出典 平凡社「普及版 字通」普及版 字通について 情報
土器,陶器の器種名。古くカメと呼ばれた(《和名抄》)のは,ふくらんだ胴,あるいは丈高の胴のうえでいったんすぼまってから口にいたる形の〈瓶〉であって,むしろ壺に含まれる形の液体容器である。酒をいれて人に供するための瓶子(へいし)もその一種であり,現在の瓶(びん)が古称のカメの実体を伝えている。古くは,ミカ(記紀),モタヒ(《和名抄》),ユカ,サラケなどと呼ばれていた液体容器(おもに酒の)が,〈甕〉と表記されカメと呼ばれるようになったのは,中世以降のことである。これには,上記の壺の形の大型品と,頸(くび)がすぼまらず釣鐘を倒立させたように広口丈高なものとが含まれ,ともにやはり液体容器をさして今日にいたった。考古学では,縄文土器の倒鐘形のものを甕と呼んだこともある。しかし今ではこれを深鉢と呼ぶことが多い。弥生土器の研究では,貯蔵用の壺,盛りつけ用の鉢,高坏(たかつき)と並んで,倒鐘形の器を煮炊き用の器種として甕と呼んでいる。ただし,実際に火にかけたのは高さ15~25cm,容量2~7l内外の小・中型品であって,大型品は貯水用とみられる。また九州地方では高さ1m内外の特大品が,死者を葬る棺として使われた(甕棺(かめかん))。須恵器の甕は壺形の大型品をさし,液体容器である。中国の〈甕=瓮〉には倒鐘形のものと,短頸壺とが含まれている。古代ギリシアのピトスは大型の甕に相当し,また英語のjar,urnが甕に対応する。ただし後者は,とくに火葬骨収納用のものをさすことが多い。
執筆者:佐原 眞
西アジアの多くの遺跡では,土器出現の初期から,彩文土器と粗製土器の共存が明らかになっている。粗製土器の大部分は,煮炊きと貯蔵に使われたようである。大型の甕は,この粗製土器の系列に属する。大型の甕のなかには,深さ1~2mもあるものがみられる。この種の甕は土中に埋めこまれているものが多い。穀物の貯蔵に使用されたと考えられている。大型の甕が出現する前には,地中を掘りくぼめた穀物貯蔵用の穴がみられるからである。大型の甕は,穀物貯蔵以外にも水の容器として用いられ,西アジアなどの乾燥地域では,現在でも素焼きの水甕をしばしば見かける。この水甕を用いると,素焼きの肌に滲み出してくる水分が蒸発熱を奪うため,水を冷たく保つことができる。
執筆者:松原 正毅
甕は日本の民俗器具の中で,壺や瓶子とともに古くから用いられてきた。甕は酒や水,醬油などの液体を入れるほか,漬物用,穀物の貯蔵用など幅広い用途を持つが,農村でも都市でも20世紀の半ばまでは便所の溜め甕としても使われてきた。また太平洋岸の千葉県や茨城県の一部と,伊豆諸島の八丈島や青ヶ島,高知県,北九州の一部では死者を埋葬するとき,死体を甕に入れる風習があった。底に穴をあける形は伊豆諸島で確認されているが,これと先史時代の甕棺葬との関係は明確でない。瀬戸内海一帯や長崎県などで主として第2次大戦前まで活躍していた家船(えぶね)の人々は,出漁中に死者が出ると,死体を甕に入れて塩づけにし,檀那寺のある港まで運んでいた。また祭祀用に甕を用いるところは西日本の各地に見いだされる。たとえば島根県松江市の旧玉湯町玉造の荒神祭には,麴と粥を入れ,1年後に新しいものと入れかえる。これは年占(としうら)的性格を持つ。
執筆者:坪井 洋文
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
瓶とも書く。口が大きく底の深い陶磁器の容器で、古くは酒・しょうゆなど、後世は広く水を入れる容器として用いられた。普通、甕より口の小さい小形のものを壺(つぼ)という。ただし、考古学では、形の大小にかかわらず深くて口の大きな深鉢形土器を甕とする。甕は人類がつくった最初の土器とみられ、北方ユーラシアの漁猟民族の間では、尖底(せんてい)・円底の甕が広く分布し、煮炊き用の容器として、そのまま炉にかけて、鍋(なべ)・釜(かま)に利用された。日本でも縄文式土器は最初から深鉢形土器の甕が中心で、初め尖底・円底で、のちに平底ができた。口頸(こうけい)のつぼんだ壺形の出現は後期になってからである。弥生(やよい)式土器には貯蔵用は壺形、煮炊き用は甕形という二つの形式が並行して行われた。甕は古くはその用途・大きさによって、ユカ、ミカ、ホトギとよばれたが、ユカ(由加)は祭事に用い、ミカ(瓺)は主として酒を醸すために用いられ、これらはいずれも大甕が使用された。一方、ホトギ(缶)は小さな瓦器(がき)で、湯水などを入れるのに用いられた。甕は水・酒・酢・しょうゆ・油など液体飲料物の貯蔵・製造用具として使用されたが、塩・梅干し・漬物などの保存・加工用具のほか、藍(あい)汁・肥(こえ)だめの容器、また遺骸(いがい)を納める棺としても用いられた。しかし、鎌倉末期から室町時代にかけて桶結(おけゆい)技術が発達し、酒・油など液体の運搬・貯蔵に便利な桶・樽(たる)が出現するに及んで、重量が重く、かつ破損しやすい在来の甕・壺の類にとってかわり、甕はしだいに水の貯蔵など限られた範囲に使用されて近代に至った。現在では、さらに、ガラス、ほうろう、鉄器などの発達によって、甕の使用はほとんどみられなくなっている。
[宮本瑞夫]
土器や陶器製の容器。壺や瓶子(へいし)などとともに古くから使われていたが,酒などの液体容器を甕とよぶようになったのは中世以降のこと。液体のほか,穀物の貯蔵や漬物用などに幅広く用いられる。死体埋葬にも使われ,弥生時代に北九州地方で用いられた大型の甕棺が著名だが,民俗例では伊豆諸島の一部などで死体を甕にいれた例がある。
出典 山川出版社「山川 日本史小辞典 改訂新版」山川 日本史小辞典 改訂新版について 情報
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