深沢七郎(読み)ふかざわしちろう

精選版 日本国語大辞典 「深沢七郎」の意味・読み・例文・類語

ふかざわ‐しちろう【深沢七郎】

小説家山梨県出身。日劇ミュージックホールのギター奏者を経て、昭和三一年(一九五六)「山節考」で文壇登場。土俗的な庶民エネルギーを描いて独自の地位を得るが、同三五年に発表した「風流夢譚」で筆禍事件に遭う。代表作は「笛吹川」「庶民列伝」「みちのくの人形たち」など。大正三~昭和六二年(一九一四‐八七

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デジタル大辞泉 「深沢七郎」の意味・読み・例文・類語

ふかざわ‐しちろう〔ふかざはシチラウ〕【深沢七郎】

[1914~1987]小説家。山梨の生まれ。姥捨うばすて伝説題材にした「楢山節考ならやまぶしこう」で文壇にデビュー。昭和35年(1960)発表の「風流夢譚むたん」が右翼による襲撃事件を引き起こしたため、一時世間から身を隠す。「みちのくの人形たち」で谷崎潤一郎賞受賞。他に「笛吹川」など。

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「深沢七郎」の意味・わかりやすい解説

深沢七郎
ふかざわしちろう
(1914―1987)

小説家。山梨県生まれ。県立日川中学卒業。上京して薬屋、パン屋などに住み込むが、短期間でやめ、ギターを習う。20歳ごろ胸を病む。1949年(昭和24)から54年までジミー・川上の芸名で旅回りのバンドに入る。55年、日劇ミュージック・ホールに桃原青二の名で出演。56年、丸尾長顕の勧めで姥捨(うばすて)伝説に取材した『楢山節考(ならやまぶしこう)』を『中央公論』の新人賞に応募して受賞、特異な作風で評判をよぶ。58年、戦国乱世の甲州を舞台にした『笛吹川』を刊行。60年、世上は安保問題で騒がしく、『中央公論』に発表した『風流夢譚(むたん)』を契機として右翼の襲撃事件が起き、世間から身を隠し、流浪の生活に入る。64年『甲州子守唄』を発表。65年には埼玉県に移住、ラブミー農場と名づけて農業を始め、71年、東京・曳舟(ひきふね)駅(墨田区)近くで今川焼屋を開業するなど、多くの話題を提供した。81年『みちのくの人形たち』(1979)で谷崎潤一郎賞を受賞。

笠原伸夫

『『楢山節考・笛吹川』(新潮文庫)』『『みちのくの人形たち』(中公文庫)』『日沼倫太郎著『深沢七郎論』(『自殺者の系譜』所収・1971・豊島書房)』

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百科事典マイペディア 「深沢七郎」の意味・わかりやすい解説

深沢七郎【ふかざわしちろう】

小説家。山梨県生れ。日劇ミュージック・ホールでギター奏者をしていたが,1956年《楢山節考(ならやまぶしこう)》で中央公論新人賞受賞,作家生活に入る。これは,近代的人間中心主義とは別個の人間観を姨捨(おばすて)伝説に取材して描いた作品で,正宗白鳥らに絶讃された。その他,《笛吹川》《甲州子守唄》《みちのくの人形たち》(谷崎潤一郎賞)など土俗の世界を描いた作品が多い。1960年《中央公論》に発表した《風流夢譚》をめぐって,皇室への不敬を理由とした右翼テロ事件が起こった(風流夢譚事件)。
→関連項目今村昌平

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「深沢七郎」の意味・わかりやすい解説

深沢七郎
ふかざわしちろう

[生]1914.1.29. 山梨,石和
[没]1987.8.18. 埼玉
小説家。中学卒業後,放浪生活を経てギター奏者となり,1954年から日劇ミュージックホールに出演。 56年,姥捨 (うばすて) 伝説に構想した『楢山節 (ならやまぶし) 考』が『中央公論』新人賞第1回に当選,異色の新人として迎えられた。以後『笛吹川』 (1958) ,『甲州子守唄』 (64) などで,土俗的世界の表現や,日常生活の戯画化を続けた。ほかに,いわゆる嶋中事件に発展した『風流夢譚 (むたん) 』 (60) があり,以後,一時期の空白をはさんで『庶民列伝』 (62) を書き継いだ。

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デジタル版 日本人名大辞典+Plus 「深沢七郎」の解説

深沢七郎 ふかざわ-しちろう

1914-1987 昭和時代後期の小説家。
大正3年1月29日生まれ。日川中学卒業後,職を転々とし,戦後,日劇ミュージックホールにギター奏者として出演。丸尾長顕のすすめで,昭和31年「楢山節(ならやまぶし)考」をかき中央公論新人賞。35年の「風流夢譚(むたん)」で右翼テロをひきおこし(嶋中事件)一時筆をおった。55年「みちのくの人形たち」で谷崎潤一郎賞。昭和62年8月18日死去。73歳。山梨県出身。
【格言など】死ぬってことは,自然淘汰ってことですね(「怠惰の美学」)

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世界大百科事典(旧版)内の深沢七郎の言及

【楢山節考】より

…各地の姨捨(うばすて)伝説に取材して,老人は70歳になると捨てられるという習慣のある信州の村の物語として書かれた深沢七郎(1914‐87)の小説(1956)。中央公論新人賞当選作のこの小説で深沢は文壇に登場,土俗の闇にひそむ人間感情をえぐりだす特異な作風で注目された。…

【風流夢譚事件】より

…嶋中事件ともいう。《中央公論》は1960年12月号に深沢七郎の創作《風流夢譚》を掲載したが,この作品は皇室を侮辱したものであるとした右翼団体は中央公論社に対する圧力を強めた。61年2月1日夜,大日本愛国党の元党員の少年が中央公論社嶋中社長宅に侵入し,社長夫人に重傷を負わせ,お手伝いさんを刺殺した。…

※「深沢七郎」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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