勾当(読み)コウトウ

デジタル大辞泉 「勾当」の意味・読み・例文・類語

こう‐とう〔‐タウ〕【勾当】

役所の事務を、専門に担当して処理すること。また、その人。
「清麻呂を遣はしてその事を―せしめ」〈続紀・延暦〉
律令制で、大蔵省率分所りつぶんしょ長殿ながどのや記録所などの職員
摂関家侍所で、別当の下にあって事務を執った者。
真言宗天台宗などで、寺の事務を執る役僧
盲人の官名の一。検校けんぎょう別当下位座頭上位
勾当内侍こうとうのないし」の略。

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精選版 日本国語大辞典 「勾当」の意味・読み・例文・類語

こう‐とう‥タウ【勾当】

  1. 〘 名詞 〙
  2. もっぱらその事を担当して処置すること。また、それをするもの。
    1. [初出の実例]「属遷造大安寺於平城、勑法師当其事」(出典:続日本紀‐天平一六年(744)一〇月辛卯)
    2. [その他の文献]〔北史‐序伝〕
  3. 中古、記録所や大蔵省の率分所(りつぶんじょ)長殿(ながとの)などで事務をつかさどったもの。
  4. 摂政、関白家の侍所で、別当の下にあって事務をつかさどったもの。
    1. [初出の実例]「新院の御方へ参りける人々には、〈略〉三男左大臣勾当正綱」(出典:保元物語(1220頃か)上)
  5. こうとう(勾当)の内侍」の略。
    1. [初出の実例]「御湯殿つかうまつる内侍、湯巻(いまき)をきる事もあり。勾当などなり」(出典:日中行事略解(1820))
  6. 寺内の庶務雑事をつかさどる役名。東大寺や真言宗、天台宗など、または宮寺などにおかれ、別当の下にいて、もっぱら事務をつかさどった。勾当法師。勾当坊。
    1. [初出の実例]「寺檀越等統領寺家財物田園、不僧尼勾当、不自由」(出典:家伝(760頃)下)
  7. 盲人の官の一つ。検校、別当の下、座頭の上位にあたる。こうと。
    1. [初出の実例]「景清は両眼盲ひましまして、せん方なさに髪を下し、日向の勾当と名をつきき給ひ」(出典:大観本謡曲・景清(1466頃))
  8. 神官の位の一つ。
    1. [初出の実例]「勾当一人米、弐斗」(出典:高野山文書‐応永二九年(1422)五月・和泉国近木庄年貢相折帳)

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改訂新版 世界大百科事典 「勾当」の意味・わかりやすい解説

勾当 (こうとう)

平安中期以降,朝廷諸官司,三位以上の家の侍所,寺院などに置かれた事務職員の呼称。もともとは官司や寺院で職員の一人に特定の任務をもっぱら担当させることを示す語であった。(1)官司 《西宮記》によれば大蔵省,宮内省,民部省などの諸司で勾当を置くところがあったという。これらの勾当に共通するのは,出納責任者という性格であろう。また楽所,施薬院,崇親院には別当の下に勾当が置かれており,内侍司(ないしのつかさ)の三等官掌侍の第1位を勾当内侍と呼び,記録所では上卿,弁,開闔(かいこう),寄人の職員のうち,弁を勾当と呼んだ。大宰府では〈蔵司勾当〉〈兵馬所勾当〉がみえ,10世紀前半の近江,伊勢,伊賀では,郡判に検校とならんで勾当がみえる。(2)家政機関 摂関家など三位以上の家に設けられた侍所(さむらいどころ)の職員に,別当,勾当,職事があり,摂関家侍所勾当は六位蔵人になる資格があった。また院中の雑事,御幸の供奉を務める院召次所には〈召次勾当〉があった。(3)寺院 平安時代に入って諸寺の寺院機構が整備されるなかで,三綱の下に勾当,専当,知事などの事務職員が政所によって補任されるようになる。東大寺の場合,10世紀初頭,三綱の一人を〈勾当職〉とし,修理を中心とする雑務を専任させたことにはじまり,11世紀中ごろまでの勾当は,おもに造東大寺司の封戸物返抄に,別当の下,専当・知事の上に署判している例が多い。11世紀後半以降の勾当は,修理所の用途注文に署判したり,寺領相論における公文所勘状,陳状に三綱とともに署判し,また政所の命によって文書出納や文書目録の作成を行い,あるいは寺領荘園の預所や検田使に任命されて寺領経営に直接関与することもあった。勾当は寺院機構のなかで,堂舎修造,寺院経済の運営に重要な役割を果たす役職だったのである。(4)盲官 検校につぐ盲官職(音楽,鍼,按摩などを職業とする盲人に与えられた官職名)に勾当がある。
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普及版 字通 「勾当」の読み・字形・画数・意味

【勾当】こうとう(たう)

担当する。唐・韓〔潮州に郷校を置くを請ふ牒〕趙秀才、沈專靜、頗(すこ)ぶる經にじ、り。~ふ、~衙推官と爲し、專ら州學を勾當し、以て生徒を督せしめん。

字通「勾」の項目を見る

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百科事典マイペディア 「勾当」の意味・わかりやすい解説

勾当【こうとう】

別当・専当(せんとう)などと同義で,専門の担当処理者をさす。官衙(かんが),寺院などの役職に多かった。内侍司(ないしのつかさ)の掌侍(ないしのじょう)中の首位のものを勾当内侍といい,大蔵省の率分所(りつぶんしょ)や大膳職(だいぜんしき),記録所,摂関家の侍所(さむらいどころ),真言宗・天台宗などの寺院にも勾当の職名がみえる。また,盲人の官名で,検校(けんぎょう)に次ぎ,座頭の上に位したものもいう。
→関連項目端唄

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「勾当」の意味・わかりやすい解説

勾当
こうとう

律令(りつりょう)制度の一職名。平安中期以降、民部省、大蔵省、大膳職(だいぜんしき)などの内にみえ、大宰府(だざいふ)管下の諸司、郡職員や摂関家政所(まんどころ)中にも勾当の職が存するが、いずれも中級職員で、ときとして正式職名と思えぬものもある。しかし諸大寺では三綱(さんごう)(上座、寺主、都維那(ついな))の下に置かれる例が多く、醍醐(だいご)寺、東大寺、高野山(こうやさん)などでは比較的高く位置づけられている。近世では盲人座頭(ざとう)に与えられる検校(けんぎょう)に次いで勾当の官位があり、前者が法印であるに対して、法眼(ほうげん)、法橋(ほっきょう)に準ぜられている。

[平井良朋]

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山川 日本史小辞典 改訂新版 「勾当」の解説

勾当
こうとう

諸司内の作業単位の統括官・責任者。平安中期以降に出現。民部省の廩院(りんいん)長殿勾当,大蔵省の正蔵率分所勾当,大膳職の調庸交易雑物勾当など,物品の出納にかかわるものがめだつが,ほかに楽所・記録所・院宮王臣家侍所や寺院などにもみられる。別当との違いは明らかでないが,他の官職との兼任的な色彩の強いものが別当,専任的で管理責任の大きいものが勾当とひとまず把握でき,両者が並存する場合には別当の下に勾当がおかれる例であった。勾当は盲官にもみられ,階級的には検校(けんぎょう)・別当・勾当・座頭(ざとう)の順になる。

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「勾当」の意味・わかりやすい解説

勾当
こうとう

中国に起り,日本で用いられた官職または階級名。 (1) 中世において,率分所,記録所,侍所,医院などで実務にあたる者。掌侍 (内侍) の第1に位するものは「勾当内侍」という。そのほか,関白家や,特に真言宗の大寺院などにおいて雑務を司る者をもいう。 (2) 盲人の自治組織である当道職屋敷の制度においては,検校,別当の次に位する盲官の名称。勾当になるのに 500両を要したという。

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世界大百科事典(旧版)内の勾当の言及

【執権】より

…本来は権力を握ること。職名としてはまず朝廷の記録所の勾当の別称。この制は1069年(延久1)の記録所の設置にさかのぼるが,勾当を執権と称したことが確認できるのは1186年(文治2)以後である。…

【当道】より

…その芸能が〈平曲〉としてとくに武家社会に享受され,室町幕府の庇護を受けるに及んで,平曲を語る芸能僧たちは宗教組織から離脱して自治的な職能集団を結成,宗教組織にとどまっていた盲僧と区別して,みずからを当道と呼称した。覚一(かくいち)検校(1300?‐71)の時代に至って,組織の体系化が行われ,当道に属する盲人を,検校勾当(こうとう),座頭などの官位に分かち,全体を職(しよく)または職検校が統括し,その居所である京都の職屋敷がその統括事務たる座務を行う場所となった。さらに,仁明天皇の皇子で盲人の人康(さねやす)親王を祖と仰ぐなどの権威づけを行い,治外法権的性格を持つに至った。…

【長橋局】より

…宮中に仕えた女官で,勾当内侍(こうとうのないし)の別称。清涼殿の東南隅から紫宸殿の御後(ごご)に通ずる細長い板の橋を長橋といい,そのそばに勾当内侍の局(つぼね)があったことからこの称が生まれた。…

【盲人】より

…この平曲の座は天夜尊(あまよのみこと)(仁明あるいは光孝天皇の皇子人康(さねやす)親王ともいう)を祖神とする由来を伝え,祖神にちなむ2月16日の積塔(しやくとう),6月19日の涼(すずみ)の塔に参集して祭祀を執行した。座内には総検校以下検校(けんぎよう),勾当(こうとう),座頭(ざとう)の階級があり,座衆は師匠の系譜によって一方(いちかた),城方(じようかた)の平曲2流に分かれていた。権門を本所(ほんじよ)として祭事を奉仕し,その裁判権に隷従するのは他の諸芸能の座と同様であるが,本所の庇護と座衆の強い結束によって彼らは諸国往来の自由を獲得し平曲上演の縄張を広げ,室町時代に平曲は最盛期を迎えた。…

※「勾当」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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