出典 平凡社「普及版 字通」普及版 字通について 情報
「せん」ともいい、毛織りの敷物、すなわち毛氈のことである。毛氈は草原の遊牧民が天幕で使用する敷物として生まれ、以後アジアの乾燥地帯から世界各地に広まった。わが国では747年(天平19)に録された「法隆寺伽藍縁起并流記資財帳(がらんえんぎならびにるきしざいちょう)」にあわせて34床、また756年(天平勝宝8)7月26日の「東大寺献物帳」(屏風花氈(びょうぶかせん)帳)に花氈60床が記されるなど、奈良時代にはかなり多用されたことが知られるが、いずれも宮廷や寺院の調度として座具の一種に用いられた。「屏風花氈帳」記載の品は古くに出蔵して伝わらないが、正倉院宝庫にはなお、紅・紫・褐色・白など単色で染めた毛氈(色氈(しきせん))14床と、花柄や人物などの文様のある毛氈(花氈)31床をとどめている。製法は、羊毛を打って柔らかくし、莚(むしろ)の上に平らに敷き、それを巻き締め、あるいは踏み締めて糊水(のりみず)を注ぎ板状にしたものであり、いまでいうところのフェルトにあたる。近世でも江戸城再建の際の、各大名による献上品中に毛氈が多数含まれており、その珍重のさまがしのばれる。
[河田 貞]
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