湖沼学(読み)こしょうがく(英語表記)limnology

翻訳|limnology

精選版 日本国語大辞典 「湖沼学」の意味・読み・例文・類語

こしょう‐がく コセウ‥【湖沼学】

〘名〙 陸水学の一分科。湖沼の成因、形状、水温、水質、化学成分、生物、利用法などを研究する学問。スイスフォーレルによって開拓され、日本では明治三二年(一八九九)田中阿歌磨によって始められた。

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デジタル大辞泉 「湖沼学」の意味・読み・例文・類語

こしょう‐がく〔コセウ‐〕【湖沼学】

湖沼の対象として、地学物理学化学生物学などの各方面から総合的に研究する、陸水学の一分科。

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「湖沼学」の意味・わかりやすい解説

湖沼学
こしょうがく
limnology

湖沼を研究対象とする学問。湖沼は大昔から漁業、交通、水利などを通して、人々と深いかかわり合いをもってきたが、それが科学研究の対象となったのは19世紀末からである。湖沼学は、湖沼に関する地学、物理学、化学、生物学などの諸分野を総合した科学である。これらの諸分野のうち、比較的早く研究が開始されたのは、淡水生物学であった。その後、アメリカのバージE. A. Birge、フォーブスS. A. Forbesらは、淡水生物の研究に物理・化学環境の調査、分析を加え、それぞれの湖に特有な環境と生態系が発達することを示唆した。フォーブスは、外界から独立した湖沼は、それぞれが微小宇宙であるという考えを示した。ヨーロッパでは、スイスのF・A・フォーレルが、レマン湖の総合研究や一般湖沼学の教科書を著し、湖沼学の体系化を試みた。総合科学としての湖沼学は、フォーレルに始まると考えられている。

 日本の湖沼研究は、田中阿歌麿(あかまろ)によって1899年(明治32)に開始された。田中は日本各地の湖沼を調査し、多くの著作を残した。1931年(昭和6)には、吉村信吉(しんきち)らの努力によって日本陸水学会が結成された。

 湖沼や河川では、水の流動水量、水質、生物、湖底堆積(たいせき)物、沿岸および流域の自然と人間活動など、多くの要因が関連して水の状態がつくられている。それゆえ水の研究には総合的な視野が要求される。なお、リムノロジーlimnologyは狭義には湖沼学であるが、湖沼、河川、地下水を含めた陸水学と解釈するほうが実態にあっている。湖沼学や陸水学は、水域汚染の改善や生態系保全の基礎としても重要な科学になっている。

新井 正]

『上野益三著『陸水学史』(1976・培風館)』『日本陸水学会編『陸水の事典』(2006・講談社)』

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改訂新版 世界大百科事典 「湖沼学」の意味・わかりやすい解説

湖沼学 (こしょうがく)
limnology

陸水学の一分野で,湖沼の物理的・化学的・生物学的な特質を解明する学問。湖沼を小宇宙microcosmosとする考え方から始まり,湖沼学を体系化するのに,スイスのフォーレルF.A.Forel,ドイツのティーネマンスウェーデンE.ナウマンらの力が大きかった。フォーレルはレマン湖の研究,ナウマンは北欧の湖の研究を行い,現代湖沼学の基礎をつくった。そのほか,オーストリアのルットナーF.Ruttner(1882-1961),アメリカのバージE.A.Birge(1851-1950)およびジュデーC.Juday(1871-1944)をはじめ,現在に至るまで多数の学者により世界各地で湖沼調査が進められてきた。ナウマンの提唱による国際陸水学会はその中心が湖沼学となっている。日本では1899年に田中阿歌麿(1869-1944)によって初めて湖沼学が開拓され,諏訪湖の研究などが行われた。ほかに田中館秀三(1884-1951),宮地伝三郎(1901-88),吉村信吉(1906-47)らの調査研究により,湖沼学は非常に進歩した。

 現在の湖沼の研究は細分化され,専門化されている。湖水を中心とする水収支,湖水の運動,熱収支,溶存成分に関するもの,湖底堆積物やそれから過去の堆積環境を研究する古陸水学などが考えられる。最近の研究の傾向は汚染,富栄養化,自然保護等の応用的なものが多い。日本では日本陸水学会が湖沼学研究の中心である。総合科学の性格が強いため,物理学,化学,生物学,地質学および自然地理学等の進歩が湖沼学の発達に大きく寄与している。
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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「湖沼学」の意味・わかりやすい解説

湖沼学
こしょうがく
limnology

陸水学の一学問分野で,湖沼を研究対象とする科学。湖沼の物理学的,化学的,生物学的および地学的現象やそれらの相互作用を研究すると同時に,湖沼を小宇宙として総合的にとらえる。自然科学としての湖沼学は 19世紀の中頃に始る。最初は湖の深度や湖盆の測量などがおもな仕事で,F.フォーレルの湖沼誌が主流をなした。しかし 20世紀の初めには,湖沼誌のほかに水の化学成分やプランクトンの研究が盛んとなり,1920年代以降になって湖沼型を中心問題とする近代湖沼学が現れ,現在も湖沼の化学成分,湖水の生物群集,湖沼型などの研究が中心課題となっている。なお,湖沼堆積物の花粉分析や有機物の分析などから,過去の気候変化を研究する古湖沼学も重要である。

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百科事典マイペディア 「湖沼学」の意味・わかりやすい解説

湖沼学【こしょうがく】

湖沼の性質を各方面から総合的に研究する陸水学の一部門。水位,水温,水色,透明度,静振,湖流,化学成分,あるいは湖沼の形態,成因や歴史などの地形・地質学上の問題,生物や湖沼生産力などが主要対象。1870年ころからフォーレルによって開拓され,ティーネマン,E.ナウマンらが体系化。

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世界大百科事典(旧版)内の湖沼学の言及

【陸水学】より

…地球上の陸水(河川,湖沼,地下水等)を研究する学問。陸水学という語は1931年日本陸水学会創立に使用されたもの。これとほぼ同一の対象を研究する分野に水文学がある。しかし水文学が主として河川を中心とする水の循環を研究の主題においてきたのに対し,陸水学はその成立過程から湖沼中心の発達をしてきた。現在陸水学は陸水の総合科学と考えられており,河川,湖沼,地下水,雪氷などとして存在する陸水それぞれを対象に,河川学,湖沼学,地下水学,雪氷学が存在し,陸水学の中に含まれる。…

【自然地理学】より

…海洋学に含まれる海洋誌も地理学にとって重要であるが,この部分を開拓する学者は少ない。水理学に含まれる分野では湖沼学,河川学など陸水学と総称されるものが重要で,この中には地下水の調査なども含まれている。生物学との関係も深く,とくに植物の生態・分布,植物帯の研究が重要である。…

【生態学】より

…この2側面はそれぞれの後継ぎを思いがけないところに見いだした。 湖沼学(のちに陸水学となる)はすでに19世紀に成立していたが,そこでは湖沼中の物質循環の問題と湖沼生物の生態の追求が並行して進められていた。その中から有機化合物や無機塩類の循環における生物の役割が注目され,湖沼生物を生産者,消費者,分解者(還元者)に類型化することが20世紀初めころから行われた。…

【田中阿歌麿】より

…湖沼学者。東京築地の尾張藩主徳川侯邸内に生まれた。…

※「湖沼学」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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