水産学(読み)すいさんがく(英語表記)fisheries science

精選版 日本国語大辞典 「水産学」の意味・読み・例文・類語

すいさん‐がく【水産学】

〘名〙 漁撈や水産製造、養殖などを中心に、水産技術・水産生物・水産化学などについて研究する学問。

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デジタル大辞泉 「水産学」の意味・読み・例文・類語

すいさん‐がく【水産学】

水産に関する研究を行う応用科学。漁労・養殖・水産物加工の3分野を中心にし、水産技術・水産生物・水産化学なども含む。

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「水産学」の意味・わかりやすい解説

水産学
すいさんがく
fisheries science

地球上の水域に広く生息する水産生物を、主として人類の食糧資源として永続的に採捕または増殖・利用するための学理と技術を考究する応用科学。有用生物の採捕を目的とする漁業生産手段の設計とその運用に関する漁業学、対象生物の生活史の一部または全部を人為的に管理し計画的育成を図るための水産増殖学、さらに漁獲物の利用加工に関する水産利用学などの水産技術に関連した分野が中心となるが、自然科学系の数学・物理学・化学・生物学・地学と社会科学系の経済学・経営学などを基礎学として、漁業学分野としては海洋学・海洋気象学・水産資源学・資源解析学・漁具学・漁場学・魚群行動学・水族生態学・漁船学・漁業計測学、水産増殖学分野としては魚類学・水産生物学・水産動物生理学・浮遊生物学・水産増殖環境学・水産種苗学・水族遺伝育種学・魚病学・増殖微生物学・養魚飼料学・海藻学、水産利用学分野としては分析化学・生物化学・水産化学・海水無機化学・水産食品化学・水産工業化学・高分子コロイド化学・水産微生物学・栄養学・食品衛生学、水産一般として水産原論・水産法規・水産統計学などの諸学が包含される。しかし近年の国際状況の変化や、分子生物学や情報科学の発展の影響を受け、水産学も急速に変貌(へんぼう)しつつある。

 これら水産学が高等教育機関で講じられたのは比較的日が浅く、1887年(明治20)東京農林学校水産科が最初で、その後改廃され、明治末に農商務省水産講習所(のち東京水産大学。現東京海洋大学)、東北帝国大学農科大学水産学科(現北海道大学大学院水産科学研究科)、東京帝国大学農科大学水産学科(現東京大学大学院農学生命科学研究科)が設置されて、継続的に水産学が講ぜられるようになった。水産学が飛躍的に進歩したのは1932年(昭和7)水産関係研究者を集めて結成された日本水産学会成立以降である。

 国・公・私立あわせ、2003年(平成15)10月現在、水産学関連高等教育機関として1大学校、4大学院研究科、5学部があり、このほか関連の講座を有する大学がある。音響漁法や魚群探知機の利用、各海域の資源調査、フィッシュソーセージおよび冷凍すり身の製造、海産生物の生理活性物質、海産魚の種苗育成、初期餌料(じりょう)および配合飼料の開発、真珠養殖アサクサノリワカメコンブの養殖、魚病の解明、微生物による赤潮の抑制などはその成果の一部である。

[杉田治男]

『日本水産学会編『水産学用語辞典』(1989・恒星社厚生閣)』『隆島史夫著『水族育成論』(1997・成山堂書店)』『日本水産学会出版委員会編『現代の水産学』(1994・恒星社厚生閣)』

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改訂新版 世界大百科事典 「水産学」の意味・わかりやすい解説

水産学 (すいさんがく)

水産業の基礎をなす学問の体系。水産業は水界の生物生産を人間のために利用する産業で,漁業,増養殖,利用・加工の三つのおもな分野を含む。したがって学問体系もこれに対応して,漁業学(あるいは漁労学),水産増殖学ないし水産養殖学,水産利用学あるいは水産製造学が3本の柱となる。もちろん基礎には対象水産生物の生物学,すなわち発生,形態,生理,生態など,また生化学あるいは水産物の化学などが含まれる。さらに,海洋諸科学(物理学,化学,生物学),陸水学とは密接な関係を有し,また産業の基盤を解明する水産経済学,行政体系の基幹となる水産法規などの分野も必要である。

 もともと,自然の産物を獲得する狩猟と同じ形態で出発した産業であり,ずっと漁業が中心的位置を占めてきた。ときに,漁業と水産とが同義語的に用いられるのはこのためである。水産学をさす英語としてよくfisheries scienceあるいはfishery sciencesが用いられるが,fisheryには養殖aquaculture,製造processingを含まないので,英語でいうfishery sciencesと日本でいう水産学とは内容に相違があり,水産学のほうが広い。

 漁労の技術があまり進まない間は水産資源はとりつくすことがない無限の資源とみなされ,その管理などは問題とならなかったが,とる技術が進むにつれ,乱獲が起きるようになって資源管理の重要性が認識され,水産資源学が重要な位置を占めるようになった。また近年,養殖がさかんになるにつれて急速に発展した分野に魚病学がある。また,冷凍すり身加工技術がスケトウダラの漁獲の増大をもたらしたように,利用・加工の技術は漁業自体にもインパクトを与え,また今後,限りある水産資源を有効に利用していくうえで重要である。食料以外の水産物利用も進んでおり,種々の薬品なども開発されている。水産生物に関する天然物化学(毒の研究など)も近年大いに進んだ分野である。

 このように水産学は水産業という産業に密着した学問であり,生産をぬきにしては成り立たない。したがって技術学的側面がひじょうに強いが,資源生物そのものについての基礎的知識が基本になることを忘れてはならない。

 2008年現在,日本水産学会は約4500人の会員を擁し,会員は大学など教育機関,あるいは水産試験場・研究所などで水産学の研究に従事している。日本では,水産の語が明治になってから使われるようになったのだが,水産学の教育・研究も体制が整ったのは明治期に入ってからである。教育の面では1887年大日本水産学校が設立され,また東京農林学校に簡易科水産科が設置されたのが組織的教育の初めだが,いずれも1回の募集で終りとなり,組織として永続したものとしては89年の水産伝習所の開設が重要であろう。これは大日本水産会(1882年設立の民間機関)が水産業者の養成を目的として設立した教育機関だが,97年には農商務省の水産講習所に変わった。これは第2次大戦後,東京水産大学となった(2003年東京商船大学と統合して東京海洋大学となる)。このように水産は第1次産業として官制上,農業と同じ行政機関の所轄するところであったので,大学でも農学部に水産学科がおかれた。1907年2月札幌農学校(同年6月に東北帝国大学農科大学となる)に水産学科が設置され,同年4月東京帝国大学農科大学に水産の講座が設置された。現在では水産学部として独立の学部を形成するところも多いが,農学部に所属するところも依然として多い。

 今後,食料源あるいは諸種の資源利用のため,水産生物の重要性はますます増すものと思われ,水産学もそれを支えるものとして,進歩が要求されている。
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