イタリアの作家ダンヌンツィオの長編小説。1894年刊。『快楽』『罪なき者』とともに「薔薇(ばら)のロマン」三部作をなす。前2作と同様、性愛心理の葛藤(かっとう)、遍歴を描く。主人公ジョルジョ・アウリスパは愛人イッポーリタへの情欲にとらわれていながら、彼女を完全に所有しえぬのではないかという不安と不満、そして身心の衰弱に苦しめられている。どのようにしても打ち勝つことのできない(『打ち負かし得ぬもの』というのが初めに考えられていた題名で、これは最終章の標題となる)この魅惑から解放されるために、ジョルジョは、初め故郷の原初的な野性とその血統に、ついでニーチェによる「超人」の思想に、救済の希望をかける。しかし身心の消耗と無気力は、しだいに死の妄想を募らせ、ついにイッポーリタを道連れに、死への跳躍を決意させる。この作品は、「超人」思想へのダンヌンツィオの共鳴が初めてはっきりと打ち出され、作者の芸術上、思想上の転機を示すものとして、また作中におけるワーグナーの音楽への言及や、また序文で小説の文体の「音楽性」を主張している点などで注目されている。
[米川良夫]
『岩崎純孝訳「死の勝利」(『世界文学全集17』1958・河出書房新社)』▽『野上素一訳『死の勝利』全2冊(岩波文庫)』
イタリアのダンヌンツィオの長編小説。1894年刊。初め《無敵のもの》と題して新聞に連載されたが,その後,大幅に加筆され,愛欲を克服するためにむなしい努力を重ねる主人公を描いた《薔薇の小説》三部作に,《快楽》《無垢のもの》につづく第3部として収められた。この小説で,ダンヌンツィオはポール・ブールジェの心理分析の手法を用いて,主人公のジョルジョ・アウリスパが〈力への意志〉を秘めながら,他方では美しい愛人イッポリタ・サンツィオの魅力に取りつかれ,意志と感覚の板挟みになった苦悩から自由になるために,ついに愛人とともに死を選ぶまでの心理的葛藤を描いている。ここにはニーチェの超人思想の影響が明らかに認められる。また,こうした主題と並んで,詩的で音楽的な響きをもつ言葉によって多彩なイメージがくりひろげられ,ダンヌンツィオの小説の最高傑作といわれている。
執筆者:川名 公平
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
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