玉ノ井(読み)たまのい

改訂新版 世界大百科事典 「玉ノ井」の意味・わかりやすい解説

玉ノ井 (たまのい)

東京都墨田区北部,東向島4~6丁目の通称隅田川荒川放水路に囲まれた低地で,下町的な商工業地区。関東大震災後,私娼(ししよう)街となり,1958年の売春防止法実施まで,その名が知られた。尾崎士郎の《遠き跫音(あしおと)》,永井荷風の《濹東綺譚ぼくとうきだん)》などにもこの町の様子が描かれ,〈の井〉と略称された。東武伊勢崎線玉ノ井駅(現,東向島駅)があり,付近にはハギウメ名所向島百花園がある。
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百科事典マイペディア 「玉ノ井」の意味・わかりやすい解説

玉ノ井【たまのい】

東京都墨田区東向島5丁目付近の通名。かつての寺島7丁目で,昭和初期には私娼街として有名であった。現在は東武伊勢崎線東向島(旧玉ノ井)駅があり,商業・中小工場・住宅混合地区。
→関連項目【ぼく】東綺譚

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世界大百科事典(旧版)内の玉ノ井の言及

【切見世】より

…近世後期の江戸吉原における最下級の女郎屋。各所の岡場所にもあったもので,間口4.5~6尺,奥行2.5~3間の店が5~8軒,長屋形式で続いていたため,局見世(つぼねみせ)(局店),長屋ともいった。1軒1妓を原則とし,抱主は数軒を管理営業した。切(きり)とは時間売りの意で,一切(ひときり)100文が相場であった。この揚代は上級妓のそれの10分の1というものであったが,一切の時間の短いこともあって,その数倍を支払わさせることが多かったようである。…

【濹東綺譚】より

永井荷風の長編小説。1937年4月烏有堂(私家版)刊。同年4~6月,東京・大阪《朝日新聞》夕刊連載。同年8月岩波書店刊。それぞれ本文に差異がある。老作者〈わたくし〉(大江匡(ただす))は,小説の背景とすべき場所を探して散歩の途中,隅田川の向こう玉の井私娼街でそこの女お雪と知り合う。以後,彼女をたずねては休息かたがた娼家の新風俗を観察し,また昔を懐かしむ。お雪はそのうち彼を頼りにして自前になる夢をもち始め,彼のほうでは,過去に失敗の体験もあり,これ以上,深入りを避けることを決め,仲秋の明月の夜をきりに,ひそかに別れを告げ,もはや逢うことをやめるという筋。…

※「玉ノ井」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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