狐火(読み)きつねび

ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典の解説

狐火
きつねび

(1) 義太夫節曲名 近松半二らの合作『本朝廿四孝』の4段目。明和3 (1766) 年竹本座で初演された。時代物。いとしい勝頼が討たれると知った八重垣姫が必死の念で法性の兜に祈ると,狐の力が姫に乗移り,あとを追う。曲も人形の動きも華麗でしばしば上演される。 (2) 地歌の曲名 元禄年間 (1688~1704) の三味線の名手岸野次郎三郎の作曲。前半は赤穂浪士の大石内蔵助らの作詞ともいわれる。後半に投節 (なげぶし) が取入れられているほか,他の三味線音楽に,この曲の旋律がさまざまに応用されていることで有名。

狐火
きつねび

夜陰に野原などで火が点々と見えたり消えたりする現象をいう。原因は明らかにされていない。キツネが火を燃やすという俗信から生じたもので,キツネが骨をくわえて口気を吹くときに発するという説もある。地方により,その形状,名称はまちまちに伝えられ,東北地方では狐松明 (キツネたいまつ) と呼ぶ土地もある。菅江真澄の『雪の出羽路』には,秋田県平鹿郡では村になにかよいことのある前兆として狐火が現れると綴られている。この狐火がちょうちん行列のように見える様子を,一般に狐の嫁入りともいう。

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デジタル大辞泉の解説

きつね‐び【×狐火】

《狐の口から吐き出された火という俗説から》
闇夜に山野などで光って見える燐火(りんか)鬼火。また、光の異常屈折によるという。狐の提灯(ちょうちん)。 冬》「―や髑髏(どくろ)に雨のたまる夜に/蕪村
歌舞伎などで、人魂(ひとだま)や狐火に見せるために使う特殊な火。焼酎火(しょうちゅうび)。
浄瑠璃本朝廿四孝(ほんちょうにじゅうしこう)」の四段目「謙信館奥庭狐火の段」の通称。

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世界大百科事典 第2版の解説

きつねび【狐火】

キツネがともすとされる淡紅色怪火。単独で光るものもあるが,多くは〈狐の提灯行列〉とか〈狐の嫁入り〉とよばれるもので,数多くの灯火が点滅しながら横に連なって行進する。群馬県桐生付近には結婚式の晩に狐火を見ると,嫁入行列を中止して謹慎する風習があったという。江戸の王子稲荷の大エノキの元には毎年大晦日に関八州のキツネが集まって狐火をともしたといわれ,その火で翌年の吉凶を占う風もあった。狐火がよく見られるというのは,薄暮や暗くなる間際のいわゆるたそがれどきとか翌日が雨になりそうな天候の変り目に当たるときであり,出現する場所も川の対岸,山と平野の境目,村境や町はずれといった場所で,キツネに化かされる場所とも一致するようである。

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大辞林 第三版の解説

きつねび【狐火】

(狐の口から出るという)冬から春先にかけての夜間、野原・山間などに多く見られる奇怪な青白い火。鬼火。燐火。狐の提灯。 [季] 冬。 《 -や髑髏に雨のたまる夜に /蕪村 》

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日本大百科全書(ニッポニカ)の解説

狐火
きつねび

山際や川沿いの所などに現れる怪光の一種。現在なお正体不明の部分が多い。英語でフォックスファイアfox fireという場合のフォックスは、キツネのことではなく、朽ちるとか、腐って色が変わるとかいう動詞、あるいは朽ち木などについたバクテリアの発光をいう。しかしこれは4、5メートルも離れると見えないから、古来、日本で見られた狐火とは違う。更科公護(さらしなきみもり)は、日本における狐火の見え方の特徴を次のようにまとめている(1958)。
(1)火の気のない所に火の玉が一列に並んで現れる。
(2)色は提灯(ちょうちん)または松明(たいまつ)のようである。
(3)狐火はついたり消えたり、消えたかと思うと、異なった方向に現れたりする。
(4)狐火の現れる季節は春から秋口にわたっており、蒸し暑い夏、どんよりとした天気の変わり目に現れやすい。
(5)狐火の正体を見届けに行くと、途中でかならず消えてしまう。
 狐火についてはその後、角田義治の詳細な研究(1977)があり、これは山間部から平野部に向かう扇状地などに現れやすい光の異常屈折によってほぼ説明できることが明らかにされた。[根本順吉]

民俗

狐火の正体として、越後(えちご)(新潟県)のものは天然の石油の発火というようなことも考えられるが、発光の原因としては、このほか球電現象による場合もあったであろう。江戸で有名なのは王子の狐火で、毎年大つごもりの夜にはよく現れ、これをわざわざ見物に出かける人もいた。芝居では『本朝廿四孝(にじゅうしこう)』という狂言の四段目「謙信館狐火の段」で舞台の上で狐火を見せる。この芝居に出る狐は善玉の狐である。狐火と同様の現象はヨーロッパの各地でも見られているが、ドイツではこれをイルリヒトIrrlichtといい、屋根に住む小人コボルトのなす術(わざ)と考えられている。出現する場所が日本と同様、川沿いの所に多いことも興味深い。狐火は冬の季語となっている。[根本順吉]
『角田義治著『現代怪火考――狐火の研究』(1979・大陸書房)』

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精選版 日本国語大辞典の解説

きつね‐び【狐火】

〘名〙
① (狐の口から吐き出されるという俗説に基づく) 闇夜、山野に出現する怪火。実際は燐化水素の燃焼などによる自然現象。燐火(りんか)。鬼火(おにび)。狐の提灯(ちょうちん)。幽霊火。青火。《季・冬》
※実隆公記‐長享二年(1488)二月二日「夜前於野路狐火
※俳諧・蕪村句集(1784)冬「狐火や髑髏に雨のたまる夜に」
② (青白い光が狐火に似ているところから) 芝居で、樟脳火(しょうのうび)をいう。
③ 植物「のげいとう(野鶏頭)」の異名。
④ きのこ「ほこりたけ(埃茸)」の異名。〔重訂本草綱目啓蒙(1847)〕
[語誌](1)狐が火をともすという俗信は「宇治拾遺‐三」をはじめ古くからあった。
(2)近世、江戸郊外の王子稲荷に大晦日の夜に狐が集まって官位を定めるとの言い伝えが流布して、大晦日の夜は「王子の狐火」を見に人が集まりその燃え方により新年の豊凶を占ったという。単に「狐火」で冬の季語とするのは「王子の狐火」からの転用であろうが、蕪村などの用例はあるものの歳時記への登録は大正時代まで下る。→「おにび(鬼火)」の語誌

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