人たちの興味を呼んでいる。アルプス山地などの氷河の消長から地球の温暖期と寒冷期を調べたり,地層に残る花粉の分析から植物の生態を浮き彫りにするなどは,その代表的なものである。近年の歴史気候学の研究によれば,江戸時代の大飢饉 (ききん) が起こった時期は江戸小氷期 (これは3つに分けられる) と呼ばれる時期に当たり,冬の寒さが厳しく,夏も寒涼,多雨の気候であったことが明らかにされている。また,フランス革命前夜の 1788~89年は,凶作によって穀物価格が高騰した時期でもあった。気候が歴史の動きを決定するわけではないが,気候の変化に人間がどのように対応してきたかを追求する視点は,歴史の解明に不可欠である。

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