死の勝利(読み)シノショウリ

デジタル大辞泉 「死の勝利」の意味・読み・例文・類語

しのしょうり【死の勝利】

原題、〈イタリア〉Il Trionfo della Morteダヌンツィオ長編小説。1894年刊。性愛の妄執鬱屈うっくつから、恋人とともに断崖から身を投じるジョルジョの心理を描く。「快楽」「罪なき者」に続く、「薔薇の小説」三部作の3作目。
《原題、〈オランダDe triomf van de doodブリューゲル絵画。板に油彩。縦117センチ、横162センチ。多くの人々が身分を問わず、死の象徴である骸骨蹂躙じゅうりんされる様子を描く。マドリードプラド美術館所蔵。

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精選版 日本国語大辞典 「死の勝利」の意味・読み・例文・類語

しのしょうり【死の勝利】

  1. ( 原題[イタリア語] Il trionto della morte ) 長編小説。ダヌンツィオ作。一八九四年発表。主人公の世紀末的性格描写にすぐれた耽美主義文学。

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「死の勝利」の意味・わかりやすい解説

死の勝利
しのしょうり
Trionfo della Morte

イタリアの作家ダンヌンツィオの長編小説。1894年刊。『快楽』『罪なき者』とともに「薔薇(ばら)のロマン」三部作をなす。前2作と同様、性愛心理の葛藤(かっとう)、遍歴を描く。主人公ジョルジョ・アウリスパは愛人イッポーリタへの情欲にとらわれていながら、彼女を完全に所有しえぬのではないかという不安と不満、そして身心の衰弱に苦しめられている。どのようにしても打ち勝つことのできない(『打ち負かし得ぬもの』というのが初めに考えられていた題名で、これは最終章の標題となる)この魅惑から解放されるために、ジョルジョは、初め故郷の原初的な野性とその血統に、ついでニーチェによる「超人」の思想に、救済の希望をかける。しかし身心の消耗と無気力は、しだいに死の妄想を募らせ、ついにイッポーリタを道連れに、死への跳躍を決意させる。この作品は、「超人」思想へのダンヌンツィオの共鳴が初めてはっきりと打ち出され、作者の芸術上、思想上の転機を示すものとして、また作中におけるワーグナーの音楽への言及や、また序文で小説の文体の「音楽性」を主張している点などで注目されている。

[米川良夫]

『岩崎純孝訳「死の勝利」(『世界文学全集17』1958・河出書房新社)』『野上素一訳『死の勝利』全2冊(岩波文庫)』

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改訂新版 世界大百科事典 「死の勝利」の意味・わかりやすい解説

死の勝利 (しのしょうり)
Il triónfo della morte

イタリアのダンヌンツィオの長編小説。1894年刊。初め《無敵のもの》と題して新聞に連載されたが,その後,大幅に加筆され,愛欲を克服するためにむなしい努力を重ねる主人公を描いた《薔薇の小説》三部作に,《快楽》《無垢のもの》につづく第3部として収められた。この小説で,ダンヌンツィオはポール・ブールジェの心理分析の手法を用いて,主人公のジョルジョ・アウリスパが〈力への意志〉を秘めながら,他方では美しい愛人イッポリタ・サンツィオの魅力に取りつかれ,意志と感覚の板挟みになった苦悩から自由になるために,ついに愛人とともに死を選ぶまでの心理的葛藤を描いている。ここにはニーチェの超人思想の影響が明らかに認められる。また,こうした主題と並んで,詩的で音楽的な響きをもつ言葉によって多彩なイメージがくりひろげられ,ダンヌンツィオの小説の最高傑作といわれている。
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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「死の勝利」の意味・わかりやすい解説

死の勝利
しのしょうり
Il trionfo della morte

イタリアの詩人,作家ガブリエーレ・ダンヌンツィオの小説。 1894年刊。快楽主義者の主人公ジョルジョ・アウリスパがイッポリタという女性との恋愛に惑溺して,次第に自分の感覚までも疑い,最後には死のみが女の情熱に勝利しうると悟って,イッポリタを海岸に誘い出し,彼女を抱いて海に沈むという物語。しかし小説の筋立ては必ずしも統一のとれたものではなく,むしろ美文による音楽的詩的効果に力点がおかれている。作者は自著の膨大な小説群を「ゆりのロマンス」「ざくろのロマンス」「ばらのロマンス」という種類に書き分け,『死の勝利』は「ばらのロマンス」3部作の最後の作品にあてられている。全般にニーチェの超人思想の影響が色濃く表われている。

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デジタル大辞泉プラス 「死の勝利」の解説

死の勝利

ネーデルラントの画家ピーテル・ブリューゲル(父)の絵画(1562)。原題《De triomf van de dood》。死の象徴である骸骨が多くの人々を身分を問わずに蹂躙していく様を描いた作品。マドリード、プラド美術館所蔵。

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