霊魂が身体から遊離して起きる怪火現象。浮遊している火の玉を人魂とみる例が一般的といえるものの,火の玉と人魂とを区別している例もある。この現象は幻覚の一種であるが,生命の根元が霊魂にあり,その霊魂が肉体より離れることによって死や病気などさまざまな異常な現象が起こるという遊離魂の観念にもとづいている。シャマニズムの観念,魂呼ばい(魂呼び)や沖縄本島のマブイ(霊魂)落しやマブイ込めの習俗などの観念と一連のものといえる。人魂は死の前後に,夕方から朝方にかけて出現することが多いが,昼間に出現することもあり,死後かなりの期間を経たものが出現する場合もあるという。この場合にはこの世に未練を残して死亡した人の霊が多いといわれる。また人魂の形・色・出現の状態もさまざまで,円形・楕円形,青白・赤・黄,ふわふわと飛ぶ,ぼーっと出るなどといわれ一様ではない。なお,《万葉集》巻十六に載る〈怕(おそろ)しき物の歌〉のうちに,〈人魂のさ青(お)なる君がただ独り逢へりし雨夜の葬(はぶ)りをぞ思ふ〉という一首がある。
執筆者:宮本 袈裟雄
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火の玉ともいい、死者の霊をいう。人が死ぬときに人魂が出るといい、夜分に出ると青色の光を発して空中を飛ぶという。地上に落ちたものを見ると「こんにゃく」のようなものという。人魂が川を越すと本人はよみがえり、あと3年ぐらい生存できるともいう。大分県旧大野郡(現、豊後大野(ぶんごおおの)市など)では、「ぬえ」という鳥が鳴くと人が死ぬのでこの鳥を「ヒトダマ」とよんでいる。青森県下北(しもきた)半島の小川原(おがわら)地区では、人の死ぬ前か死と同時に肉親や知人のところへくる人魂を、「タマシ」または「タマンコ」という。「タマシ」は人によって見える人と見えない人とがある。また前に死んだ人の人魂が、病人を迎えにくることもあるという。病み衰えた老人の人魂は弱々しく、若い者の事故で死んだときなどの人魂は勢いがよいという。人の末期(まつご)に際して魂(たま)呼びということをするのも、この人魂信仰に基づいている。奈良県宇陀(うだ)市菟田野(うたの)区では「タマヨビ」と称して末期の病人を起こして水を与え、死ぬと死者の着物を屋根の上にほうり上げるという。
[大藤時彦]
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…怪火の一つで,暗い雨夜に湿地や墓地などで燃えるという火。燐火(りんび),人魂(ひとだま),火の玉ともよばれ,形は円形,楕円形,杓子形などで尾をひいて中空をとび,青色のほか黄色や赤色の火もある。人が死ぬと同時にその家の藪から青白い火の玉が出るとか,人の魂は家から知人の所へまわってから寺へ入るなどともいう。…
※「人魂」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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