皇室経済をつかさどる官庁。令制では中務省に属し,明治官制では宮内省に置かれた。〈うちのくらのつかさ〉とも読んだが,のちには〈内〉の字を読まないのが慣例となり,また唐名の倉部の称も用いられた。《古語拾遺》には,神武天皇のとき宮内に蔵を建て,神物・官物(みやけのもの)をあわせ納めて斎蔵(いみくら)と称したが,履中天皇のとき別に内蔵(うちつくら)を建てて官物を分納し,さらに雄略朝に諸国の貢献物を納める大蔵を分立したという伝承を載せ,三蔵の分立として名高い。養老令や延喜式の規定によれば,内蔵寮は大蔵省から割き送られた金銀・宝器・錦綾などを保管出納し,天皇・中宮の御服・靴履その他別勅の用物,および諸社祭・陵墓の幣物,祭使の装束,御斎会以下三会の布施,御在所殿舎の灯油などを調進するのを職掌とした。そのほか内侍所の供神物や装束を調達し,供御および公卿の饗饌を弁備したことも,国史以下諸記録に見える。
職員には,頭・助・允・属の四等官のほか,出納をつかさどる大少主鎰および蔵部,市買のことをつかさどる価長などが置かれた。内蔵頭は,令制では従五位下相当の官であったが,内廷経済をつかさどる要職として重視され,平安時代中ごろからは四位の殿上人が任ぜられる官となった。1097年(承徳1)内蔵頭に任ぜられた藤原宗忠は,その日記に,古来この職には蔵人頭や弁官,近衛中少将などを経歴した天皇親近の殿上人が任ぜられる例であったが,近年は寮納の不足を補うため,財力のある受領(ずりよう)(国守)が兼任する場合が多くなった,と書いているが,院政時代以降とくにこの傾向が強くなった。ついで官職世襲の風潮のなかで,院近臣受領に系譜を引く四条家,山科家などの廷臣がこの職を占め,南北朝時代以降は山科家が世襲して江戸時代末に及んだ。また平安時代後期には,内蔵頭は家中に御服所を設け,裁縫の女工等を置く例となっていたが,以後も御服調達のことが頭の職務の中心となったので,山科家は衣紋道を家職とするに至った。
律令財政のしくみがくずれるなかで,平安時代から鎌倉時代にかけて,寮領の御厨(みくりや),御園,荘保,および料物の月宛国制(毎月1ヵ国に割当て)が成立して寮用を支え,さらに率分関銭や供御人・商人の公事銭も重要な財源となった。1333年(元弘3)の《内蔵寮領等目録》には,内侍所供神物,御服月料絹綿,御殿油の各月宛国および御服紅花貢進国を列挙し,河内国大江御厨以下22ヵ所の寮領を載せ,率分銭を徴する京都出入の関所2ヵ所,公事銭を徴する供御人等を挙げている。
内蔵寮は明治維新の際いったん廃絶したが,1884年宮内省の一部局として復置され,頭・助・属などの職員を置き,帝室一般の財務をつかさどり,貴重の物品等を保管する所と定められ,財務・主計・用度の3課が置かれた。しかし1948年の宮内府法施行令の改正によって内蔵寮は廃止され,現在は宮内庁長官官房に皇室経済主管および主計課,用度課が置かれている。
執筆者:橋本 義彦
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「うちのくらのつかさ」とも。大宝・養老令制の中務(なかつかさ)省被管の財政官司。令制以前の内蔵(うちつくら)につながる。天皇の命を直接うけて供御(くご)を行うほか,官人への賜物,神社への奉幣などにもあたり,これらと天皇の結合の強化に寄与した。財源は大蔵省からうける原則だったが,直接諸国から調達するものもあった。歴代天皇の宝物も保管した。平安時代以降も蔵人所(くろうどどころ)の指揮下で宮中の財政の中核にあり,多くの領地や供御人を管轄するなど,財政基盤を強化した。
出典 山川出版社「山川 日本史小辞典 改訂新版」山川 日本史小辞典 改訂新版について 情報
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…《古語拾遺》には,神武天皇のとき宮内に蔵を建て,神物・官物(みやけのもの)をあわせ納めて斎蔵(いみくら)と称したが,履中天皇のとき別に内蔵(うちつくら)を建てて官物を分納し,さらに雄略朝に諸国の貢献物を納める大蔵を分立したという伝承を載せ,三蔵の分立として名高い。養老令や延喜式の規定によれば,内蔵寮は大蔵省から割き送られた金銀・宝器・錦綾などを保管出納し,天皇・中宮の御服・靴履その他別勅の用物,および諸社祭・陵墓の幣物,祭使の装束,御斎会以下三会の布施,御在所殿舎の灯油などを調進するのを職掌とした。そのほか内侍所の供神物や装束を調達し,供御および公卿の饗饌を弁備したことも,国史以下諸記録に見える。…
…しかし《延喜式》には染色の制度,工程,染法,染料などのほか,装束の用布などがかなり詳しく記されており,この時代の染色を知る重要な手がかりとなっている。制度は前代の養老律令をほぼ踏襲しており,染色は主として,平安遷都に際して新設された中務省の内蔵寮(くらりよう)や縫殿寮(ぬいどのりよう)で処理されていたと思われる。縫殿寮の定員18人中には6人の染手が,また内蔵寮の作手定員33人のなかには,夾纈手2,﨟纈手2,繧繝手2,焼灰4,採黄櫨(きはじ)1,計11人もの染色技術者が含まれており,別に染手5人がこの寮に属していた。…
※「内蔵寮」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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