平安初期の廷臣。河原左大臣と称される。嵯峨一世源氏。母大原全子。仁明天皇の養子となり838年(承和5)内裏で元服。累進して左大臣に至ったが,藤原良房,基経らの執政下で力を伸ばしえず,巨富により河原院(かわらのいん)や嵯峨の山荘棲霞観(せいかかん)などを営み,豪奢な生活を送った。歌人としても知られる。《大鏡》には彼の皇位への野心を伝える。河原院は宇多上皇の領となった。
執筆者:黒板 伸夫
融の邸宅河原院は,その景観が賞され,当時の詩歌にしばしば詠じられている。なかでも,陸奥の塩釜を模したことは有名で諸書にみえる。例えば,《古今集》の紀貫之の歌の詞書にみえ,この歌に注して《顕註密勘》は,毎月30石の潮をその池に運び入れ,塩屋で焼く煙が立ちこめたと伝える。能の《融》はこの塩釜を素材とした曲である。河原院は融の霊や鬼が出没したことでも有名で,《江談抄》巻四に,宇多院が京極御息所褒子と河原院に赴き房事に及ぶと,融の霊が出現して御息所の下賜を請う。院が叱責すると院の腰を抱き,御息所は失神する。還御して浄蔵法師の加持により御息所は蘇生したと伝える。類話は《今昔物語集》巻二十七-2,《古本説話集》上-27,《宇治拾遺物語》151にみえるが,御息所のことはない。河原院に宿泊して鬼に取り殺された女の話が《今昔物語集》の同巻17話にみえるのを考え合わせると,平安時代の後期には河原院が融の霊を主とする霊鬼のすみかと考えられていたらしい。《十訓抄》巻五に融の霊の抜苦(ばつく)のため宇多院が7ヵ寺に命じて諷誦せしめたことを伝え,《続古事談》巻四にも同話を載せ,融の子仁康聖人によって河原院が寺とされ,のち祇陀林寺に移したと伝える。現在,本覚寺(下京区)や錦天満宮(中京区)には塩竈社があり融をまつる。嵯峨の清凉寺は融の山荘棲霞観跡と伝え,俗に融の墓と称される石塔(淳和天皇の子恒寂法師の供養塔とも)がある。
執筆者:山本 吉左右
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(朧谷寿)
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平安前期の歌人。嵯峨(さが)天皇の皇子。838年(承和5)臣籍に下り、872年(貞観14)左大臣に上り、左大臣在職24年。生来、風流を好み、鴨(かも)川のほとり東六条に四町四方を占める大邸宅河原院(かわらのいん)を営んだことから、河原左大臣とよばれた。奥州塩竈(しおがま)に模した河原院の名園は文人貴公子の社交場となったが、死後は荒廃した模様である。この河原院と融の大臣を題材とした夢幻能に『融』がある。勅撰(ちょくせん)所載歌は『古今集』以下四首。
みちのくのしのぶもぢずり誰ゆゑに乱れそめにしわれならなくに
[島田良二]
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822~895.8.25
河原左大臣とも。平安初期の公卿。嵯峨天皇皇子。母は大原全子。仁明(にんみょう)天皇の養子となった。源朝臣を賜り臣籍降下。838年(承和5)元服し正四位下。856年(斉衡3)参議。時に従三位。864年(貞観6)中納言。870年大納言。872年左大臣。888年(仁和4)阿衡(あこう)の紛議を判じた。895年(寛平7)正一位追贈。「大鏡」に陽成天皇の譲位に際し,皇位を望んだとみえる。
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[作者について]
このような世界を描き出して見せた作者は,現実の貴族社会の俗悪面に矛盾を感じつつも,なお人間世界での清純なものにあこがれた人で,和・漢・仏教等の教養ゆたかな男性であったようである。作者については,従来,源順(したごう),源融(とおる),僧正遍昭,斎部(いんべ)氏の一族などの諸説があるが,確証はない。《竹取物語》は,上述したごとく,対照的な要素を,伝統的な形態の中に創造的な契機をふくめて,巧みに描き出した物語で,たわいなく,おもしろく,美しく,深みのある作品である。…
…世阿弥作。シテは源融の霊。旅の僧(ワキ)が都に着き,河原の院の旧跡を訪れると,潮汲みの老人(前ジテ)がやって来る。…
※「源融」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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