(読み)ユウ

デジタル大辞泉 「融」の意味・読み・例文・類語

ゆう【融】[漢字項目]

常用漢字] [音]ユウ(漢) [訓]とける とおる
固いものがとける。とけて一つになる。「融解融合融点融和渾融こんゆう溶融
滞りなく通る。「融資融通金融
[名のり]あき・あきら・すけ・とお・ながし・みち・よし

とおる〔とほる〕【融】

謡曲。五番目物世阿弥作。伊勢物語古今集などに取材。旅僧が六条河原院を訪れると、左大臣源融みなもとのとおるの霊が現れ、栄華の昔を語る。

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精選版 日本国語大辞典 「融」の意味・読み・例文・類語

とおるとほる【融】

  1. [ 一 ] 謡曲。五番目物。各流。世阿彌作。古名「塩竈」。旅僧が京都六条河原の院で休んでいると、桶をかついだ老人が来てこの所の潮くみだと名のり、ここはむかし融の大臣が陸奥の千賀の塩竈に模して作った庭のあとだと語る。そして、月に映じた景色を賞し、融の大臣のことを語り、あたりの名所を教えて、やがて姿を消す。その夜、僧の夢の中に融の大臣が現われ、明月の下で遊楽の舞を舞う。
  2. [ 二 ] 地唄。京都石川勾当作曲の三弦の大曲[ 一 ]の終わりの部分を歌詞にした、複雑な手事物形式のもの。のち大坂の市浦検校が箏の手を作曲して合奏するようにした。幕末の作品。

ゆう【融】

  1. 〘 名詞 〙 ( 形動 ) やわらぐこと。のどかなこと。また、そのさま。
    1. [初出の実例]「杳(はるか)に見あぐれば峯も緑に、梢もうるはしくして、天の詠(ながめ)も融(ユウ)なる比(ころ)」(出典:浮世草子・近代艷隠者(1686)三)
    2. [その他の文献]〔白居易‐箏詩〕

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普及版 字通 「融」の読み・字形・画数・意味


常用漢字 16画

[字音] ユウ
[字訓] とける・やわらぐ・とおる・あきらか

[説文解字]

[字形] 会意
初形は鬲(れき)+蟲(虫)。のち略して融に作る。鬲は食器。烹炊に用い、またその物を貯蔵する器。器中のものが腐敗して、器の傍に虫があふれ出る形。ものの腐敗し融会する意。〔説文〕三下に「炊气(すいき)上出するなり」とし、〔唐写本切韻残巻〕には「气上出するなり」とあり、いずれも烹炊の状をいうとするが、腐膩(ふじ)して虫がはいまわるさまを示す字である。(ひさご)の類が熟して実が油化することを油といい、声義ともに近い字である。

[訓義]
1. とける、とろける、くさる、液体化する。
2. やわらぐ、ひろがる。
3. とおる、すきとおる、あきらか。
4. ほがらか、たのしむ。
5. ゆげがでる。

[古辞書の訓]
立〕融 トホル・トク・カヨフ・カヨハス・ホガラカニナラシム 〔字鏡集〕融 トク・トロム・ホガラカ・カス・トホス・カヨフ

[語系]
融jiumは鎔jiongと声義近く、ともに融解することをいう。油・由jiuは、の実が熟して、中が油状になることをいい、声義が近い。

[熟語]
融怡融懿融泄融裔・融液・融遠・融化・融解・融会融顕融悟・融光・融合融渾融散融釈・融雪・融然・融暢・融通・融盪・融風・融明・融冶融融・融和
[下接語]
円融・金融・顕融・孔融・光融・渾融・祝融・春融・冲融・妙融・溶融

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「融」の意味・わかりやすい解説


とおる

能の曲目。五番目物。五流現行曲。世阿弥(ぜあみ)の名作。嵯峨(さが)天皇の子息源融(とおる)が京都に豪奢(ごうしゃ)な邸宅を営み、そこに歌枕(うたまくら)で有名な陸奥(みちのく)の塩釜(しおがま)の景色をそのままにつくり、海水を運ばせて塩焼く風情を楽しんだことは『伊勢(いせ)物語』にもみえる。『古今集』には、その壮大な風雅も廃墟(はいきょ)となったむなしさを、紀貫之(きのつらゆき)が「君まさで烟(けむり)絶えにし塩がまの浦さびしくも見えわたるかな」と詠じている。

 東国の僧(ワキ)が都に上り、六条河原の院に休んでいると、担桶(たご)を担いだ潮汲(しおく)みの老人(前シテ)が登場し、ここが融大臣(とおるのおとど)の風流の跡であることを語り、貫之の和歌を引き、懐旧の涙にむせぶが、旅人に四方の名所の眺望を教え、満月とともに潮を汲む態で消え去る。僧の夢のなかに、融の亡霊(後(のち)シテ)はありし日の貴族の装いでふたたび現れる。月の美をさまざまに語り舞いつつ、夜も明け方になると、彼はまた月の世界へと帰っていく。日本的な数寄(すき)の世界の極致、それも荒れ果てた思い出の跡からの栄華の幻想という前段と、月の美への回帰という視点で描いた後段とがみごとに対比され、詩趣豊かな能である。流れるような舞のおもしろさを強調した、さまざまの演出が各流にある。世阿弥以前は、源融が幽鬼の姿で登場する荒々しい能であったらしい。

増田正造

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改訂新版 世界大百科事典 「融」の意味・わかりやすい解説

融 (とおる)

能の曲名。五番目物。世阿弥作。シテは源融の霊。旅の僧(ワキ)が都に着き,河原の院の旧跡を訪れると,潮汲みの老人(前ジテ)がやって来る。桶(おけ)をかついだ老人がいうには,ここは左大臣源融の旧邸で,融は奥州塩竈(しおがま)の浦の眺望をしのんで,難波の浦から邸内の池へ海水を運ばせ,塩を焼かせて楽しんだと物語り,懐旧の思いにふける(〈語リ等〉)。また,老人は,僧の求めに応じて見え渡る京の山々を指さして教え,うち興じていたが,ふと思い出して桶で潮を汲むうちに,潮ぐもりで姿が見えなくなる(〈掛ケ合・ロンギ〉)。僧が待っていると,夜半過ぎに融の大臣(後ジテ)が昔の姿で現れ,楽しげに舞を舞い(〈早舞(はやまい)〉),月景色をめでるうちに明け方となり,融の姿は月世界に向かうかのように消え去る(〈ロンギ〉)。

 文辞,節付けともによく,世阿弥の作能の中でも佳品。しみじみとした懐旧の場面から,一転して明るい名所教えに移るなど,独特の味がある。前場,後場ともロンギが優れている。
執筆者:

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「融」の意味・わかりやすい解説


とおる

能の曲名。切能物 (→尾能 ) 。世阿弥作。都一見の旅に出た東国の僧 (ワキ) が,都六条河原の院に着くと,このところの汐汲みと名のる老人 (シテ) に出会う。不思議に思う僧に老人は,昔左大臣の源融が陸奥の塩竈 (しおがま) の景をこの地に移したいわれを語り (語り) ,周囲の山々名所を教え,秋の月夜に汐を汲んで姿を消す (中入り) 。ところの者 (アイ) が,老人は融の化身と教え,僧のまどろむうちに,融の大臣 (後ジテ) は姿を現し,都に現した塩竈の名勝に袖を返し (盤渉〈ばんしき〉早舞) 舞い遊ぶ。

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歌舞伎・浄瑠璃外題よみかた辞典 「融」の解説


とかし

歌舞伎・浄瑠璃の外題。
初演
寛文2.9(江戸)

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世界大百科事典(旧版)内のの言及

【源融】より

…河原院は宇多上皇の領となった。【黒板 伸夫】
[説話と伝承]
 融の邸宅河原院は,その景観が賞され,当時の詩歌にしばしば詠じられている。なかでも,陸奥の塩釜を模したことは有名で諸書にみえる。…

※「融」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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