汗衫(読み)カザミ

デジタル大辞泉 「汗衫」の意味・読み・例文・類語

かざみ【×衫】

《「汗衫」の字音かんさん」の音変化》
衣類に汗がにじむのを防ぐために着たひとえ下着。あせとり。
山吹の絹の―よくさらされたる着たるが」〈宇治拾遺・一一〉
平安時代以降、後宮に奉仕する童女が表着うわぎの上に着た正装用の服。脇が明き、裾を長く引く。この服装のとき、こきはかま表袴うえのはかまを重ねてはく。
「―着たる人、いと若う清げなる、十余人ばかり物語して」〈落窪・二〉

かん‐さん【汗×衫】

かざみ(汗衫)

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精選版 日本国語大辞典 「汗衫」の意味・読み・例文・類語

か‐ざみ【汗衫】

〘名〙 (「汗衫」の音読「かんさん」の変化した語)
① 汗取りの一重の服。男女ともに用いた。
西大寺資財流記帳‐宝亀一一年(780)一二月二五日「汗衫四領 並帛」
② 平安以後、後宮奉仕の童女の正装。闕腋(けってき)の制で、裾を長く引き、下に衵重(あこめがさね)、単(ひとえ)をつけ、濃(こき)の袴に白の表袴(うえのはかま)を重ねてはくのを例とする。
※延喜廿一年京極御息所褒子歌合(921)「員刺(かずさ)しのわらはべ、あかくちばのかざみ、二藍(ふたあゐ)かさねて青色の綾のあこめ、おりもののうへのはかま」

かん‐さん【汗衫】

〘名〙 =かざみ(汗衫)〔十巻本和名抄(934頃)〕〔本草綱目‐服器部・汗衫・釈名

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改訂新版 世界大百科事典 「汗衫」の意味・わかりやすい解説

汗衫 (かざみ)

もと一般男女の夏の衣であったが,装束の下にも重ねられ,また,のちには童女の表衣の名称となった。衫(さん)は袖の短い単(ひとえ)のことで,これを装束の下に重ね,のちの汗取(あせとり)や下襲(したがさね)のようなものであった。《延喜式》には天皇の夏冬の衣料にも〈汗衫〉があり,色は藍と葡萄(えび)と白であったが,一般には白が多く用いられた。のち汗衫は下襲と同意語に用いられたこともあるが,平安時代の中期からはもっぱら童女の表衣の名となった。童女の汗衫の形態は狩衣(かりぎぬ)や水干(すいかん)のような脇(わき)開きの衣で,《雅亮(まさすけ)装束抄》にも〈尻一丈五尺,前一丈二尺……〉とあるように,前も尻もひじょうに長く,これをうしろにひいたことが特徴である。はじめは童女の正装として半臂はんぴ),下襲,表袴(うえのはかま),玉帯などとともに用いられ,性的分化のあらわれぬ児童服の形式をもっていたが,平安中期以後は汗衫に表着(うわぎ),(あこめ),下袴,表袴の構成となり,やや童女らしい服装となった。汗衫の地質は,織物,綾,平絹などがあり,色目には,蘇芳(すおう),萌黄(もえぎ),躑躅(つつじ),桜重(さくらがさね),紅梅,柳,白菊,黄菊,紅葉などがあった。
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「汗衫」の意味・わかりやすい解説

汗衫
かざみ

公家(くげ)童女に用いられた上着で、晴(はれ)と褻(け)の2種がある。形式は、身頃(みごろ)が二幅単(ふたのひとえ)仕立て、垂領(たりくび)と盤領(あげくび)とがあったようで、両腋(わき)があいている。晴には裾(すそ)を長く引くのを特色とし、下に数領の衵(あこめ)を襲(かさ)ね単を着て、長袴(ながばかま)の上に表袴をはく。褻には切袴の上に、対丈(ついたけ)のものを用いた。奈良時代から平安初期にかけて、貴族の男女がともに用いた汗衫(かんさん)といわれる下着が上着として用いられるようになり、もっぱら童女の用いるものとなった。名称も「かむさむ」から「かざみ」になったのであろう。『枕草子(まくらのそうし)』に「など、汗衫は。尻長(しりなが)と言へかし」、「汗衫は春は躑躅(つつじ)、桜、夏は青朽葉(くちば)、朽葉」とあり、また『源氏物語』(蛍)に「菖蒲襲(さうぶがさね)の衵、二藍(ふたあゐ)の羅(うすもの)の汗衫着たる童(わら)べぞ、西の対のなめる」とある。

[高田倭男]


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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「汗衫」の意味・わかりやすい解説

汗衫
かざみ

汗取りの衣服の意。奈良時代には一般の男女が布 (麻) 製で窄袖 (さくしゅう) の単 (ひとえ) の汗衫を着た。平安時代中期以降になると,汗衫は童女の正装をさすようになり,形も闕腋 (けってき) の (ほう) に似た裾の長いものになった。その構成は汗衫,半臂 (はんぴ) ,下襲 (したがさね) ,表袴 (うえのはかま) ,玉帯であったが,のちに簡略化して汗衫,表着, (あこめ) ,表袴,下袴となった。

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普及版 字通 「汗衫」の読み・字形・画数・意味

【汗衫】かんさん

汗とり。

字通「汗」の項目を見る

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